豊中智樹はしたり顔 第9話『フェイクニュースにご用心!偽新聞部敗れたり!』後編


<校庭>

翌日早朝。
由北高校の校庭は連日騒がしい。
今日は朝っぱらから号外が撒かれる。

『フェイクニュースにご用心!偽新聞部敗れたり!』

しかし創立者の像に犯人の影も形もない。

<屋上>

高校校舎の屋上。
曇り空を背負い校庭を見下ろす男。豊中智樹。
その脇には生徒会長、早朝から駆り出され号外を撒く手伝いをさせられていた。

「本当にこんなので効果があるのか?」

文句を言う会長の腕はすでにパンパンになっている。

「うるせぇ!さっさと手を動かせってんだ!」

荒い口調で返すのは中庭に向かって同じく号外を撒く二階堂ユウゴ。
幼馴染の五代を病院送りにした真犯人を探すため捜査への協力を名乗り出た。

「ふふふ・・・もし犯人が俺の知る女なら、この挑発に乗ってくるはずだからな」
「あぁ!?犯人知ってんのかよ!」
「おまえさんの親友が教えてくれたのさ。まあ待ってな」

この直後豊中たちの後ろから鈴のような声が響く。

「ラーーーーーーーーー!!!!!!」

バチーーーーーン!!!

「「ぐぎゃぁあああああああああああ!!!」」

豊中たちの頭上を二人、出入り口の監視をしていた生徒指導部機動隊の隊員が飛び越え中庭へと落ちていく。

「おまえたちーーーー!!!」
「来やがったか!!??」

出入り口に視線を移す一同。
そこに立っていたのは短いスカート姿に学ランを羽織った女生徒。
ヘアピン二つで前髪を留めたショートヘアーから幼さが感じられるが、その顔は凛々しく整い大人びていた。
つまるところ印象が纏まらないアンバランスな少女である。

「安心なさい峰打ちよ」

偉そうな態度で女生徒は歩いてきた。

「・・・ずいぶん幼いな中等部の生徒か」
「んたこたぁどーでもいい!てめぇが五代の仇だな!?」

そんな二人に目もくれず、女生徒は豊中に一直線に向かってくる。

「やっぱり君か。お転婆は相変わらずかい」
「あんたこそ。偉そうな態度変わってないわね」

旧知の仲といわんばかりのやり取り。
そんな二人に割って入るのは怒りに燃える二階堂ユウゴ。

「おい!無視すんな!なんで五代をやりやがった!?ことと次第によっちゃ女子供だろうと容赦しねぇぞ!?」
「ガタガタうっさいわね。そいつの手伝いをしてやっただけよ。」
「わけわかんねぇこといってんじゃねぇぞ!」

肩を掴もうとした瞬間、女生徒の姿が二階堂の視界から消える。
眼にもとまらぬ素早さで屈んだのだ。
そして隙だらけの二階堂に一発!撃ち込まれるのは!

「ラーーーーーーーーーーーー!!!!」

”張り手”
下から掬い上げるようなその張り手は、かつて豊中が魅せた本物の張り手!

「ぐぎゃぁあああああ!!!」

カウンター気味に入れられた張り手の衝撃は二階堂の身体を天高く打ち上げる!

「二階堂!」

落ちてきた二階堂を生徒会長が受け止める。

「その気になれば心臓のひとつやふたつぶち抜くぐらいできたわよ、もっとも人殺しにはなりたくないけど。ねえ?智樹」
「馬鹿な、今のは・・・」
「おまえらじゃ無理だ下がってな。その娘の技は全部俺が仕込んだものだからな」

間合いに入った。
互いに自信に満ちた姿、どこか似た雰囲気の二人が向かい合う。

「この娘の名は『立花 瑠美』元新聞部部長『立花 武(たちばなたける)』の妹さんだ」
「元新聞部部長・・・」
「そう、あんたの親友『菊川 隼』に殺された武の妹よ」

記憶をたどる会長とユウゴ。
数か月前に聞いたことがある。
生徒同士喧嘩の末殺された生徒がいた。
それが確か『立花』だったと。

「あんたまだ探してんでしょ?いるわけない真犯人を」
「友達は信じるもんだ、そう教わらなかったか?」
「イラつくのよその態度!懲りずにまた仲間なんか作って!!そうやって現実から目を背けて!さっさと認めなさい!!」

ピョイと後ろに飛び間合いを取る瑠美。
屋上の空気がピンと張りつめる、二人の構えは全く同じ。
毎度おなじみ豊中の居合い。

・・・
     ・・・

曇り空の切れ間から一筋の光が屋上を照らした。

「ファーーーーーーーーーー!!!!!」
「ラーーーーーーーーーー!!!!」

同時、完全に同じタイミングで引き抜かれるベルト。
振りぬかれたベルトが勢いを失い撓垂れる。

ハラリ

暫しの静寂の後、瑠美の前髪が解けた。

「これだからあんたは・・・」

豊中のベルトの先には瑠美が付けていた二つのヘアピンがくっ付いていた。
居合いが交差したとき豊中がベルトを当て外していたのだ。

「これは前の誕生日に俺と菊で贈ったものだったな。君だって認めていないんだろう?先輩を殺した犯人は菊じゃない」

ヘアピンを投げて返す。

「俺は信じている。あいつらが殺し合いなんかするわけがないってな。だから瑠美ちゃん君も信じてくれ」
「・・・ちっ、わかったわよ。猶予をあげる。私が入学するまでにお兄ちゃんを殺した犯人を捜しなさい」

瑠美はベルトを収め屋上のフチに足をかける。

「ああそうそう、あんたたち・・・その悪かったわね、友達を傷つけて。それじゃ」

振り返ることなくそうつぶやき屋上から飛び降りた。

「なっ!ここを何階だと思っているんだ!?」

二階堂を放り出し会長は屋上から下を見下ろすが、そこには人の気配もない静寂が広がっていた。

「この程度で死にはしないさ」
「ま、まあ確かにおまえの弟子ならな」
「それよりも」

会長と二階堂に姿勢を正し頭を下げる豊中。
今まで一度たりとも観たことがない姿に会長は今日一番の驚きを見せる。

「あの娘を許してやれとは言わん、罰も与える、だが彼女も大切な人を失くした人間だとわかってやってくれ」
「え?え、あ、ああ。解決したなら俺も生徒会も一向に構わんが」

会長の個人としても生徒会という組織としても学園の平和のためなら命を懸けることなど厭わない。
これで平穏が戻るのなら文句はないのだが、ここで気になるのは部外者であり完全な被害者、二階堂ユウゴの反応である。

「・・・大切な人か、だーっもうわぁったよ!五代もきっと許すだろうしな!しゃーなしだしゃーなし!」
「ほう、やけに素直じゃないか。もしかして惚れたか?」
「ははっやめておけ、ありゃとんだ跳ねっ返りだぞ」
「ばばば馬鹿いってんじゃねぇぞ!!おめぇら!!!」

ユウゴに肩を貸し豊中たちは屋上を後にする。

「それで、ショートが好みなのか?それとも殴られるのがいいのか?」
「いや子供っぽいのがいいのかもしれないぞ?」
「だ~か~ら~な~!!!!」

豊中は隣から聞こえる笑い声を噛みしめ微笑む。
今そばにいる仲間もかつての仲間も豊中にとってはかけがえのない宝なのだ。

次回

『バックナンバー 2月2日』

豊中の真似は危険なので絶対にしないでくださいね。

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