豊中智樹はしたり顔 第6話 『新幹線ハイジャック!青函トンネル危機一髪!』後編
<新幹線>
あれから30分、いつのまにか電車は目的の新・青函トンネルに突入していた。
新・青函トンネルの目玉は海底を観察できる窓だが、御想像の通り海は暗くほぼ何も見えない。
トンネル内部の無機質な照明と時折窓の外で動く何かが不気味な雰囲気を醸し出すだけである。
「何か手がかりは?」
「ダメだゴミ箱の中から女子トイレまで調べたが犯人らしき奴はいなかった」
「女・・?まあいいや俺も運転席隅から隅まで調べたけどよ、人が隠れるスペースなんかありゃしねぇよ」
「もう一度探すか?それか乗客全員を尋問するか」
「いや、まだ探してない場所がある」
<新幹線 屋根>
時速300キロで走る新幹線の上、その凄まじい風圧は想像するまでもない。
一般人では歩くことはおろか立つことすらできないが、豊中は当然平気だ。
GATAAAAN
GOTOOON
GATAAAANNN!
GOTOOOOOOON!!!!!
トンネル内を反響する走行音と迫りくる風を肩で切りながら先頭車両へと進む。
先頭車両、運転席の真上。
何かうごめく巨大な塊があった。
「とうぁっ!!!!!」
先手必勝!
繰り出すのは毎度おなじみ豊中キック!
数々の強敵を葬った飛び蹴り、必殺の豊中キックが炸裂する!だが!
BOYOOOOOOOOON
豊中キックの衝撃は恐ろしいほどの弾力に飲まれ無力化される。
「おいおいこいつぁ」
豊中の前に立ちはだかるのはあらゆる衝撃を無効化する特大の脂肪の持ち主。
相撲部を超える巨体の男。
そこにいたのは由北高校鉄道研究部部長「枕木 のぞむ」その人である。
「暴力反対反対、新幹線での暴力はご法度だよ」
「テロリスト雇ってた人間のセリフじゃねぇな。目的はなんだ」
「新幹線っていいよね。地上最速の生き物になった気分になれるんだ。」
「その体じゃ走れないだろうからな、速く走りたきゃ努力しろ」
「ブホホオホホホオホコポォ新幹線は僕の一部だよぉ。今から僕は新幹線と一つになるんだ。線路なんか関係ない。日本の果てまで走って行って新幹線と心中するのさ」
「・・・そんなこ「話が違うじゃぁないか!!」
先に怒鳴り声をあげたのは後から追いついたミリタリー同好会会長サイレンス。
「この新・青函トンネルの隠し通路を使って俺たちをロシアまで連れて行ってくれる約束だっただろ!俺たちを本物の傭兵にしてくれるんだろ!?」
「ブホッホッホホホホホ!!そんなトンネルなんかあるわけないじゃぁ~ないの、おたく義務教育受けてるぅ?」
「貴様ぁあぁああああああああああ」
GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAN!!!!!
豊中を押しのけアサルトライフルを撃つが相手は豊中キックが効かないほどの猛者。
豆鉄砲などへのかっぱ。
「畜生!化け物め!!」
「頭悪いなぁ、偏差値低いでしょきみぃい」
全身に力を籠め、身体にめり込んだ特殊ゴム弾をサイレンス目掛けて散弾が如く開放する。
「ぐええええええええ」
新幹線上での転倒は死を意味する。
風圧に吹き飛ばされ線路に落ちれば如何に頑丈な由北高校の生徒といえどもひとたまりもない。
シャアアアアアアアア!!!
豊中が引き抜いたベルトが吹き飛ばされたサイレンスの足に絡まる。
「会長!そのベルトを頼む」
ドアから半身を出して事を見守る会長にベルトとサイレンスを託し、豊中は再びのぞむと対峙した。
「君の必殺キックも効かない武器もない、何ができるんだい?新聞部」
「武器ならあるさ、おまえが持ってないとびっきりのがな」
「君も頭が悪いのかな、僕はねここから歩いて君を下車させるだけでいいんだ、ほうらこうやって。ほうらほうら。」
じわりじわり、のぞむが迫りくる。
「梅ちゃんはまだ運転席か」
「?どどどうしたのかな」
「いきなり何を・・・そっそうか!」
生徒会長は豊中の意図を即座に理解し梅ちゃんに電話をかけた。
「タイミングは任せるぜ」
「さぁっきからぶつぶつぶつぶつ壊れちゃった?」
『3』
「梅澤!ブレーキだ!」
『2』
「んだい、いきなり。さてはブレーキに紛れて尻か胸を触る気かい?むっつりだもんなあんたさっきの女子トイレも」
「うるさい!いいからブレーキだ!おまえ免許持ってるだろ!!!」
『1』
「原付の免許しかねぇんだけどなぁ俺ぁ」
STOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOP!!!!!!!
急ブレーキ。
「ほわぁ!」
ふわり、突然のブレーキによりバランスを崩したのぞむの身体は宙に浮く。
豊中はその隙を見逃さない。
「ファーーーーーーーーーー!!!!!」
懐に飛び込み両足でのぞむの身体を蹴り上げる。
「だからこの体に打撃は効かないっててててててててててててて!!!!!!!!」
全身を襲う電撃!!!!
そう!豊中の狙いはただひとつ!!!
『パンタグラフ』
頭上のパンタグラフに押し付けられたのぞむの身体に1.21ジゴワットの電撃が駆け巡る!
「ぐええええええええ!!!!!」
ビターーーーーン!
巨体が車体に落ちると同時に新幹線は新・青函トンネルを抜けた。
カッ
北海道の太陽は豊中たちの勝利を祝福するかのように照らす。
<<<<<< 由北高校 鉄道研究部部長 枕木 のぞむ >>>>>>
<<<<< 完 全 撃 破 >>>>>
<ホテル>
修学旅行2日目。ホテルのロビーにある掲示板に一枚の学級新聞が勝手に貼られていた。
『新幹線ハイジャック!青函トンネル危機一髪!』
「あいつ印刷機とか持ち歩いてんのか?」
「いや、昨日の晩ロビーのコピー機使っていたぞ」
「仕事熱心だねぇ・・・」
鉄道研究部及びミリタリー同好会は旅行中ホテル内で謹慎処分となった。
次回
『わいらはなにわのバンクシー!偽装通貨流出事件!』
豊中の真似は危険なので絶対にしないでね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?