豊中智樹はしたり顔 第11話『ここは地獄のラスベガス!やくざ者の甘い汁!』後編

<将棋部 賭場>


「おうおうおうおうこれイカサマだろうがさっきからよぉ!」

畳の上で怒鳴り声をあげる一人の老人。
南野は彼のことを知っていた。
由北高校の闇市を仕切る超留年高校三年生西。
直接の面識はなかったがこの学校の裏社会では有名人だ。

「なにか家の者が粗相を?」
「粗相だぁ?イカサマしてんだこいつがぁ!ありえねぇだろ8回連続ピンゾロなんかよぉ!」
      チガイマスヨー
「はあ」

そんなことか、西ほどの男がいったい何を騒いでいるかと思えば。

「イカサマなんかしちゃいないんだがね、まあいいや。そんなに言うならさ、この丁半あんたが振りなよ」

そう言いながらツボとサイを手渡す。

「あんたも勝負してくれたらいいからさ」
「へぇ、素直じゃねぇか。じゃあ遊ばせてもらおうかい」
「この業界じゃ信用が一番だからよ、つっても悪党しか来ねぇのに信用ってのも変な話だよな」

黙ってじっくりと手渡されたサイとツボを調べる西。

「・・・運ってのはさ廻ってくるんだよ。だからあんたもこっからツキまくるかもよ」

畳の下に控えた部下に聞こえるように話す。
そう、当然ながらイカサマはしている。
部室に敷かれた畳は全て反対側から丸見えのマジックミラー畳にされており、その下に潜り込んだ部下が磁石で鉄を仕込んだ特製のサイコロを操るカラクリだ。

「賽の目サブロクで入ります、はい!」

適当に勝たせて帰ってもらおう。
彼を怒らせたら闇市や講堂の連中を使って何をしてくるかわからない。
小遣いを握らせて事が収まるなら安いものだ、そう考えていた。

「さあ張った張った!」

チョウ!!     ハン!

  ・・・オマエガイカサマシテンジャネーカ? 

トヨナカトモキ!    チョウチョウチョウチョウチュオウ!!

「丁半コマ出揃いました」

西もコマと呼ばれる木札を丁に賭け、周囲を見渡す。

「「勝負!!」」

BAKOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNN!!!!!

掛け声とともに畳が吹き上がり花弁が如く木札が宙を舞う。
賭場に歌舞く大輪の花、漢の名は皆様ご存じこの漢。

「二手目は△9四歩だったか?」

「「「「「げぇええええええ!豊中智樹!!!!」」」」」

鳴り物入りの登場に豊中智樹はしたり顔。

「よう西さん真昼間っから元気でいいこった」
「へん、この歳になると遊ぶぐらいしかやることなくなるんだよ。でも・・・」

豊中がぶち開けた大穴を覗く。
その下でイカサマ担当の部員がのびていた。

「盛り場は選んだ方がいいかもしれねぇや」
「・・・奥さんには黙っとくよ」

世間話は早々にキッと騒動の犯人を睨みつける。

「江仁熊は無関係のはずだがお構いなしってかい?将棋部部長南野」
「怒らせて冷静な判断はさせなくするのは兵法の基本さ。おいらとしちゃけっこう本気で殺しに行ったつもりなんだけど」

あくまで自分のペースを崩さない喋り方。
心の余裕か器のでかさか不気味な雰囲気を纏う。

「あんたの代わりに号外も用意したんだぜ?『南野軍団新聞部襲撃』ってさ。無駄になっちったけど」
「将棋部の恨みを買った覚えはないが」
「ああそうさおいらにゃ恨みはねぇ、ただ上の奴がさあんたのこと目障りだって言うんだよ」
「上?」
「おかげさまでシノギが減ったんだよ。野球簿とラグビー部潰してくれただろ?スポーツ賭博も出来なくなっちまった。相撲部もだっけ?」
「賭博だと?」

野球部・ラグビー部・相撲部何れも新聞部が取材をした運動部だ。

「作らせてた偽札工房も密輸業者も・・・あとは囲ってたチンピラもいくつかまああいつらはいいや」

美術部・生物部彼ら文化部も嘗て取材した相手。

「まさか鉄道研究部も貴様の傘下か」
「いやぁあいつらは違うよ。売った覚えがないチャカ持ってたからびっくりしたよね」
「ならば学園を北朝鮮に売り飛ばそうとしていたゴルフ部は!?」
「なにそれ?そんな奴いたの?」

悪党全てが彼らの傘下ではなかったようだ。

「でもおいらがここにいるってことはさ、あんたが防いでくれたんだろ?へへ、感謝だね」

まるで友人と話すかのように南野は嗤う。

「さっき売った覚えがないチャカと言ったな?それに刺客が持っていた銃・・・この学園に銃を持ち込んだのは貴様か!?」
「そうだよ。うちのシノギは賭博と密輸。オヤジの力で密輸した銃売ってんの。ほらうちのオヤジヤクザだから」
「2月2日この学園で起こった殺人事件を追っている。凶器の銃は貴様が売ったもので間違いないな?」

声から徐々に余裕が消える。
追っていた真犯人の手がかりを前に怒り・殺意・狂喜・安堵様々な感情が入り混じっていた。

「なあ。ひとつ聞いていいかい?」
「なんだ」
「さっきから聞いてりゃあんたおいらが犯人じゃない前提で話してるじゃない。確かに犯人じゃないし、そんな事件そもそも知らないけどなんか根拠あんのかい?」
「おまえみたいな小物に先輩は殺せないさ」
「あぁ?」

POW!POW!POW!POW!

ワーーーーーーー     ナンダテメエラ!!!

    ワーーーーーーー

ガヤガヤガヤ    チャカモッテコイ!!

DOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONN!!!!

生徒指導部機動隊だ。
南野と豊中実質二人の舞台に銃声と怒号の色を添える。

「全員動くなぁ!!!!!生徒会だ!」

機動隊は次々賭場の客を座らせ両手を頭の後ろに添えさせた。
将棋部の部員から多少の反撃はあったものの、やはり武装を整えた機動隊。
ヤクザ崩れの部員も瞬く間に鎮圧してしまう。

「貴様ら神聖な学園で賭博など・・・豊中?おまえまた先に」
「会長すまない話は後にしてくれ」
「今日はえらくお客さんが多い日じゃねぇかええ?」

PAAAAAN!!!!

発砲。
掲げた拳銃から天井に向かって一発、雑音を殺すための弾が放たれた。

「やっぱビビらねぇよなぁこれじゃ」
「おまえが銃を売った客の名簿そして上の奴とやらについて詳しく聞かせてもらおうじゃないか」
「信用が大事っつったろぉ!客商売なんだよこちとら!教えるわけねぇだろバカヤロウ!!」
「イカサマ賭博屋がよく言う」

豊中に向けられた銃口と怒りの表情。
だがその顔がみるみるうちに変わる。

「そんな・・・なんでおまえが・・・まさか俺を消しにきたのか!?この俺をを!!!!」

こちらを見ているのかと思ったがその目線は豊中の後ろを見ていたようだ。
そのまま何かに怯えながら拳銃を虚空に向かって撃つ。

「?こいついったい何いってるんだ」
「おめぇらすぐに布で口塞げぇ!!このガスはマズい!!絶対に吸うんじゃねぇぞ!」

座る客の中から声がする。
頭の後ろに手を回し律儀に座っていた西だ。
いつの間にか教室に漂う独特の匂いに気が付いていた。

「これは俺が作ったヒロポンガスだ!これを吸ってそいつは幻覚を見てやがる!おまえらも早く!鼻と口塞ぐんだよ!」


ヒイイイイイイイイイ!!! ウワァアアアアアアア

 クルナァクルナァ!!

オカーーーーーチャーーーン!! ムシガ!ムシガ!ハッテル!!


咄嗟に豊中は手にした将棋盤を投げつけ窓を割り換気を試みる。
室内に空気の流れができ、ガスが外に出るようにはなったが今更中の状況はそう変わらない。

「来るな来るな!!」

風の流れに煽られフラリフラリ自我を失くした南野が歩いていき・・・

ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!

窓の外、日中でも薄暗い由北高校裏山の闇に消えた。

「馬鹿な!ここは五階だぞ!」
「由北の生徒はその程度で死なん!それより今はガスだ!伏せろ会長!」

ベルトを引き抜き勢いよくその場で回転する豊中。

「ファーーーーーーーーー!!!!」

グォォオオオオオオオオオオオ!!!

猛烈な勢いで回転し部屋中のガスを外に排斥する。

ピタッ

排他的な嵐が止んだ。
豊中は窓の下を見渡し誰もいないことを確認してから何事もなかったかのように部長の机を漁る。

「相変わらずめちゃくちゃな奴だ。それで捜査部を派遣するか?」
「いや、南野もガスを撒いたやつもどこかに行ったよ。それよりも救助隊を呼んでやってくれ」
「あ、ああ、そうだな」

辺りには豊中大回転に巻き込まれた部員・客・西・機動隊が風圧で壁という壁に叩きつけられうめき声をあげていた。

「それから新聞部の近くに江仁熊がいるはずだ、彼も病院に」
「また何かに巻き込まれたのかあいつ・・・」

程なくして、生徒指導部レスキュー班と応援がやってくる。
現場検証のためと外に出る会長と豊中。
机の上に顧客名簿と鳩のエンブレムがついたバッジが並んでいた。


<職員室>

翌日

バァアアアアアン!!!

「いったいどうなっているんですか!!!!!」

勢いよく叩かれた机、その持ち主は由北高校社会科教師諸葛亮!
あだ名は!
孔明!!

「落ち着きなさい城田君。会議の結果ですよ、彼も教職員の間で以前から問題になっていましてね」
「だからといって懲罰棟行きだなんて!」

由北高校懲罰棟!
遠方から通う生徒のため用意された寮が並ぶ団地を抜けた先にある、不良生徒を更生させるための施設。
一度収監されたが最期、卒業まで出ることはできないとされている脱獄不能の絶対監獄!!

「確かに暴行や器物損壊、言い逃れはできませんが・・・まさか豊中が言っていた上の奴、先代新聞部殺害を隠蔽した犯人と関係が!!?」

激昂する会長の視界の端。窓の外に何か動くものが見えた。

「ここは職員室ですよ静かにしなさい。もう決まったことです。彼は私が確かに収監しました」
「・・・っ!!」

チラリチラリ白い何かが動いているように見える。

「それはそうと城田君。この歳になると物忘れがひどくなりましてね」
「?」

気のせいではない。先ほどから窓の外、確かに何かが舞っている。

「はてさて出かけるとき家の鍵をかけましたかな?思えばガスも切り忘れたかも」
「先生まさか」

その正体は号外!!新聞部名物!!!

『ここは地獄のラスベガス!やくざ者の甘い汁!』

「はは・・・悪い人だあんた」
「これ!教師をあんた呼ばわりとはまったくけしからん・・・ほら話は終わりです行きなさい」

頭を下げ職員室を後にする。だがその足取りは来た時と違って軽い。

「誤魔化せても2日・・・それだけあれば十分ですか、ふふ」

孔明は若い背中を見送った。


次回
 
 『友よ見てくれ大団円!!悪の悲鳴は地獄節!!』

豊中の真似は危険なので絶対にしないでくださいね。

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