豊中智樹はしたり顔 第5話『電気ウナギは虎の夢を見るか!?』前編
街外れの山の上、そこにぽつりと建つ学校!
『由北高校』
部室棟二階の一番奥、彼はいつもそこに居る!
彼こそがこの物語の主人公!
その名を 「豊中 智樹」(とよなか ともき)
新聞部部長!豊中智樹の体当たり取材が今始まる!
第5話
電気ウナギは虎の夢を見るか!?
<闇市>
アルセーヌ・立山の事件から2週間。
連続電撃カツアゲ犯の行方はいまだ手がかり一つ見つからないのであった。
「なあ豊中、こういってはなんだが、やはりあの記事は失敗だったんじゃないのか?」
歩きながら問う生徒会長。
前回の号外以降犯人は警戒しているのかカツアゲ事件がピタリとやんだ。
生徒の安全を第一に考える生徒会長としては喜ばしいことだが、犯人が捕まらないことには気は休まらない。
「はたしてそうかな?よう梅ちゃん今日も3本くれよ」
梅ちゃんと呼ばれた屋台の男。
『寿司の梅澤』の跡取り息子は闇市で一番の屋台『蒲焼梅ちゃん』の店主として将来のため修行している。
「はいよ!3本ね!」
「お?どうした、今日は素直に3本くれるんだな」
「最近ずっと来てた生物部の奴が捕りに来なくなってさ。そこの川でいっぱい釣れるようになったんでい。あいつ何だったんだか」
「待て待て待て」
割って入る生徒会長は焦り気味だ。
「おまえまさかこの鰻そこの溝川で釣ってるのか!?」
由北高校の敷地内には小さな川が流れている。
食堂と校舎の間に流れる川は、うねりうねってこの屋台のすぐ裏を通り山を下って街まで繋がっている。
「溝とは失礼なやっちゃ、まあそうだよ、この電気鰻はそこで釣ってるのよ」
「電気鰻・・・?くっ食えるのか?食って大丈夫なのか?」
「確かに、俺も高ぇもんは粗方食ってきたと思ったが電気鰻なんかお目にかかったことがねぇな」
「なんでぇ今更、電気鰻もちゃんと処理すりゃ食えるよ。なんで市場に出回らないかというとっと」
梅ちゃんは素手で電気鰻を掴みまな板に乗せる。
「よく見てなよ」
電気鰻の頭に目打ちを打ち込んだ次の瞬間!
カッ!!
強烈な光が会長と豊中を襲う。
「うわっ!なんだ今のは」
「電気鰻は死ぬ瞬間強力な電撃を放つのさ、そいつを処理できる職人がいないから滅多に出回らないってことよ」
「職人がいない?」
「ああ、俺以外はな」
鉢巻きを締めなおし決め顔の梅ちゃん。
「ヒュ~(口笛)十八番を盗られちまった。さっ行こうぜ会長」
蒲焼をかぶりながら歩きだす豊中。
支払いを終え、豊中に追いつく会長。
「どこへ行く」
「決まってるだろ、電撃カツアゲ犯の所さ」
<生物部部室前>
科学系の部室は全て実験棟の実験室にそれぞれ併設されている。
3階奥生物実験室の前には豊中と生徒会長。
「生物部が犯人だと最初から分かっていたのか?」
「まさか、こいつは梅ちゃんのお手柄だよ」
「生徒指導部は運動部鎮圧に出払っていて加勢には来られない、何かあったらすぐ逃げるぞ。いいな?」
「あんな木偶の坊どもが役に立ったことがあるかよ」
ドアに手をかける。
「さあ蛇が出るか鰻が出るか」
照明の消えた部室。
飼育している生き物のためだろう温度が管理されているのか蒸し暑さがねっとりと絡みつく。
部室には人の気配はなく薄暗い中水槽のブラックライトがただ妖しく光っていた。
「生徒会だ!部長に話がある!誰かいないのか!?」
部屋の中央に怒鳴りながら進む生徒会長。
バチィィィィンン
静寂を打ち破る轟音の後生徒会長が崩れ落ちる。
「よしよしよしよぉしよしよし、いい子だから静かにしようねぇ」
猫なで声と共に水槽の裏からぬるり。
細長い白衣の男が現れたではありませんか。
そう彼こそが。
「おまえが生物部部長『ヨツゴロウ』だな?」
「そういう君は豊中智樹」
「・・・学者様は礼儀を知らねぇみたいだ」
生徒会長の脈を測る。気を失っているだけだ。
「ごめんねぇ、でも急に大きな声を出したらこの子達がびっくりしちゃうじゃないかぁ・・・」
ヨツゴロウは照明のダイヤルを回す。ゆっくりと部室が明るくなった、
ヨツゴロウの白衣の下に何かが動くのが見えるほどに。
「一瞬で人を昏睡させるこの手口やはり貴様か」
「はははははぁぁぁぁ・・・新聞が出回った時からぁ時間の問題かと覚悟はしてたけどねぇもしかしたらと逃げたかったけどねぇ!!!」
シャァツ!!
ヨツゴロウは白衣の袖から触手を飛ばす!
だがその程度の不意打ちは、豊中智樹にゃなんのその。
引き抜いたベルトを鞭のようにえいやと触手を弾く。
バチィ!
弾かれた触手が水槽に当たると同時に強烈な光を放つ。
ぼとりと落ちたこれこそが今回の連続電撃カツアゲ事件の凶器!電気鰻!
「かわいそうにぃぃ君が避けるから死んじゃったじゃないかぁぁぁ僕のうなぎぃぃぃぃ」
叫びながら右手左手の袖から次々に電気鰻を射出するヨツゴロウ。
ベルトを振り回し応戦する豊中だが徐々に追い詰められそして!
電気鰻が豊中の腕に!胴に!喰らいつく
「終わりだ豊中智樹!1.21ギガワットを喰らえぃ!!」
バリバリバリバリバリ
1.21ギガワットの電流が豊中の全身を駆け巡る。
バババババババババババババ
身体から煙が上げながらも豊中智樹はその膝をつくことはない、そればかりか不敵に笑う。
「ふふふちょうど肩が凝っててなぁ整体に行く手間が省けたよ」
「僕の電撃を喰らって気を失わなかったのは君がはじめてだ、褒めてあげましょうねぇ」
負けじとヨツゴロウも笑い。
「でもやせ我慢はよくないねぇ。君一歩も動けないんだろう、服の上からでも筋肉の動きでわかるよぉ」
ヨツゴロウは生物の観察にその人生の半分をささげた男、筋肉を見ただけで生き物の状態がわかる。
実際豊中は動けなかった、いくら身体に命令しようということを聞かないのだ。
「さてぇトドメと行きたいけど僕はこれから麻雀の約束があるんだ、だからぁ」
パチン
ヨツゴロウが指を鳴らすと天井が開き大きな檻が下りてきた。
「ミケとタマが相手をしてくれるよぉぉ」
檻が下りきり扉が開く、檻の中にはなんと二頭の巨大な人食いトラがいるではありませんか。
グルルルルルルルルルルルゥゥゥゥ
トラァァアアアアアアアアアアア
「さあミケ、タマぁお兄ちゃんたちに遊んでもらいなぁ」
ヨツゴロウは振り返ることなく部屋を後にした。
つづく
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