豊中智樹はしたり顔 第12話『友よ見てくれ大団円!!悪の悲鳴は地獄節!!』前編

街外れの山の上、そこにぽつりと建つ学校!

      『由北高校』

 部室棟二階の一番奥、彼はいつもそこに居る!

   彼こそがこの物語の主人公!
  その名を 「豊中 智樹」(とよなか ともき)

新聞部部長!豊中智樹の体当たり取材が今始まる!

第12話

『友よ見てくれ大団円!!悪の悲鳴は地獄節!!』

<迎賓館>

由北高校迎賓館。
日本有数の大企業や政治家のボンボンが多く通うこの学校。
授業参観等各種イベントでやってくる彼らの父兄を迎え入れるため建てられた施設である。
敷地内のラウンジ・図書館、様々な建物を設計した海外の建築家ヌランク・ロードが最期に造った作品だ。
その卓越したセンスと晩年からくる経験値を兼ね備えた究極の一作。
しかしこの建物が迎賓館として本来の役割を果たすことは少ない。
普段は上級国民のボンボンが集まる”たまり場”と化してしまっている。
そんな由北高校迎賓館の門を一人、場違いな客が叩く。

「ごめんくださーい!農園部ですー!どなたかいらっしゃいませんかー?」

リヤカーいっぱいの黒薔薇を引っ張る彼女は由北高校農園部部長の農園花子。
農園部はこうやって出来た花や作物をいろんなところに届けている。

OPEEEEEEEEEEEEEEEN

自動で門、そしてその先玄関の戸が開く。

「あら驚いたわね、それにしても広いお屋敷」

照明が消え薄暗い吹き抜けの玄関ホール。
正面には巨大な階段、踊り場から左右に分かれ二階に繋がる。
幅の広い階段と吹き抜けのおかげで本来ならばかなり広いはずのホールだがどこか狭く息苦しい。
無駄なものが多いのだ。
天井のシャンデリアや階段上の等身大キリスト像、柱ごとに置かれた江戸切子の花瓶。
モダンな内装からは考えられないほどチグハグなインテリアの数々はここをたまり場にする歴代のボンボンが置いて行ったもの。

「ここに飾るのかしら悪趣味ですこと、すぅ・・・ごめんくださーーーーーい!!!!」
「やっかましーーーーーーーーーい!!」

間の抜けた、それでいて無駄に大きな声が返ってきた。

「もっとスマートにできないのーー???庶っ民はさーーーー」

声の勢いとは裏腹にゆっくりとした足取りで階段を下りる小太りの男。

「ここはねーー僕みたいなオッシャレィな上級国民専用のラウンジなんだよ!おまえみたいな俗物が騒いでいい場所じゃないのわかる!?!?」
「はあ、ごめんなさいね。そんな大きな声で言われなくても聞こえますよ、ほほほ」
「ぐぬぬ・・・もういいよ、それで注文した黒バラは?その小汚いリヤカーの中?」
「ええ急に連絡が来たときはびっくりしましたけど、ちょうど植えていたもので」

返事も聞かずにリヤカーの黒薔薇に手を突っ込み漁りだす。

「まあお下品、そんなに薔薇がお好きで?人は見かけによらないわね」
「・・・おいおまえ。黒バラはどこだ?」
「今触っているじゃないですか。それでお代ですけれど」
「んーーー!!!バッカモーーーン!!黒バラと言ったら麻薬の隠語でしょーが!あったま悪いなぁあったま悪いなぁ!!」

突然興奮する小太り。

「え?麻薬?そんなもの・・・それでお代は?」
「んもーーーう!そんなの最初から払うわけないでしょぉ!?上級国民はお金なんか払わないの!おまえなんか下級貧民に!One for me All for me!」
「まぁ貧民だなんて失礼しちゃう」
「そうじゃなくってはい!僕命令する側おまえ聞く側!黙って言うこと聞く!いいね!?」

流れるように尻のポケットから何かを取り出した。
拳銃だ。

「お代がいただけないようでしたら警察に・・・」
「これが見えないのぉ!?拳銃がぁ!?いいよ!いけよ警察!僕が言ったらおまえのタレコミなんか消せるんだよ!」

PAN!PAN!PAN!PAN!

手足をばたつかせながら拳銃を四発天井に向かって発射する。

「あったま悪い庶っ民は僕の顔を知らないだろうから教えてあげる。僕は豆山ルピ夫・・・現内閣総理大臣の孫だぁ!!!!!」
「はあ」
「だから尊敬して跪けよこの下人!!」

ルピ夫は銃を花子の頭に向け・・・

SNAAAAAAAAAAAAAAAAAP!!!!

玄関ホールに轟く轟音。
銃声か?いいやこの音は。

シャッター音。

「総理大臣の孫がずいぶん尻の穴の小さいことするじゃないか」

どこからか声がする。

「なんだ!誰だ今撮ったのは!?」

誰もがみんな知っている。

「この声は・・・」

BAAAANNNN!!!

階段上のキリスト像が飛び上がり黒薔薇を積んだリヤカーを踏み潰す!
顔に施された特殊メイクを剥ぎ取りしたり顔を晒すのは皆様お待ちかね!
みんなのヒーロー!豊中智樹!!!

「豊中さん!」
「やあ花子さん。奇遇ですね」

豊中着地の衝撃で階段前まで転がっていた豆山がむくりと起き上がり一発。

PAN!!

しかしそんな体制で撃つ弾が当たるはずもない。
二人の注意を惹く号令となっただけだ。

「ぐぎぎぎぎぎ!!いったい何者ぉ!!??」
「・・・俺を覚えていないか。俺の名は豊中智樹、新聞部の部長だ」
「なにぃ新聞部ぅ?おまえらは学習しないなぁ!底辺文屋の蛆虫どもがぁ!!」

豊中の顔からいつも浮かべる余裕の笑みが消える。

「やはり貴様が・・・2月2日!新聞部立花を殺し!副部長菊川にその罪を着せ、誇りを汚したのは貴様だな!!!??」

その怒りに満ちた顔はまさに復讐の鬼。心に宿した復讐の風が熱く吹き荒れる。

「ああそうさ新聞部は邪魔だったからねぇ。南野くんが動いて僕が揉み消す最強の政策だったのに。あいつら何が気に入らないのか不正の証拠なんか集めちゃって迷惑だったのよ」
「・・・よくも自分の都合だけでぬけぬけと」
「まあ何を集めても僕が言ったら消せるんだけどね。でもうろちょろ鬱陶しいからストレス発散のために呼び出してね?ガス吸わせて朦朧としたところを撃ち殺して菊川に銃を握らせたの」
「・・・」
「ぷぷぷ、本気の僕に勝てるわけないのに。今頃刑務所で後悔してるんじゃない?菊川君も」

眼の前で嗤う男がいる。
友を殺し、友の誇りを汚した男がいる。
豊中はその男の姿を眼に焼き付けていた。

「なんだいさっきから人に聞いといてだんまりかい?それとも怖くなった?だよねぇ僕すごいもん」
「よぉく覚えておこうと思ってな、全ての元凶。これから菊川の代わりに刑務所に行く男の顔をな」
「ばっかだなぁ!いい?君は僕に勝てないの。ペンは権力より弱いの。もちろん銃にも!!」

PAN!
               PAN!

豆山が豊中目掛けて銃を撃つが、本気の豊中には止まった豆鉄砲同然。
花子を抱きかかえ後ろに飛びのく。

「なんで避けるんだよぉ!僕が撃ったら死ぬの!常識だよ!?なんでわからないかなぁ!?」

喚く豆山を余所に豊中はさっき撃たれた銃の軌跡を思い出す。
豊中目掛けて飛んできた銃弾は・・・二つ。
豆山が持つ銃の装弾数は六発。これまでに五発撃っていたから残りは一発、間違いない、もう一人いる!

「ははっやっぱりそう来なくっちゃなぁ豊中智樹は」

正面階段左手。
闇からギラリ銃口を輝かせ笑う男。
豊中は彼を知っている。

「えらくタフじゃないか・・・南野」

それは校舎の窓から落ちた将棋部部長南野だった。


由北高校迎賓館に集う日本最大の極道組織の一人息子と現内閣総理大臣の孫!
特級の大物相手に新聞部豊中智樹最期の取材が始まる!


つづく

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