豊中智樹はしたり顔 第12話『友よ見てくれ大団円!!悪の悲鳴は地獄節!!』後編

<迎賓館>

ここは由北高校迎賓館。
豊中から先輩を奪った仇、現内閣総理大臣の孫、豆山ルピ夫。
そして生きていた将棋部部長にして日本最大クラスの極道組織会長の息子、南野。
全ての因縁に決着をつけるべく、新聞部豊中智樹最期の取材が始まる。

「あんたにゃ負けるよ、にしてもよくここがわかったな、ええ?」
「おまえが置いて行ってくれたこの鳩のエンブレム・・・豆山家の家紋のおかげだよ」

ピンッ

手にしたバッジを親指で弾き南野に返した。

「へぇ、へへっあんたの始末はできねぇし尻尾まで掴まれたってかい」


右肩を怒らせながらにやけ面を浮かべる南野にいささか違和感を覚える。

「おまえ・・・誰だ」
「南野だよ。窓から落っこちたのは竹村、影武者って奴さ。よく真似てたろ?」
「その影武者をなぜ自らの手で葬った」
「使えねぇ奴にはお仕置きが必要なのさ」
「だったらおまえにもお仕置きが必要だな。今こうして俺がここに居るんだからな」
「好きだよあんたのその態度。肝が据わってて」

「ぬぁあああああ!!なんだよ二人して南野君!!君のせい!君のせいだよ南野くん!なんとかしてよ南野くん!!こうなったのは君のせいなんだから!」

無粋な割り込みにため息をつきながらもビジネスパートナーを優先するのがプロの鑑。
指をパチンと鳴らし南野は仲間を呼ぶ。

「悪いね、大人のテーブルにガキを座らせちまって。お詫びっちゃぁなんだが最高のおもてなしをさせてもらうよ。なあ相棒」

吹き抜けの反対側。大階段から向かって右側から大男、彼の名は兼田。
南野の生涯の相棒であり、彼らのコンビネーションから繰り出されるツインビート暗殺は数多のアウトローを葬り去ってきた。

「そうそうあんたの先輩とやりあったこともあるぜ。もっとも仕留めそこなったわけだが。つまるところお互いにリベンジマッチってことだな」
「引き分けたふりして泳がせてたかもしれないぜ?」
「だったら試してみようぜ!なぁ!!!」

「いいからさっさとして!僕嫌いなの!こんな意味のないことでもったいぶって!?なんの意味があるの!?結局お前たちがどれだけ努力しようがかっこつけようが関係ないの!一番強いのは何?そう僕の権力!」

プヒィイイイプヒィイイイ

息を切らせ騒ぐ豆山。
事あるごとに冷や水を浴びせる彼を白い目で見ながら南野は一旦状況を俯瞰して見る。
最強の権力者にかつて先代新聞部さえも退けた最高の暗殺者。
その中で農園部の花子を守りながら戦わなければならない。
・・・負ける要素がない、なのになぜ。

豊中の顔は、笑っていた。

「ふふふ、さっきからあんた権力には勝てないそう言ってるな?」
「ああそうだよ!おまえみたいな底辺は僕に勝っちゃいけないんだよ!!それがルール!常識!!」
「つまりあんたと同格なら勝ってもいいってわけだ」
「そんなやつ!!いるわけ!!!ないの!!この日本に!!!いるんなら連れて来いよこの低能貧民アンポンタン!!」
「本当に俺の顔を覚えていないみたいだな。豆山さんよ」
「上級国民の僕がおまえらの顔なんていちいち・・・っ!?」

『豆山さん』

ルピ夫の耳には聞き覚えがあった。この声。生理的に受け付けないこの声。
改めて豊中の目を見る。常に自信にあふれた、常に何かに勝利し続けたこの目。
思い出した。
あれは祖父の就任記念パーティーの会場。

思い出した。

この声を、
目を、
そのしたり顔を、

その男の名は。

「豊中智樹・・・おまえは・・・おまえはまさか前内閣総理大臣『豊中 晋三』の孫!豊中智樹!!!!」
「!?そんな豊中さんまさか」
「ははは豆山ぁこいつぁとんだ大物に喧嘩売っちまったねぇ」

豊中智樹そう彼こそは前総理大臣豊中晋三の孫である。
豆山にとっての下級貧民、つまりは一般人が警察やマスコミに自分の悪事を知らせたところで権力と金をちらつかせればどうとでもなるが、彼が出てくれば話は変わる。
このままでは自分はおろか祖父の立場まで危うくなる。
こいつを生かして返すわけにはいかない。

「南野!兼田!!高い金払ってるんだ!こいつを消すんだよ早く!プヒーー!!プピイイイイイ!!!」
「だからさっきからやろうとしてんだろうが!!ガタガタ喧しいんだよバカタレ!!」

悪態をつきながらも二人の暗殺者が向ける銃口はしっかりと豊中を狙う。

PAN
    PAN

 PAN!!!

最高の暗殺者故に狙いは正確、しかしその正確さが仇となる。
豊中の心臓と頭を狙うのは明白、さすればヒーロー豊中智樹。
その場から一歩も動かずとも向かってきた弾を右手で左手で摘まみ、辺りに放り捨てる。

「豆山さんよぅ。そいつらいい用心棒だがこの学校じゃ二番目だな」

「なにぃ!?だったら一番はだれだってのさ」

花子を自分の背に隠しながら右手の親指を自分に向けニヤリ。

「俺だよ」

迎賓館にはいつしか天窓から日が差し込んでいた。
ホールに漂っていたどこか暗く重い空気はカラリ乾いた風に替わる。

「先代新聞部を殺害しあまつさえ副部長にその汚名を被せた貴様を許すわけにはいかん!豆山ルピ夫覚悟!」
「だ!か!ら!暑苦しいんだよ!おまえ!もういい僕が殺る!ここでおまえを殺しちゃえば全部解決するんだ」

階段に備え付けられた隠し扉から次々に重火器を取り出す豆山。
手榴弾からガトリング砲果てはロケットランチャーまで取り出す始末。

「おいおいそんなもんここでぶっ放したらおいらたちまで死んじまうよ」
「うるさい!!ここでやらなきゃ全部終わりなんだ!死ねぇ豊中智樹!!!!」

「ファーーーーーーーーーー!!!!」

<闇市>

ワイワイ   ガヤガヤ
 
  ヒッタクリダァアアア

ワーー   ツカマエローーー

ここは食堂裏の闇市。
違法な店が立ち並ぶ商店街に一軒真新しい、といっても廃材で造ったものだがとにかく新しい店が建っていた。

『寿司の梅ちゃん』

店内、カウンターに座る老人。西だ。

「おい梅の字。タバコ」
「へいっ、え~っと。右からピアニッシモとピアニッシモのロングとピアニッシモの赤」
「ピアニッシモしかねぇのかよ!じゃあ普通のでいいよ」

シュボッ

「おっ気が利くじゃねぇか」

隣に座っていた江仁熊が無言で西のタバコに火を着けた。
由北高校の生徒は頑丈なのが取り柄。
二人とも日常生活を問題なく過ごせるぐらいに回復していた。

「江仁熊おめぇさっきから食ってっか?今日は祝いなんだじゃんじゃん食いなよ」
「はあ、それじゃビーフカレーください」
「はいはいカレーね、それでなんのお祝いで?」
「かぁーーーっおめえ天井のテレビは飾りかよ」

リモコンを操作しテレビの音量を上げる。
テレビには臨時ニュースと国会議事堂の映像が映っていた。

『ご覧ください!国会議事堂の天辺に人が!人が三人磔になっています!その周囲を・・・これはビラでしょうか?』

リポーターが手にしたのは毎度おなじみ新聞部の号外。

『友よ見てくれ大団円!!悪の悲鳴は地獄節!!』

<<<<<由北高校将棋部部長 南野勝太>>>>>>
   <<<豆山 ルピ夫>>>
   <<<<完 全 撃 破>>>>


<由北高校 屋上>

♪~

貯水タンクに腰掛け学園を見渡す。
豊中は昔から高いところが好きだった。
ギターはまだ初めて日が浅いが徐々に上達するこの感覚が心地よい。

「お礼言うべきよね、ありがと、真犯人見つけてくれて」

豊中の背に声をかける少女。
彼女の名は立花瑠美、殺された先代部長の妹である。

「いったい何の話だ?俺はその日懲罰房に居たんだぞ」
「だったわね。忘れてたわ」

呆れるように笑った。

「それよりも色々と謝ることがあるんじゃないか?俺以外に」
「わかってるわよそんぐらい」
「ならいいんだ。今度の週末墓参りに行くよ」
「うん、まってる」

カンカンカンカンカン

誰かが大急ぎで階段を駆け上がる音がする。

「じゃわたしそろそろいくわ。それとギターちょっとはましになったじゃない」

シュっと軽やかに瑠美は校舎から飛び降り姿を消す。

バァン!

それと入れ違うようにドアを勢いよく開け生徒会長が血相を変えて飛び込んできた。

「探したぞ豊中!とにかく急いできてくれ!校庭が大変なことになってるんだ!」
「やれやれお客さんが多い日だ」

ぼやきながらもその顔は綻び豊中は新たな取材へと向かう。

復讐は終わった。
しかし、
この学園に騒動がある限り由北高校新聞部豊中智樹の戦いは終わらない。


豊中智樹はしたり顔 第一部 完

豊中の真似は危険なので絶対にしないでね。

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