豊中智樹はしたり顔 第10話『バックナンバー 2月2日』
<図書館 地下四階 資料室>
由北高校名物大図書館!
地上三階地下四階建ての大図書館、地上部は生徒だけでなく一般開放もされている。
ラウンジと同じく海外の有名な建築家にデザインされており、度々テレビや雑誌の取材を受けるほどの名物スポットとなっているのだ!
その華やかで開放的な地上とは正反対の地下部。
ここは一般生徒の立ち入りが禁じられた保管庫であり貴重な資料はもとより学園の歴史や書類関係も保管されている。
そしてここはその図書館の最深部。
生徒会長はその権限を使い、ある調べ物のため二日ほどここに籠っていた。
「ようやく見つけたぞ先代生徒指導部長の日誌」
先日屋上で立花瑠美に聞かされたかつての新聞部員菊川と立花の兄、猛、彼らにいったい何がおこったのか?
真相を探るため生徒会長は捜査資料を片っ端から読み漁っていた。
「どれどれ」
『二月二日 生徒による殺人 一件』
『殺人容疑により生徒一名を退学処分とする 以下詳細』
「退学?この学校で退学だと?」
『本件は事件を見ていた通りすがりの一般生徒の通報により発覚したものである。
中等部校舎非常階段裏にて発生。
新聞部部長 立花 武が同新聞部副部長 菊川 隼に殺害される。
死因は菊川が持っていたナイフの刺し傷からの大量出血によるショック死。
立花の死体には全身に合計二十八か所の刺し傷があり相当の恨みがあったと思われる。
思われると書いたのは、菊川が逮捕時心神喪失状態で正常な意思疎通ができず、そのまま病院に収容したため、
本人から何も聞くことができなかったからである。
尚事件から三日たった現在も菊川は面会謝絶の状態。
通報した一般生徒の証言によると、二人は激しい口論の末もみ合いの喧嘩に発展。
戦闘力で立花に劣る菊川は階段裏に廃棄されていた椅子を拾い上げ立花を殴打。
倒れた立花に馬乗りになり持っていたナイフでめった刺しにしたとのこと。』
「なんだこれは・・・資料がこれだけ、残りが破られている」
ほかの事件に比べ圧倒的に少ない情報量に加えてページの下半分が破られている。
そもそもこういった事件の資料には証言を録音したテープや現場の写真があるはずなのだが、そんなものはどこにも見当たらない。
「ありえない、そもそも性格上この人がこんなに薄いレポートを残すはずがない。ページ下部だけじゃなくそれ以外も捨てられたのか?」
『隠蔽』
あってはならない言葉が脳裏をよぎる。
「勉強熱心はいいことですね、いやぁ、関心関心」
会長しかいないはずの図書室に誰かの声が聞こえる。
それは本棚の奥、蓄えられた歴史の闇から現れるのは一人の男!!
羽扇を片手にする彼こそは由北高校社会科教師!!!
『諸葛 亮(しょかつ りょう)』
あだ名は!孔明!!
「孔明先生でしたか。こんな埃臭いところにいったい何の御用で?」
「ふふふ、運命に迷う生徒を導くのもまた教師の務め。君の知りたいことを教えてあげようと思いましてね。城田君」
「?」
「?どうかしましたかな」
「・・・あっああ、名前で呼ばれたのはずいぶん久しぶりなもので」
「まったく、最近名前が付けられたという訳でもありますまい」
孔明は羽扇で口元を隠しこほんと咳払い。
「菊川事件、この学校では人死になど珍しくはありません。それがなぜこの事件に限って退学などという最も重い処罰がなされたのか。いやそもそもなぜこの学校では数々の罪が俗世よりも遥かに軽い処罰で済むのか?考えたことはありませんか?」
「いやみんなそんな感じだったからそんなものだと・・・確かにテレビでこの程度で逮捕?と思うニュースはよく見ますが・・・」
「君が今から知ろうとしているのはこの学園ひいてはこの日本国の暗部!それを知る覚悟はおありですかな?」
「この国の暗部だなんて大げさな、そんな人が死んだとはいえたかが学生の喧嘩ですよ?」
「その喧嘩で死んだ生徒の死に顔を私は見ました、どんな顔をしていたと思います?」
「・・・資料によれば二十八か所の刺し傷が死因だそうですね、きっとひどい切り傷の跡と友人に裏切られた絶望の表情でしょう」
「ふふ・・ふふふ・・・・ははははははは君は実に純粋な生徒だ」
孔明は高く笑うと自分の眉間を指さした。
「彼の死に顔は綺麗な物でしたよ、傷なんかありはしません、ここに一発銃弾を撃ち込まれた跡があるだけでね」
「銃弾!?まさか!?この学園に銃を持ち込んだ輩がいたとでも!?」
「ようやく話を聞く気になりましたかな?さあ改めて聞きましょう由北高校生徒会長 城田 祐輝君!君はこの学園の真実を!国家の闇を!知る覚悟はよろしいか!?」
<敷地内のどこか>
会長はあてもなく歩いていた。
孔明から知らされた真実を豊中に教えるべきか、自分が墓までで持っいくべきか。
そんなことを頭の中でぐるぐる回しながら会長は学校敷地内をぐるぐる歩き回って数時間たつ。
~♪~~~♪
「?なんだこのへったくそなギターは」
音の主を探し会長は再び敷地内を歩き回る。
先ほどとやっていることは同じだが、目的を手に入れ幾分か人間らしさを取り戻していた。
「フォークギター同好会でもない、器楽部でもない、軽音楽部でもない、デスメタル同好会でもない、そもそも音楽系の団体いくつあるんだ!!!」
文句を言いながらも会長はどこか楽しそうだ、答えの見つからない堂々巡りから一時的とはいえ解放されたのだギターの主に会長は少し感謝していた。
<屋上>
ほどなくしてギターの主を見つけた。
「なんとなくそんな気はしてたがな」
屋上の入り口から貯水タンクに腰掛けギターを弾く男の後姿を見る。
ギターを弾くのは豊中智樹。
なんでもできると思われている豊中にしては珍しくギターは実にへたくそだ。
「おい、へたくそ。ちょっと貸せ」
「えらく口が悪くなったじゃないか会長さん」
タンクに登った会長に豊中はギターを快く手渡す。
~♪~♪
「ほぉう、上手じゃないか」
「・・・おまえにも苦手なものがあったんだな、意外だ」
「馬鹿言うな、俺だって努力してるのさ。こうやって隠れてな」
こいつも人間なんだ、なんでもかんでも背負えるわけじゃない。
そう思った会長は孔明から齎された真実を一旦飲み込むことにした。
次回
『ここは地獄のラスベガス!やくざ者の甘い汁!』
豊中の真似は危険なので絶対にしないでね
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