豊中智樹はしたり顔 第7話『わいらはなにわのバンクシー!偽装通貨流出事件!』後編


<外>

美術室がある教室棟の外、生徒会長が生徒指導部機動隊数名を引き連れ待機している。
豊中がいつものように先走って飛び出した後、会長は冷静に突入の準備をし豊中を追ったものの、入口のオートロックを解除できずに立ち往生していたのだ。

「ザーーー配電盤に到着しました、30秒後電源を落とします」

無線機から別動隊の報告を受け機動隊が扉の前に集まる。

「扉の解放後その場で待機、奥に進むのは電気の復旧を待ってからだ。何が起こるかわからない気を付けていくぞ」

<美術室>

突然の停電。
部屋の照明が全て落ち、もちろん電動のこぎりも停まる。

「なんやいきなりぃ!!ドライヤーと電子レンジ一緒につこたアホでもおんのか!?はよブレーカーあげんかいや!」

暗闇の中、足塚の怒号が飛ぶ。
・・・絶対この電動のこぎりのせいだろうと部員たちは思っても言わない。よく教育された部員たちだ。

パチン

そうこうしている間に何もしていないのに電気が戻った。

「おや、仕事が早いですねぇ。ふふふ豊中君命拾いしたと安心していましたか?残念でしたね、うふふふふ」

巨大電動のこぎりが再起動。

ウィィィイイイイイイイイン!!!ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

「さあ豊中くぅ~ん♪その絶望の表情を見せてくださいよぉ~」

上機嫌の足塚が俯く豊中の顔を覗く・・・だが。

「・・・ふん、つまらん奴やな。まあ大したもんやと褒めるべきなんかもな。この状況で慌てず騒がず眉一つ動かさんのはおまえが初めてや」

予想外の反応で少々退屈だったがこれもリアルな反応の一つ、仕方なくスケッチブックを拾い上げペンを走らせる。

<美術室 外>

「よし、総員突入!」

GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAN!!!!!

ドアが勢いよく開き生徒指導部機動隊が美術室になだれ込む!

「生徒会だ!!大人しくしろ!!」

突入した機動隊の後から凛々しく歩いてきた生徒会長、しかし彼が目にしたものは、彼にとって一番信じたくない光景だった。

「・・・なんや会長はんえらい遅かったやないか」

そこにあったのは真っ二つになった豊中智樹の姿。

「なん・・・だと・・・」
「のこぎりに身体切られとるっちゅうのに動きもせん喚きもせん、一応男らしい最後っちゅうやつか。つまらん最後や」
「貴様っっ・・・」

一触即発の現場、その空気を破るのは一人の部員の素朴な疑問の声だ。

「あれ?こいつおかしいぞ、ねえおかしいですよこいつ」
「なんですか?空気を読んでくださいよ森石君」
「こいつ!真っ二つになっているのに血が一滴も流れていないんですよ!」
「!?」

慌てて豊中の姿を見る一同。部員の言う通り処刑台の下は一滴の血も落ちてはいない。白い粉が撒かれているだけだった。

「まさかこいつは!?」

部員は豊中の服を剥ぎ取る。

「やっぱりだ!こいつは僕が前に造った石膏像だ!でも顔だけ豊中智樹になってる!!ほら元のマルス像から削ってるからちょっと小顔に」
「なんやと!?」

        ようやく気が付いたかマヌケ


ガシャアアアアアアアアアアアアン!!!!

轟音と共にガラス窓をぶち破り再び登場するのは豊中智樹!

「豊中!」
「おまえ生きとったんかわれぇ!!!停電してる間に逃げよったな!?いや、それにしたってこの像の顔は・・・?」
「電気が落ちてる間にちょちょいとな、彫刻は得意なのさ」
「あ、、あほぬかせ!んなもん人間業ちゃうやろが!」
「ちっちっち・・・俺は豊中智樹だぜ?」

豊中は指を立て不敵に笑った。

「さすがだ豊中、さあ美術部観念しろ」
「ぐぬぬ・・・こうなったら奥の手よぉ!」

足塚は筆を取り出すと後ろに控えた部員たちに向かって絵の具を飛ばす!

モシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャモシャ!モシャァーーーーー!!!

「これは!?」
「ほ~うこりゃ大したもんだ」

完成したのは生徒会長の大群!足塚の特殊メイクで部員の顔が全て生徒会長の顔に変えられたのだ!

「わいの技術は完璧や!どれが本物の会長かわかるまい!!!さあ攻撃できるかな!?」

ファーーーーーーーーーーー!!!!!!

足塚がこちらに振り向くと同時に豊中のベルトが足塚を!部員たちを!すべてを弾き飛ばす!!!

「「「「「ぐええええええええええ!!!」」」」」

ビターーーーーーーン!!!!!

壁にたたきつけられた足塚。

「なんでや?メイクは完璧、見分けは絶対につかんはずや・・・」
「なんでわかったか知りたいか?」

足塚は素早く首を何度も縦に振る。

「いや、偽物全員おまえの後ろから動いてないんだからそりゃ全員ぶっとばすだろ。そもそも俺も入口から動いてないし」
「・・・会長、そりゃ野暮ってもんだぜ」
「お・・・おっしゃる通りです」

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翌日

<校庭>

例によって校庭に号外がばらまかれる。

『わいらはなにわのバンクシー!偽装通貨流出事件!』

当然美術部一行は生徒指導部により拘留されているので磔にはなっていない。

<闇市>

繁盛しているのかちょっと建物が立派になった梅ちゃんの屋台。
併設されたイートインでいなりを摘まむのは西さんと今回は無罪放免の豊中智樹。
生徒会長が関わる場合は会長が罪をもみ消すので豊中が処分を受けることはない。

「それで?西さん偽札は回収したのか?」
「できるわきゃねえだろ、全部使用停止だよ。元々日本円でしか取引してなかったがいいが由北円使ってたやつはお気の毒さね」

奥から肝吸を持った梅ちゃんが口をはさむ。

「うちも両方使えるようにしてたから大変だよ、ここのリフォーム代払った後だから幸運っちゃ幸運だけどよぉ」
「不幸中の幸いってか、んじゃ見舞い変わりだお釣りは取っときな」

豊中が取り出した一万円札、そこには聖徳太子が描かれていた。

「だから!!いや日本円だけど、おまえさんなんで旧札持ち歩いてんだ!!!?」

西と豊中の笑い声が響いた。

つづく

次回

『怪電波受信中!北の国からゴルフボール!』

豊中の真似は危険なので絶対にしないでね。

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