豊中智樹はしたり顔 第11話『ここは地獄のラスベガス!やくざ者の甘い汁!』前編

街外れの山の上、そこにぽつりと建つ学校!

      『由北高校』

 部室棟二階の一番奥、彼はいつもそこに居る!

   彼こそがこの物語の主人公!
  その名を 「豊中 智樹」(とよなか ともき)

新聞部部長!豊中智樹の体当たり取材が今始まる!

第11話

『ここは地獄のラスベガス!やくざ者の甘い汁!』


<新聞部 部室>

最近すっかりご無沙汰だが、ここは新聞部の本拠地。
豊中は部室の中央に陣取る長机に資料を広げたまま、奥の部長席で別の作業をしていた。

カタカタカタカタカタ・・・

何か来る。
咄嗟に窓際の部長席から長机を越えドアまで跳ぶ。

GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAN!!!!!

その直後!何かがガラスをぶちやり飛び込んできた!

「に、逃げろ。豊中・・・」

新聞部の部室に投げ込まれたのは半殺しにされた放送部部長『江仁熊 安吾』その人である。

「江仁熊!?おまえ一体・・・っ!」

倒れる江仁熊に駆け寄ろうとするが豊中は気付く。
窓の外、校舎の屋上や空き教室からこちらを狙うキラリと光る何かに。

銃口。

『歩兵ってのはさ数なんだよな、代わりなんかいくらだっているんだよ』

BAN!!BAN!!BAN!!

放たれる銃弾。間一髪引き抜いたベルトを江仁熊に巻き付け、二人は廊下に逃げた。
なんだかんだ方々で恨みを買っている新聞部だ。
襲撃は覚悟していたが、他人を巻き込む卑劣な輩は許しちゃ置けない。

「ここに居てくれ、誰だか知らんが話を聞く必要がある」

廊下に設置された水道の脇に瀕死の江仁熊を隠し暗殺者を追う。

『香車と桂馬の強さがわかんねぇ間は素人だよ、ま、指してりゃわかるよ』

階段を駆け下りながら豊中は暗殺者の獲物のことを考えていた。
あれはミリタリー同好会が持っていたようなゴム弾でもゴルフ部のボールでもない。
実弾だ。
本物の銃で何者かに襲われた。

「キエエエエエエエエエエ!!!往生せぇやぁああああ!!!」

玄関に向かう豊中の前、そして玄関から二人、上半身裸の男が突っ込んでくる。
いつもならば軽く蹴散らす相手ではあるが・・・

「!?」

豊中は冷や汗を流す。
刺客が持つ長ドスにではない、彼らの腹に巻かれていたダイナマイトに!!

DOKAAAAAAAAANNN!!

『おいおい飛車と角の説明なんかいらねぇだろバカヤロウ』

廊下の窓ガラスを割り難を逃れた豊中。
しかし、刺客の方が一枚上手!
待ち伏せしていたジープが二台挟み撃ちを仕掛ける!!

「今時出待ちったぁマナーの悪いお客さんだ」

ギリギリまで引き付けジープを飛び越える。
珍しく知恵の回る相手だがこの程度で豊中を倒せるわけがない。
正面衝突し炎上するジープを背に歩き出す。

『あとは金と銀と王かい、まあこいつらも強いよ。けどさ結局は駒の強さじゃないんだよ』

数々の刺客を跳ねのけ、ようやく最初の刺客がいた校舎の玄関に辿り着いた。

『一番強いのはさ』

玄関を蹴破り中に入る豊中を出迎えたのは。

『イカサマだよ』

無数のガソリン缶だった。

<将棋部 部室>

由北高校将棋部。
神棚を囲むように提灯が並び、壁には歴代の部長の写真が飾られる。
高級な壺や水牛の角が壁沿いに置かれた、一高校の部室とは思えない部屋である。

ワイワイ   ガヤガヤ

 ヨッシャァアアアアア

イケサマダロ!!  イイガカリダ!!

部室の大半を占める畳の上で行われるのは、花札やチンチロリン。
申し訳程度に置かれた将棋盤では賭け将棋が行われている。
ここは実質将棋部とは名ばかりの賭場となっていた。

「あっけないもんだったな、新聞部ってのも」

部室の一番奥、窓際に置かれた部長席に座り、パソコンの前で独り言をつぶやく男。
『南野 勝太』
彼こそが将棋部の長、そして日本最大の極道組織南野組組長の一人息子である。

「部長!ちょっと来てください!!変な爺がイカサマだって騒いでるんです」
「がたがた喧しいんだよクソヤロウ!なんだ爺って」

部員に呼び出され席を立つ。
付けっぱなしの彼のパソコンに映っていたのは監視カメラの映像。
爆発し炎上する校舎の姿である。

つづく

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