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観戦記: 第 3 回 AbemaTV トーナメント 予選 C リーグ (2020/5/23)

我々が今まさに経験している "Stay Home" 時代をまるで "読み切って"いたかのような,将棋ファンにとって至福の週末企画。

回を追うごとに盛り上がるバトル,ついに "あの" チームがやってきた。そう,"レジェンド チーム" こと,チーム康光 (@TeamYasumitsu)。。。

僕にとっては,将棋を覚えてからずっと見てきた顔なじみの棋士たち。
とりわけ谷川九段にはひときわ思い入れがあります

谷川浩司九段とは

いまさら紹介する必要など一切ない棋士。プロアマ問わず,この方が指す将棋を見て影響を受けた人は数多いはず。その点で,"将棋界" というよりも "将棋の" 歴史に名を残す棋士の一人と思っています。

もちろん,僕はご本人に直接お会いしたことは全くありません。しかし,将棋を覚えて夢中になった中学生の頃から,谷川九段の将棋を見たり,盤に並べて鑑賞したりしてきました。

谷川九段の将棋を初めて見たのは  1  度目の名人復位が叶った名人戦です。棋戦中継が今ほど一般的でない時代,NHK の衛星放送が初めて名人戦を中継した年です。そこから本格的に谷川九段の将棋を見始めました。

# どうでもいいことですが,このシリーズで名人奪取となった第 6 局は僕の誕生日だったw。

当時の僕が住んでいたのは愛知県,王位戦を主催する中日新聞のおひざ元です。実家は朝日新聞 (全日本プロ将棋トーナメントを主催。現在の朝日杯の前身)  を取っていたのですが,この 2 新聞の棋戦で谷川九段がかなり活躍していました。そんなわけで,新聞紙上で谷川九段の棋譜を目にする機会が非常に多かったのです。

それ以来,名著 "光速の終盤術" を買っては何度も将棋盤に並べ,他の著書も買いました。1 度目の名人復位までの人生を綴った著書を読書感想文の題材に選んだりもしました。その結果はなんと "校内最優秀賞",全校生徒の前で表彰されました… が,これは 100 パーセント著者のおかげと思っています。

以来,谷川九段が勝てば喜び,負ければガッカリし,将棋の内容を見ては感嘆する… という,谷川九段の将棋に魅せられた人なら大抵通ってきたであろう道を通りました。

美しい終盤を鑑賞しては毎度のように驚き,四冠を取った時は快哉を叫び,七冠阻止の時は安堵し,七冠達成を見たときは,人のこととはいえ非常に落胆しました  (その数か月後の竜王戦で,名手の連続で無冠脱出したときは,毎度のことのように感嘆しましたが)。

# いろいろと名局を挙げればキリがありません。僕が美しいと思う将棋の一つは第 14 期棋王戦第 1 局,"大駒の三連続限定合い駒"  という受けの名手順が飛び出した将棋です。

# これは,飛車 or 角という通常は攻撃に使う強い駒を,守りで 3 連続繰り出せれば正解 (ただ,正解を指さないと負け) という場面において,それをしっかり読み切って勝った… という将棋です。

そのような棋士が本棋戦に登場するというのですから,刮目して見ないはずがありません。

The Matches (谷川戦 / 森内戦 / 佐藤康光戦)

谷川九段は第 1 セット (先鋒戦) に登場。トータルの結果は残念でしたが,もっとも "谷川九段らしさ" が出たのは第 1 局だと思います。

これまで見てきたフィッシャー ルールの使い手とはまったく異なる感じ。王道を感じさせる美しい指し手 (所作だけでなく,指し手自体も本当に美しい) が続きます。いわゆる "自然な手","棋理にかなう手" の連続で,安心感と威厳に満ちあふれていました。

最後に王手ラッシュしていくところは,これまで何度となくみてきた谷川九段のフィニッシュが感じられて,懐かしく思いました。王手が掛かり始めると,解説者が分からないまま局面が進んでいき,詰む数手前くらいでようやく一同が理解できるようになる … その後,解説者と視聴者がそろって感嘆し,呆れ,そして賛美する… という,過去何度となく見てきた場面の再現を期待していたのですが。。。

盤上で厳密に確認してはいませんが,途中△6五桂の王手では△4七飛成とすれば詰んだかも,と思いました。3 段目以下を押さえつつ,本譜のように上に逃げたときに 4 筋への逃走を防いでいる意味です。合い駒する手には今度こそ△6五桂と打ち,△8六飛 (金を取りつつ王手) を含みにすれば良いのかなと。

フィニッシュが決まれば,それこそ勝ち方も相まって最高のオープニングだったのですが… そこだけが残念。。。

第 2 局は圧勝,まるで手合い違い (それこそキャッチフレーズ "本気出せば強いんですよ")。圧倒的な差がついて終了。一方,第 3 局は玉の固さの違いが響いて残念ながら… (戦前のコメントからは,何となく指導対局のような雰囲気もあり…)。

第 2 セット (森内九段・中堅戦) は… やはり第 2 局がハイライトでしょう。
終盤の香打ちが鍛えの入った一手ですが,この手を "あのタイミングで" 指せたのは凄いとしか言いようがない。

第 3 局はまるで第 1 セット (先鋒 = 谷川戦) の第 2 局を見ているかのような完勝。

第 3 セット (佐藤康光九段・文字通り大将戦) はいろいろありましたが,第 1 局が "らしさ" を発揮した一局ではないかと。

序盤の玉の動き… いったん右側に行った玉があっさり左に… なぜあんな発想ができるのか,まったく分かりませんw。しかし,その後はまるで第 1 セット (先鋒戦) 第 1 局を見るかのような自然な駒運び。もっとも,一か所 "やってしまった"  というのがありましたけど (王手成銀取り) 。。。

それ以外は,本当に自然な駒捌きの連続,誰が見ても自然に思えるところに手が行き,終盤は自玉が詰まないことをしっかり読み切って勝つという,ほれぼれするような将棋でした。

そして,執念を見せた第 2 局,早指しと言えばこの男という棋士を向こうに回して "剛腕" を振り回し,自陣にはほとんど何も手を付けさせずに勝った第 3 局。

文字通り "王道の将棋" を見せていただいたと,心から思いました。

感想

今回,レジェンド チームの対局を見て思ったことがいくつかあります。

1... 時間に追われるシーンがほとんどなかった

他のチームの対局では,時間ギリギリのところで慌てて指すというシーンがよく見られました。それが悪いと言っているわけではなく,むしろ良いことであるとも言えます。何より,そこからハラハラドキドキ感を味わうことが,この企画のポイントでもあるのですから (解説・聞き手の度重なる絶叫 = 効果音とも言うw = も醍醐味の一つ)。

とはいえ,レジェンド チームの時間の使い方が何とも優雅なこと,何とも落ち着き払った指し手の数々。。。

たとえ時間はギリギリでも,慌てるそぶりを一切見せずに指す。しかも本筋,急所の手を,まるで読み切りとばかりに指す。 (例えば第 2 セット第 2 局の森内九段 ▲2四香,第 3 セット第 1 局の佐藤九段 △8四金 - △8五金・・・など)。

3 名合わせて 3,299 勝 (収録時),多くはタイトル戦等で積み重ねられたわけですから,培われた大局観や感覚は我々の想像以上なのでしょう。そのようにして磨かれた第一感の精度が非常に高く,かなりの程度正しいということなのかと。いまさらながら驚きです。

2... 無理なく理解できる,自然な手が多い

駒を柔らかく使い,自然に指していく手が多かった印象があります。

例えば第 1 セット第 1 局 (谷川九段) の△6五歩 - △7五歩,戦う前に相手の出どころを封じる△4四歩とか。第 3 セット第 1 局も,飛車を切って敵陣に成銀を作るところまで,まるで難解な計算問題をすらすらと解いている感じさえしました

全体的に,突破しているというより "流れるように攻め,駒を活用して…" という,格調高く見える手が多かったです。

戦前の勝敗予想では,レジェンド チームの勝ちに 56 パーセントでの予想が集まったとのこと。しかし,"早指しは若手が強い" という印象が強いのか,中には "56 パーセントの多くは回顧票 / 同情票" などという,何とも失礼なコメントも散見されました。

しかしそういう向きにこそ,この企画の開始時点で行われたドラフト会議での佐藤九段の一言を。

"みなさん認知を改めていただきたい"

"ライバルはいません”。

認知を改めてもらうという目的は,早くもリーグ開幕戦で達成されたはず。もちろん,次戦も楽しみです。

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