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『まいてつ』との邂逅録―罪悪感のある出会いから

noteにアカウントを作ってしばらく経ちましたが、また何か書こうと思ったら、やっぱりこれかな、と。
実に様々な理由で他の媒体だと表にしづらいのですが、好きを書き留めておくのもまた大事かと思い記事にすることで記録として残すことに。
ということで6月ごろから私をひっそり沸かせ続けたマイブームを徒然と書き連ねたいと思います。

序章:物語探しからはじまる

『まいてつ』―もしかすると『レヱル・ロマネスク』と書くとわかりよい人がいるだろうか。
『まいてつ』は、かつて『Lose』と呼ばれるブランドが送り出した美少女PCゲーム。
無印込みの続編『Last Run!!』を時を同じくして、短編TVアニメ『レヱル・ロマネスク』も放映されるなど、徐々に世界観を広げている。
鉄道を扱った作品のため、『駅メモ!Our Rails』などのコラボで知った人もいるかもしれない。

今回はそのゲームそのものについての記録になる。
私は偶然、このゲームに出会うことになったのだ。それは、罪悪感の残る出会いとして。

きっかけは枯れかけていた『感情』

2022年。誰もがマスクをつけるようなご時世。
一人暮らしの私はヒトと面と向かい合っての対話という機会を失していた。
自宅を出る機会が大幅に減り、大抵は日々の買い物程度といった有様だ。
会話するにしてもリモートでの打ち合わせの類がほとんど。雑談を挟む余地はあんまりない。
出来る限りイベント参加などと建前を作って最寄り駅より外に出ようとはしているが、人と会うかは別問題。

―このままでは感情が枯れる―

ふと、そんな危惧が頭をよぎった。
自分に対して心を揺らすインプットが圧倒的に足りない。であるならば、インプットをするしかない。
ではどうするか。…思いついたのは至極単純、物語のインプット。
手段はどうするか。物理的なものも買いづらい…なら、ゲームがよいだろうか。数を買う必要はない媒体なのも大きいポイントである。
ただそういったもので自分に合うものを見つけるためのコネクションもアクセス手段も持ち合わせてなどいない。
どうしたものか…迷っていたところに、あるものが目についた。

買いたたき同然のクーポン

目についたのは、ひとつのクーポンだった。
某デジタルコンテンツサイトでは、ほぼ毎日何かしらの安売りが行われ、クーポンがばらまかれる。
私も今年に入り電子書籍等を買うようになったため、クーポンを毎日チェックするようにしていた。そんな中にあったのだ。

―ブランド解散にともない全商品92%OFF―

いやいや、買いたたきにもほどがあるだろう。『まいてつ 全部入り』という商品は13,000円相当が1,500円になっているではないか。
とはいえこのサイトではこういったものは常套手段。法外な割引で人の目を引きランキングに載せ、宣伝とするのである。
このクーポンが2ヶ月ほどずっと表示されているのだから気になってしょうがない。
そもそも『美少女ゲーム』ジャンルなわけで、私はほぼ買ったことがない。
ただ、物語に飢えていたのだろう。私は商品ページを開くところまで進めた。

2週間の葛藤

商品ページを開くといかにもよくあるヒロインとサブキャラを紹介するページ。やけに多い特典の数。直感どおりの危惧感を改めて受け止める。しかし、そうありながらも物語のあらすじが私の後ろ髪を引く。

『これは、癒しの鉄道復興物語』

「地方の街」「復興」「鉄道」など、素朴なキーワードが並び立っている。
(鵜呑みにしてはいけないが)サイトのレビューもシナリオ"は"いいと言っている。
ゲームに非があるかは別物として、このソフト・ブランドにまつわる情報も調べた。色々あったことは理解した。そこまでやってなお、私は『買わない』という選択肢を選べない。なにが私を悩ませる…?
答えが出ないまま2週間、私は商品ページを眺めては戻る日々。迷った挙句、ようやく体験版の存在に気付く。
「じゃあ、体験版触ったらいいんじゃない?」
こころの声に従って、私は体験版をダウンロードするのであった。

※ここから、書き分けと略記のため、2016年発売『まいてつ』を『無印』、
2018年/2020年発売の全年齢版無印『まいてつ -pure station-』を『ps』、
2020年発売のPC版『まいてつ Last Run!!』を『LR』と表記する。

第一章:体験版に触れて

鉄道が滅びかけた世界の物語

鉄道の運行を管理するための人型モジュール「レイルロオド」が存在している世界。かつて鉄道は世界中で主流な交通手段として、活躍していた。
しかし、「エアクラ」と呼ばれる半永久的動力機関を用いた移動手段が現れだす。
より便利な個人の移動手段の登場によって、次第に鉄道はその需要を失っていき、廃線に追いやられてしまうのである。結果として線路網までズタズタに分断された鉄道は、生き延びた私鉄によって地方に点在するに留まるまでになる。

大廃線時代と呼ばれたそんな出来事から時は流れ、1998年。
主人公である双鉄は鉄道事故で両親と双子の妹を失った過去をもった青年。
事故の後、酒屋を営む右田家の養子となり御一夜市で少年期を過ごしたのち、上京し大学に通っていた。
そんな中、双鉄は御一夜市でエアクラ製造工場の誘致活動が本格化していることを耳にする。
工場が生み出す排水は、クマ川(実際の球磨川)を少なからず汚してしまう。水は酒の源、わずかな変化は大きな変化をもたらすだろう。
それを快く思わなかった双鉄は、エアクラ工場誘致を阻止すべく、大学を休学して御一夜市に帰還することを決意する。
(御一夜市:実際に蒸気機関車を動態復元し観光SLとして運用している実績を持つ、日本は九州、熊本県人吉市がモデル)

双鉄帰還中の場面。ここで乗っているのが先に出た飛行型のエアクラ。
こんなものが跋扈している世界である

第二の故郷と言える右田家への6年ぶりの帰還。義姉の真闇と義妹の日々姫と再会したのち、住まう場所を整えるべく取り組んだ大掃除の際に、双鉄たちは眠っていたレイルロオドを発掘する。
目覚めたそのレイルロオド・ハチロクは、紆余曲折を経て双鉄が彼女のマスター(所有者)となる。

ガラスケースに収められていたハチロク。
部屋の掃除の際誤ってケースを割ってしまったことでその存在に気づく

そのハチロクとの出会いをきっかけに、事故で大きな損傷を負った8620系蒸気機関車の第一号車、通称『8620』とも出会うことになる。
双鉄は、御一夜鉄道社長・ポーレットをはじめとしたこの御一夜の人々とともに、ハチロクの願いを叶えるべく、エアクラ誘致阻止のシンボルとすべく、8620の復活を目指すのであった―

と、ここまでが物語の序章。全く触れないのも味気ないと思い、記してみることにした。

私を揺らした優しい空気

さて、改めて起動してタイトル画面を開く。
主要キャラクター勢ぞろいだろう一枚絵と何らかのボーカル曲のピアノアレンジらしき曲が迎えてくれる。
この優しいアレンジの時点で私は負けかけていたのかもしれない。

タイトル画面。ルートをクリアする度にここで観れるスチルも増えていく

体験版でプレイできたのは共通ルートの前半部分。
リップシンクにとどまらずキャラクターが喋りながら目線や表情、顔の向きなどがコロコロ変わることにまず驚かされた。
これは「e-mote」とよばれる2Dイラストアニメーション技術らしい。
おじきだったり手元を見る動きなどを、基本立ち絵ひとつから生み出しており、基本フルボイスである会話にさらに魂を与えてくれる
髪が揺れれば胸も揺れる。この手の2Dイラストゲームは中々動かないことが当たり前と思っていた私にとって十分なインパクトだ。

共通ルートで最初に見ることになるスチル。
スチルの時点でキャラクターが動く
表情の変化はもちろん、喋ってないときには
呼吸するような細かなしぐさも
流れるように演出してくれる。
ちなみに百面相してるのがヒロインの一人であり双鉄の義妹・日々姫

なお、スチルのような一枚絵でも、立ち絵でも、ワイプであっても基本的にこのアニメーションがつけられている。

こちらは立ち絵の場合のパターン。
映っているのは御一夜鉄道社長兼市長でヒロインのポーレット、とそのレイルロオド・れいな

今でこそ、「Live2D」などのスプライトアニメーション技術でこのようなことはできて当然みたいな風潮ができつつあるが、
『無印』の発売が2016年。時期を考えればかなり画期的なものであったことは想像に難くない。
この表現ひとつで、私の物語への没入度は一気に深まっていく。

体験版では「8620」を探し出したところまでが語られる。
起承転結の「起」をチラ見せされた程度で作中時間は1日しか跨いでおらず、ここまでに顔出しすらないサブヒロインすらいる。
逆に言えば、一足飛びに話が進むこともなく、体験版の範囲でさえじっくり時間を進めているという意味でもある。
そんな素朴な感じが今の私の心にすっと入ってきたのだ。

ハチロクと日々姫と、その姉に当たる真闇と。右田家で暮らしているの基本この4人となる

じっくりゆったり、主人公の心理描写も描かれ、時にはヒロイン視点の地の文での心理描写と掘り下げもある。ほのぼのした空気感に美麗なイラスト。それらがじわじわ私に沁み込んでくる。
私は直感した。どうやら相性がよさそうだ。

「これなら買ってもいいかもしれない」、そう思ったならあとは突き進むのみ。サントラとかまでいるのだろうかと迷いはしたが、「まあ1,500円だし」ということで全部入りを買ったのであった。(当然ながら全く知らないコンテンツに諭吉1人以上をコストにする勇気は私にはない、不甲斐ないが)
その安さとジャンルゆえの罪悪感は抱きつつ、私は購入ボタンを押すのであった。

―ここから私は3カ月もこのコンテンツに浸かり続けることになることを、この時私は知らなかったのだ―

第二章:読破

走り抜けた初回読破

結果的に私はものすごい勢いで全ルートを読み切った。
選択肢もなく読み進めるだけなのだが、私が買ったころには追加コンテンツすべて実装済みとあり、完全読破には相当な時間を要してしまった。(発売から色々あって1年半かけて追加コンテンツが制作、提供されていた)

サブヒロインで幼馴染なJSコンビ、凪(左)とふかみ(右)
子どもながらの発想が物語を回す場面も

シナリオ分量にしても、サブヒロインこそそこそこだが、メインヒロインルートとグランドルートはなかなかにガッツリしている。
ビジュアルノベルと理解して手に取った以上お作法に反することなく、オートで全ボイス視聴するスタイルを取った。
そしたら半月以上かかった。思ってた以上にボリュームがあった…おそらく40~50時間費やしていると思われる。

ちなみに、このゲームは「そういうシーン」がジャンルに反してメインのシナリオ部から完全に切り離されている。
一部のシーンはルートの途中で解放されるものもあるが、ヒロインとしっかり恋仲になってからことが起こるため、どのルートを辿ろうとも最初の1シーンの解放まで軽く5時間くらいは要するだろう。(大抵はルート走破後)

シーン解放直前の関係性がこんな感じ
なおこの時点で進行度はメインシナリオの8割が終わっている(After除く)

読破したのはメインシナリオ部のみなのだが、それで半月かかったのでなかなかのものである。
『無印』はともかく『LR』ではメインシナリオは際どい描写が全面的にリライトされていることもあり、全年齢向けゲーでは?と言われるのもまあごもっとも、である。(ぶっちゃけた話、ルートによってはそれどころでない気持ちになるシナリオもある)

3観点からの個人的レビュー

ビジュアル

ヒロイン&キーキャラクター勢ぞろいな一幕。誰もかれもポッと出では終わらない

やはり、まずイラストが美麗でキャラクター達も個性豊かながら華美すぎないところもあって、その時点で好感を持たせてくれる。
ヒロインの衣装は相当数用意されており、時節に応じた衣装が披露される。
モブキャラは全身立ち絵がなかったりするが声も付いておりアニメーションもする、印象に残るキャラクターも結構いる。

議会関連はさすがにモブキャラ多め。
ただ議場が舞台になることも多く登場頻度もそこそこある

スチルでさえ揺れたり目線を変えたりと細やかに切りかわってく様は、基本声だけの演技や機微を増幅させ没入感を高めてくれる。
ただ、それだけ細やかであるということは、裏を返せば手抜きもわかりやすく、e-moteへの注力が脆いシーンに関しては逆に悪目立ちしていた。(『LR』発売後に追加されたシナリオは顕著。)
用意されたイラスト以上にe-moteで変化させることで逆に破綻している場面もなくはない。

サウンド
劇伴に関しては、率直に言うと毒にも薬にもならぬ感じ。下手な主張をすることもないのだが、流れた瞬間オートを止めて曲に浸るといった鮮烈な出会いはなかった。
重要な場面に合わせて作られた専用の劇伴があればさらに気分を高められたかもしれない。
『LR』ではTVアニメやファンドの縁か新曲が多数追加されており、彩りを増しているように思う。

ボーカル曲とそれらのインストアレンジについては全体的に良かった。
特に『LR』からの追加楽曲に至っては気合の入れ方が絶対におかしい。主観とはいえボーカリストの知名度がかなりある。
私の偏ったアニメゲーム遍歴をもってして、制作陣サイドでも名前を見て「なんですと!?」となった方の多いこと多いこと。(偏っているゆえに知っている可能性もあるが…)
確かにコンサートイベントを開催してたようなブランドらしいのでわからなくもないが、金のかけ方がなんか違う気もする…

ただ、それだけあって記憶に残る楽曲も多く、ボーカル曲にとどまらず、劇中でも多用されるピアノアレンジは琴線に触れるものが多かった。
楽曲名を挙げると、やはりハチロクルートのテーマであり実質主題歌ポジションの『レイル・ロマネスク』『ロオド・ラスト』は特に印象深い。
また、メロディラインが素敵すぎてグッときたのは
『ひとしずく』『おんなじ気持ち、ほんとの気持ち』『blooming symphony』など。
全曲各ルートに寄せられたものであるため、歌詞はいずれもキャラクターの心情やストーリーを映し出したものになっている。
普通に口ずさみたくなる楽曲もあって、当初「サントラまでついてこなくても…」と思った自分の手のひらをクルっとさせるクオリティをもっていた。

シナリオ
シナリオに重きを置いていると喧伝、評価されているとおり、この面はやはり大きなファクターであるため語れることも多い。
とはいえネタバレ全開でやっても伝わるものも少ないので、控えめに。

まずどのルートにおいても、課題の3本柱が存在する。

  • 客車を手に入れ観光SLとして8620を復活させる「8620復活」

  • 8620復活やエアクラ誘致法案を凌駕する施策を実現する「市民の結束」

  • 双鉄とヒロインを結ぶための「心の癒し」

行う事業の規模もあり、議会のお目通りをすることになるあたりはリアリティポイント
対峙するはエアクラ誘致推進派筆頭、銀行頭取の娘の稀咲(サブヒロイン)

こういった課題がどのように達成されていくかが見どころとなっている。
体験版で受けた印象そのままに、どのルートでもじっくり復興までの道筋と、ヒロインと結ばれていく過程が描かれている。

またルートによって、街と鉄道の復興の展開や規模感、起爆剤となるアイデアがコロコロ変わるのも特徴。
例えば、グランドルートでは全ヒロインでの復興起爆剤を交差させつつ、
最終的には「ナインスターズ」という九州を結ぶ超豪華クルーズトレインというものを走らせる、という大目標が提示される。
このシナリオを読んだ時点では「さすがに全部載せ感ある欲張りな企画では???」と思ったものだが、いざ調べたらなんとあるじゃないか、元ネタが。これには参った。「ななつ星 in 九州」という名前で九州を走る現役の高級クルーズトレインが存在している。(ほんとに高いし予約難易度も高いらしい)
サブヒロインのルートでも分岐元のアイデアそのままということもないため実現性はともかく飽きもこない。

さて、上記の語りからもわかる通り、蒸気機関車を復活させ鉄道を復興させることが主軸にある以上、鉄道知識だったり、それを知ろうとする心持ちがないと、説明ラッシュに置いて行かれる。ヒトによっては冗長と感じるくらい、物事の説明描写が多いのは否定できない。
幸い私は幼少期の電車好きという原体験が刺激され蘇ったため興味が持続し、その点はむしろ楽しく読むことができた。
「Nゲージ」とか「レイアウト」とかのワードが飛び出した時は懐かしさにテンションが上がったのをよく覚えている。

日々姫ルートで製作される、御一夜市を模したNゲージのレイアウト。
旅行先など、鉄道ジオラマに足を止めた経験、一度はあるのではなかろうか

鉄道要素以外を見ると、どのシナリオにも温かさや感動が込められていて癒しや雰囲気に没入できる方には合っている作風だ。
主に私に合っていたのはこの記事を書いている以上、言うまでもないだろう。
とはいえ急展開はさほどなく、怒涛の伏線回収によるカタルシスを味わえるタイプでもないことも記しておこう。

日々姫ルートでは、双鉄のため日々姫が市長選に出馬する流れに
コンプレックスを乗り越え、大切な人と並び立つための物語
ポーレットルートは、双鉄が市長の特別秘書となり新事業成立を支えることに
勘違いから始まった、いろんな"愛の形"と"家族"を知る物語
ハチロクルートでは、8620の更なる危機を前に双鉄の過去も深く掘り下げられる
人とレイルロオドの絆と未来を描く物語

もちろん、もやっとする点がないわけではないことは先んじて伝えておく。
割と目立ったのが時系列の違和感。
このゲーム、メインヒロインルートの場合は各シーンの開始時にいつの時期の出来事か示されるのだが、それがあるために違和感を見つけやすくなるという事故要素にもなっている。
(例:台詞上3月の描写なのにイラストの描写が12月となっている、など)
ファンタジー要素が控えめで、地に足つけるストーリー展開であるがゆえに、こういうとこはどうしたって気にならざるを得ない。

あとこの評価が『Last Run!!』で追加されたシナリオ前提であるのも留意事項。
ラジオ番組などで、続編の構想がすでに示唆されていたり、Afterではじめて回収された伏線があったりと、完結編という印象も拭いきれないだろう。
それだけきっちりと『LR』での組み立てなおし、追加シナリオでの補強で固められたということでもあるのだが。


いろいろと語ってきたが、総じて、買ってよかったというのは間違いない。
すべてひっくるめた上で評価できるタイミングで触れられたのもあると思うが、結果的に私を長く惹きつけ続けた作品となった
だれからの推薦も情報共有もなく、一切の前情報もなく存在を知って手に取るまで至らせたこと、そしてそのままコンテンツにガッツリハマった体験を私はさほど有していない。

そもそもノベルゲームの場合大抵は1周走り切ったらそれで一区切りとなろう。間を開けるならともかく、短期間に同じ経験を重ねても、印象は薄れていくのだから。

が、 私がこの作品にのめり込むのは1周を終えたここからなのである。

第三章:時系列の解体

気付いてしまった矛盾が誘う

この作品、『無印』の時点ではどのルートもひと夏の物語であるように描写されていたのだが、『ps』でボカされ『LR』で大幅に時系列を整理され、シーン開始時に「何年何月の出来事か」が示されるようになった。
どのルートを歩んだかにもよるが、Afterシナリオも含めれば最長10年弱もの時が流れており、個別ルートで明かされるエピソードもまとめれば不変となる過去の出来事も確定できうることが予想される。
なにより、シナリオ面での評価でも書いたように時系列の違和感が強烈で、自分なりの正しさを求めたくなったのが一番大きい。

―年表を作ってしまえば私の中の矛盾も突き崩せるであろう―

こうして私は全ルート、2周目に突入し、あらゆる言葉から情報を拾い出す試みを始めるのであった。
聴き洩らしていたエピソード、見逃していた地の文、拭えない矛盾、複数の事象からの推測…発見は無数にあった。

『LR』では本編が5月スタートとなっているが8月に入った描写は『無印』から残っている
本編開始時からの時間経過と双鉄の上京目的・期間を加味すると元通りの7月スタートで筋が通る

時系列を追うには現実での出来事も確認する必要がある。
WW2と国鉄解体の時期が本編世界の時期と一致することもヒントとなる。
すべての始まりといえる脱線転覆事故は元ネタが組み合わさっていた。
台風による脱線転覆事故は1934年などに実際にあり、橋梁流出による鉄橋崩落自体も1982年の史実にある。後者は場所まで一致する。
(なお、史実では崩落するずっと前から電車の運行は見合わせられているのでまんま同じ事故があったわけではない)
"台風により停止できない中、崩落した鉄橋に飛び込むのを防ぐため、やむなく転覆させた"という流れは、後者の時間軸に前者の出来事をクロスさせることでぴたりと符合するし、その後の時間経過にも納得がいく。
キャラクターの誕生日だけは明かされているので上記の事件をベースに諸々を組み立てればよい。

だが、『LR』だけを見ていては不十分だ。『無印』のエピソードがリライトされていたのなら原典も見るべきなのだ。さらにグランドルートに至っては別物であるとの噂だ。
私が購入したのは『全部入り』。ご丁寧に『無印』そのものもバンドルされている。
そういやどこかのホネも言ってたっけ。

「できる」ってだけで やろうとするんだ

かくして『無印』全ルート走破の旅路が始まったのであった…

年表を作ってなお、引き返せない

ひたすら各ルートの出来事を年表もどきにまとめて考察

結果として、それなりに納得のいく年表が出来上がった。目的であった自分なりの時系列整理もできたし、 主人公およびヒロインたちの本編開始時点の年齢すらおおよそ確定できた。
(この手のゲームでそんなことをするのは野暮である)
『無印』でしか知りえないキャラクターの関係図もあったりと、思った以上の収穫もあった。
私自身、違いを確認するという工程がこれほど楽しめるものとは思ってなかった。細かい作業は嫌いじゃないが、ここまでのめり込むというのも我ながら驚きである。

この記事を書くまでに、共通ルートはすでに5回は観たと思われる。ヒロインルートも3回以上、時系列要素自体は薄目だがサブヒロインも2回は確実に辿った。なのにこの記事のためにスクリーンショットを取るべくあちこち場面を変えたがその度に手が止まってストーリーを読んでしまう。
挙句の果てに今は『pure station』版を読み進めている。

同時に買ったゲームから時期まで察せられてしまうのはご愛敬
そしてこれがswitchのほしいものリストを活用した最初の例である…

年表作成から間が空いて再び御一夜市に戻ったわけだが、まあ嬉しく懐かしく感じる。
わざわざ買ってしまった理由は、こちらでのグランドルートにリライトがあるかどうか確認したかった、ただそれだけである。
『ps』でリライトされた無印部分がそのまま『LR』の無印部分となったが、『LR』では『無印』でのグランドルートは原型をとどめていないため、差異が生じる可能性を残していたからだ。これで違いがなかったら…?
ちなみに『ps』のスタッフロールでは、PC版どちらにも記載のなかった参考文献の情報がずらりと表示されているという違いがあったりする。グランドルートはまだ見れていないのだが、違いがあった時点で収穫なのである。

終章:後日談のようななにか

これだけインパクトを残したことで、改めて、シナリオに浸るゲームや作品に触れたいという気持ちは蘇ってくることになる。
先日はそういったゲームを推薦してもらってクリアする機会もあった。
時系列を紐解き、推測・考察することの楽しみを見出したので、そういうシナリオものに触れられる機会はじわじわ増やしていきたいなとも思った。
(今やってるソシャゲにもストーリーがしっかりあるものがあるので、時系列紐解くか…?いやでもかかる時間を考えるのが恐ろしい)

また、時系列調査をネットで行っているうち、8620そのものが静態保存されて展示されているところがある、ということも知った。
出かける口実ができた。これを逃して今後外出のモチベーションが戻ろうものか。

となって向かったのが青梅鉄道公園。日帰り・往復3時間以上の移動なんていつ振りだろう?
屋外には蒸気機関車などが展示されている施設で、屋内施設には年表や写真などが展示されている。

8620の静態保存展示。こんなかんじでそれなりの蒸気機関車が展示されている
目玉展示のD51 452。曇天の中特攻したが晴れたので大勝利。
大抵の機関車は内部の運転台<キャブ>に入って眺めることもできる

メインとしては蒸気機関車の静態保存・展示の施設だが、特急列車のミニチュア展示などもありあらためて原体験をたたき起こされた。
ただ出かけるだけにとどまらない満足感を得られたように思う。

なつかしの「スーパーひたち」のジオラマ展示。
VHSでさんざん見た記憶がよみがえった

後日談めいたものも書いたところでひとまず私の一つのブームにまつわる話は一区切り。
シナリオについてはルートごとに語れることもまだまだあるだろうが、それはまた秘めておくとしよう。

関連コンテンツは『レヱル・ロマネスク』として続いていくそうだ。
先日、TVアニメ2期の制作も決定したと聞く。ゲーム以外の場で、世界観そのものを追いかけるかはわからないが、広がりが止まらないことそのものは良いことだと思う。もちろんこの作品のキャラクター達も尊重して、ならば。(そうはならなかったIPも世の中にはあるので…)


以上となります。本編は勢いで砕けた口調になってます。
正直、観るに堪えない文章だとは思うのですが、薄れていくよりは記事として残さなきゃ、と思いが勝り今回の記事作成となりました。
ここまで記事を読んでくれた方がいたのなら、感謝しかありません。
何かを与えられる文章ではなかったと思いますが、万が一、心が動いたのなら幸い。それにしても無理にひとつの記事にまとめちゃったので冗長すぎるのは反省ですね…
それでは、この辺で。

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