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揮発性

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書いたおはなし。
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#ジャンププラス原作大賞

【おはなし】記憶

【おはなし】記憶

 振られたから記憶を消してほしい。そいつはそう言って研究室に来た。さっき緑川さんに会ってきたのだという。

 確かにここでは記憶に関する研究をしている。部分的な記憶を消す装置の試作品がつい先日、完成したばかりだ。特定の記憶を消す事で、様々な分野での使用が期待される。
 本当にいいのか尋ねると、赤くなった目をはっきり見据えてそいつは頷いた。

 記憶の消去は成功した。こいつは緑川さんの事を忘れて、こ

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【おはなし】それぞれ

【おはなし】それぞれ

 人が発する言葉が、すべて文字で見えるようになった。
 みんなの唇から次々と出てくる黒い明朝体の文字は、煙のように出てきては消えていく。

 あんまり小さい声の時は色が薄く、大きな声の時は色も濃い。煙の性質上、口から生み出された文字は後から出てくる文字とぶつかり合って、顔の前の方に溜まっては消えて行く。短い単語なら何とか読み取れる場合もあるが、文章になるとぐちゃぐちゃして殆ど読めない。

 「卡め

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