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リニアは本当に必要な未来の乗り物か?

今から約20年前の2000年2月、ドイツ政府とドイツ鉄道およびその協力企業は、首都ベルリンとハンブルクの間を結ぶ磁気浮上式鉄道「トランスラピッド」プロジェクトを中止すると発表した。このトランスラピッドは、1969年からドイツの国費によって開発を続けてきたもので、ドイツ2大都市間を結ぶ路線は1990年代に入って事業化が決定したものだが、約8年後に呆気なく終焉を迎えることになった。この事業へは、中止時点ですでに約4億マルク(当時で約2億ユーロ相当)が投じられていたが、中止の決定が変わることはなかった。その後、2003年に中国へ輸出され、上海の浦東空港連絡鉄道として実用化されたが、ドイツ本国ではミュンヘン空港アクセスなど、他にあった建設計画もすべて撤回され、ついに日の目を見ることはなく終わった。

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(写真)ミュンヘン空港に展示されていたトランスラピッドのモックアップ

トランスラピッド計画が中止となった理由はいくつかある。大きな理由の一つは費用対効果が十分ではなかったという点で、国民の納得を得られなかったからだ。建設費は、計画段階では約45億ユーロだったものから約75億ユーロ(いずれも当時の値段をユーロに換算)へと高騰していたが、その建設費を十分に賄えるだけの利用が見込めないと言われた。また未知の技術へ多額の投資をするくらいなら、既存の鉄道を高速運転可能な高規格へ改良するほうが、十分に投資効果が見込めるとされ、実際、トランスラピッド計画が中止になった後、両都市間の在来線は230キロ運転が可能な路線へと生まれ変わり、現在は概ね1時間45分~2時間程度で結ばれている。

エネルギー消費が通常の鉄道より高くなり、時代に逆行しているという意見もすでに多く出ている。メーカーのシーメンスは、エネルギー消費が従来のICEと比べて約30%低く、効率的だと説明していたが、ドイツ国内の専門組織が調査した結果、それは乗客がすべての座席に着席し(乗車率100%)、300キロ以上の速度で長距離を巡行した場合の数値で、より現実的な数値である、ICEなど長距離列車の平均的な乗車率である50%程度で、かつドイツの主要都市間の平均的な距離(概ね100~300キロ)であれば、乗客一人当たりに対するエネルギー消費量はICEを上回ると指摘している。加減速をする過程におけるエネルギーの消費量は、ICEより数%~状況によっては倍以上に膨れ上がるため、とりわけ短区間において加減速を繰り返すような状況下では、やはりエネルギー消費量が増大する。国内全域に中小規模の都市が点在するドイツのような国では、エネルギー消費量の増大は避けられない。ベルリン~ハンブルク間は直線距離で約250キロだが、中間に駅を設けないとしても、十分に長距離と呼べるような距離ではない。

ドイツ環境保護団体からの委託で調査を行った、ミュンヘンにあるコンサルティング会社、フィーレック・レスラー社の試算では、ドイツ国内の都市間で運転した場合のエネルギー消費量は、通常の鉄道との比較で3倍にもなるという調査結果が出ていた。トランスラピッドは、ベルリン~ハンブルク間以外にも、ミュンヘン空港アクセスなど数か所で実用化へ向けた検討が行われていたが、いずれも同じ理由で建設は中止となっている。

リニア (2)

(写真)日本の大動脈、東海道新幹線

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