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『細い細い糸』


 今、この灯を支えているのは、細い細い、細い細い、いつ切れてもおかしくないような、取り繕いの糸だけ。

あと一本、この糸が切れたら、この灯は消える。

 

 火は常に動き続け、同じ形になることはない。

 なのに、火は灯り続ける限り、1つの火だと、言ってもらえる。

 「1つの火」って何だろうか。

 火は常に動き続ける。

 下から上に、下から上に。

常に消え続けているのに、1つの火は、灯り続ける。


 これまでそうして、ずっとずっと、酸素のおかげで灯り続けてきたけれど、今、もう、その灯を支えているのは、細い細い、糸だけになった。


 風が吹いたら、切れてしまいそうな。

 ものが当たったら、切れてしまいそうな。


「1つの火」は、1度消えたら、もう、2度と灯らない。

「終わり」は、本当は、ある。

 もう、目の前に、ある。


 終わることは、「幸せ」だ。


 終わることは、「幸せ」なのだ。


 もう、誰もいない、真っ白な世界の中で、

 一生懸命、灯り続けてきた、火は、儚い。

 意外と、儚い。


 この糸は、もう既に、何度も修羅場を潜り抜けてきている。

 強い風が吹いたあの時、棘が落ちてきたあの時、雨が降ってきたあの時、ナイフで切りつけられたあの時、彫刻刀で削られたあの時、槍で心臓を貫かれたあの時、真夜中に池に突っ込んだあの時、崖から落ちたあの時、

 それでも、この糸は、切れなかった。

 それでも、まだ、この糸は、ある。


 もう、終わればいいのに、なぜ、この糸は、そんなにしてまで、火を灯し続けるんだろう。


 誰も、君の灯なんて見ていないのに、もう、誰も、見ていないのに、誰がために、灯火は光り続けるんだろう。


 遥か先の、過去と未来へ、繋げるためか?


遥か先の、いのちの感動を、溶かすためか?


 糸は不幸しかないのに、なぜか、優しい顔をして、ただ、ただ、灯している。


 糸は、灯火は、いつ、終わるだろうか。


 いつ、終わる、だろうか。


はやく消えたら、いいのにな、、。



大丈夫.