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遠藤航がリヴァプールに欠かせない理由 データで紐解く

夏の移籍市場でリヴァプールが遠藤航を獲得したときは、懐疑的に思う人も多かったが、日本代表のキャプテンは期待に応えた。いまとなっては彼のアジアカップでの離脱は、チームの大きな痛手となるだろう。

遠藤航はリヴァプールで初先発した試合から苦戦を強いられた。

リヴァプールが3-1で勝利したボーンマス戦で途中出場から28分間プレーした遠藤は、翌週、敵地セント・ジェームズ・パークでのニューカッスル戦で初めて先発メンバーに名を連ねた。

30分も経たないうちに、キャプテンのフィルジル・ファン・ダイクが退場を言い渡され、1点ビハインドの展開を10人で戦うことになってしまった。遠藤は大きな失敗はしなかったものの、周りのスピードに圧倒されているようだった。60分を回る前にハーヴェイ・エリオットと交代された遠藤は、スーパーサブのダルウィン・ヌニェスが終盤に2得点を挙げ、リヴァプールが逆転勝利する様子をベンチから見守った。

約4ヶ月後、今度は本拠地アンフィールドでのニューカッスル戦で、遠藤は再び先発出場した。11人がピッチに立ち続けたリヴァプールはニューカッスルを圧倒した。遠藤は冷静かつ落ち着いたプレーでチームを牽引し、4-2での勝利に大きく貢献した。ユルゲン・クロップ監督のリヴァプールは、この試合で、プレミアリーグの1試合で1チームが記録した中では、2010-11シーズン以来最高となる、7.11のゴール期待値(xG)を叩き出した。

リヴァプールが8月に遠藤と契約したとき、多くの人が驚いたし、彼の名を聞いたこともないという人が大半だった。彼の才能を知っている人は称賛していたが、名門リヴァプールが獲得を決めるほど評価したことは大きなサプライズだった。

夏の移籍市場では、長期的な再建計画のために有能な若手選手の獲得に時間を割き、1億ポンドを用意して獲得を望んだブライトンのモイセス・カイセドをチェルシー奪われたリヴァプールが、ブンデスリーガから30歳の遠藤を1600万ポンドで獲得することになるとは、誰も予想しなかった。

予想通り、遠藤がチームに馴染むには少し時間がかかった。

遠藤はUEFAヨーロッパカップやリーグカップなどでのプレーを重ねたが、ニューカッスル戦での初スタメン以来、11月中旬のブレントフォード戦までプレミアリーグで先発メンバーに名を連ねることはなかった。

1-1の引き分けに終わったマンチェスター・シティ戦と次のフルハム戦は、再びベンチスタートとなった。フルハム戦では2-3でリードを許した展開から出場し、衝撃的な同点弾を決めた。この試合、リヴァプールはトレント・アレクサンダーアーノルドが試合終了間際に逆転ゴールを決めて4-3で勝利した。

この試合でインパクトを残した遠藤は、次のシェフィールド・ユナイテッド戦にフル出場し、敵地で2-0での勝利に貢献した。この試合でアレクシス・マックアリスターが負傷し、翌年までプレーできなくなった。これは、年末の過酷なスケジュールにおいて遠藤が欠かせない存在となることを意味した。クロップ監督は、30歳の日本人を最大限に活用し始める。

遠藤は13日間で5試合に先発出場した。リヴァプールのフィールドプレーヤーとしては2006年1月以来の稼働率だ。しかし、これは必要に迫られた仕方のない決断だったというわけでもない。リヴァプールの安定したパフォーマンスの要となる選手になり、実力でポジションを死守したのだ。

きょうはリヴァプールの13日間で5つ目の試合日。遠藤航は唯一、全5試合に先発している。
リヴァプールで13日間で5試合にフィールドプレーヤーが先発するのは、2006年1月のフィナン、ヒーピア、ジェラード、キューウェル、クラウチ以来のこと。

Optaのデータ編集者マイケル・リードのXより

ボクシングデー(12月26日)のバーンリー戦での遠藤のパフォーマンスは、クロップ監督に称賛された。「彼のプレーは大好きだと言わざるを得ない。慣れてきたところでアジアカップに行かなくてはいけないのは残念だ」。

遠藤航のボール奪取(42回)
プレミアリーグ2023-24シーズン

これは遠藤とリヴァプールの両者にとって残念なことだ。やっとイングランドのフットボールに慣れてきたところで、日本代表としてAFCアジアカップに参戦しなくてはいけないため、最大で5週間、プレミアリーグから離れることになる。

カタールに旅立つ前の最後の試合となったニューカッスル戦でも、遠藤は輝きを放った。75分間の出場だったにもかかわらず、69本のパスを出し、チーム最多の63本を成功させた(成功率91.3%)。37本のパスをニューカッスル陳内で試行し、成功率は91.9%。アレクサンダーアーノルドの4本に次ぐ3本のインターセプトも記録した。

遠藤航のパス
プレミアリーグ2023-24 リヴァプール 4-2 ニューカッスル(2024年1月1日)

遠藤が出場した試合と、そうでない試合では、大きな違いがある。今季のプレミアリーグを見ただけでも、リヴァプールは遠藤が先発した8試合中6試合に勝利している(75%)。一方、遠藤がベンチスタートとなった12試合では、7つの勝ち星に留まっている(58.3%)。また、先発した8試合では5失点(1試合平均0.6失点)、先発しなかった12試合では13失点(1試合平均1.1失点)を喫している。

上記は、遠藤が途中出場した試合のデータは含まれていない。先述したフルハム戦での活躍のように、彼は途中出場でも大きな功績を残している。遠藤がプレーした試合(先発か否かを問わず)で、リヴァプールは、15戦11勝(73.3%)を記録し、34得点(1試合平均2.3得点)を挙げて、1試合平均の勝ち点は2.4となっている。遠藤が全くプレーしていない5試合では、2勝しか挙げておらず(40%)、9得点(1試合平均1.8得点)で、1試合平均の勝ち点は1.8だ。

遠藤航が出場した試合と、出場しなかった試合の比較
プレミアリーグ2023-24

今夏、遠藤のリヴァプール移籍が決まったときに公開した記事では、彼の空中戦の強さに触れた。遠藤がシュツットガルトに在籍していた期間中、ブンデスリーガのミッドフィールダーで彼よりも多く空中戦に勝利した選手はいない。遠藤は90分平均で3.7回中2.2回の空中戦勝利を記録。同期間の合計は219回に昇った。このパフォーマンスは、プレミアリーグでも継続している。リヴァプールのミッドフィールダーで、遠藤の90分平均の空中戦勝利数(3.6回中1.9回)を上回る選手はいない。プレミアリーグでも、出場時間500分以上の選手で遠藤のこの記録を上回るのは、8選手のみだ。

遠藤は、昨季のブンデスリーガで、攻撃シーケンス(マイボールの一連のプレー)への関与数でもシュツットガルトでトップの129回を記録した。しかし、この記録はリヴァプールでは継続できていない。今季の出場時間180分以上のリヴァプールのミッドフィールダーでは、ハーヴェイ・エリオット(7.9回)、ドミニク・ソボスライ(6.7回)、カーティス・ジョーンズ(5.9回)、ライアン・フラーフェンベルフ(5.0回)が、90分平均の攻撃シーケンス関与数で遠藤を上回っている。ただ、遠藤のの4.8回はマックアリスターの4.7回よりも僅かに多い。

攻撃シーケンス関与数(シュートで終わったオープンプレーのシーケンス関与数、90分平均)
プレミアリーグ2023-24 プレー時間180分以上の選手に限定

リヴァプールが遠藤と契約したとき、クロップ監督は守備的なマインドセットを持つミッドフィールダーを獲得できたことに感謝した。クラブは先述のカイセドに加え、ロメオ・ラヴィアをチェルシーに横取りされていた。

12月、改装されたリヴァプールのアンフィールド・ロード・スタンドのテストイベントで、クロップ監督は、「この夏、移籍市場で我々に奇妙なことが何度か起こったが、ここだけの話、ラッキーだったと思う。そのときはわからなかったし、そう感じていなかったけど、いまは結果的によかったと思っている」と話し、冗談交じりに続けた。

「他の守備的ミッドフィールダーがリヴァプールへの加入を望んでいないと気がついたとき、我々は遠藤を見つけた。彼は素晴らしい選手だ」

遠藤に与えられた役割のうちの一つは、ファビーニョの空けた穴を埋めることだった。昨季、低迷が続いたファビーニョはサウジアラビアのアル・イテハドに移籍となった。

昨季すべての公式戦を通した数値で、遠藤はファビーニョを上回った。90分平均のタックル数(2.22対2.19)、インターセプト(1.50対1.25)、ボール奪取(6.8対5.9)、相手サードでのボール奪取(0.92対0.71)、そしてパス数(64.4対60.3)。

遠藤の数値は、今季、唯一同じ中盤の底でプレーするチームメイトのマックアリスターにも引けを取らない。昨季までブライトンでプレーし、FIFAワールドカップ優勝メンバーである彼は、プレッシャー下での前線へのパスで遠藤に勝る(5.6対2.2)。これは、彼が遠藤よりもボール保持時に挑戦的であることを示す。しかし、遠藤の整然としたプレースタイルと、よりリスクを冒さない性格は、おそらく最近のリヴァプールの安定したパフォーマンスの一つの要因となっている。

遠藤航とA.マックアリスターの比較
2023-24シーズン公式戦

先日、クロップ監督は遠藤について言及した。

「最近は(世間が)選手たちに時間を与えてくれない。私がこのクラブに来てから、適応するのに時間のかかった大物選手もいれば、時間がかからなかった選手もいた」。

「アンディ・ロバートソンは、加入から半年ほど、ほとんどメンバー外で、プレーせずに過ごした。ファビーニョは当初、6番のポジションを一人でプレーすることができなかったから、システムを変更しなくてはいけなかった。時間が経ってからプレーできるようになり、そのポジションを自分のものにした。だから問題はなかった」。

「少しは時間が必要なんだ。それだけのことだ。トレーニングで毎日、(遠藤を)見ているが、彼は私が会ってきた中でも、最もハードワークする選手の一人だ。彼が活躍するのはわかっていたことだが、いまは世間にもそれが伝わったから私も嬉しいよ。我々の仕事にとっても大切なことだからね」。

遠藤のクオリティに懐疑的だったリヴァプールファンは、いまは彼がアジアカップから一刻も早く戻ってきてくれることを願っている。

偉大なビル・シャンクリーがかつて言った。「サッカーチームはピアノのようなものだ。運ぶのには8人必要だが、演奏できるのは3人だけだ」。

遠藤はアリソンやファン・ダイク、モハメド・サラーのような象徴的な存在にはなれないかもしれないが、ピアノを運び続けることができれば、リヴァプールが彼を信じて下した決断を、正当化することはできるだろう。


この記事は、自社メディア『Opta Analyst』に掲載された記事を翻訳したものです。
元記事はこちら▼
How Wataru Endo Became One of Liverpool’s Most Important Players

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