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リヴァプールは、なぜ遠藤航と契約するのか?データで見えたクロップサッカーとの親和性

リヴァプールは、守備的ミッドフィルダーの穴を埋めるため、遠藤航の獲得に動くというサプライズを見せた。ユルゲン・クロップ監督は、なぜ日本代表キャプテンに興味を示したのだろうか



サッカー界の1週間は長い。つい数日前、リヴァプールはブライトンのモイセス・カイセドに国内記録となる額の入札を行った。その後、彼らは当初のターゲットであったロメオ・ラヴィアに照準を戻した。しかし、最終的に彼らは二人ともチェルシーに行くことになった。

水曜日の夕方、彼らはシュトゥットガルトと日本代表キャプテン、遠藤航にターゲットを絞ったというニュースが流れた。きっとリヴァプールは交渉がまとまる前に、遠藤の代理人にチェルシーの電話番号を着信拒否設定するよう要請しただろう。

この夏の初めにファビーニョとジョーダン・ヘンダーソンがサウジアラビアのクラブに移籍してしまったため、ユルゲン・クロップ監督にとっては、待望の守備的ミッドフィルダー獲得となる。しかし、カイセドより9歳年上、ラヴィアより11歳年上の遠藤の加入を予想した者はほとんどいなかっただろう。

とはいえ、遠藤が必ずしも奇妙な選択だというわけではない。

報道によれば、30歳の遠藤は新スポーツ・ディレクターのヨルク・シュマットケが主導による移籍が決定しており、移籍金はカイセドに入札したとされる額よりも9500万ポンド低い、約1600万ポンド(約29億円)。マインツやボルシア・ドルトムントの監督だったクロップは、同じブンデスリーガのシュトゥットガルトで4年間プレーした遠藤について、よく知っているはずだ。さらに、クロップ監督が少年時代に応援していたチームが、地元のシュトゥットガルトであることも、彼の獲得を後押ししただろう。

遠藤航とは何者なのか?

かつて湘南ベルマーレと浦和レッズでプレーした遠藤航は、20代半ばでベルギーのシント=トロイデンに移籍した。わずか1シーズン後、まだドイツ2部リーグに所属していたシュトゥットガルトにレンタル移籍し、2019年のブンデスリーガ昇格後に同クラブに完全移籍を果たした。遠藤はシュトゥットガルトでファンの人気者としての地位を確立し、最終的にはキャプテンに就任した。その後、クラブだけではなく日本代表でも主将となった。

遠藤は、2022年FIFAワールドカップ・カタール大会で衝撃を与えた日本代表で重要な役割を担い、サムライブルーを率いてスペインとドイツを破り、グループEをセンセーショナルに勝ち抜いた。

遠藤航の守備的アクション
カタールW杯

キャプテンのヘンダーソンと副キャプテンのジェイムズ・ミルナーがともに退団し、この夏の間に多くの選手がいなくなったリバプールのチームに、遠藤はさらなるリーダーシップをもたらすはずだ。フィルジル・ファンダイクとトレント・アレクサンダーアーノルドがキャプテンマークを引き継いだが、ドレッシングルームやトレーニングフィールドでの豊富な経験と彼の発言力は、昨シーズン、そのような個性に欠けることが多かったチームにとっては歓迎すべきことだろう。

代名詞の『デュエル』では、ファビーニョやヘンダーソンに勝る

遠藤は闘争心あふれる選手だ。ブンデスリーガでの3シーズンを通して、彼はリーグ最多のデュエル数(1,274回、勝率54.6%)、MFとしては最多の出場時間(8,783分)を誇り、ポゼッションを獲得した回数(706回)と、タックル試行回数(207回、勝率58.5%)はリーグで2番目に多かった。

遠藤航の出場時間とCMFとしての平均ポジション
ブンデスリーガ(2020年9月以降)

少し残念なのは、ブンデスリーガ通算99試合に出場しているため、リヴァプールへの移籍が実現すれば、100試合の節目を逃してしまうことだが、プレミアリーグのアンフィールドに立つことができるのだから、気にすることはないだろう。上の図が示すように、彼はほとんどの試合でセントラルMFか守備的MFとしてプレーしている。また、センターバックとしての経験もあることは、クロップ監督にとって有益だ。

遠藤は、身長178センチと決して長身とは言えない体格にもかかわらず、空中戦でかなり優位に立っていることも知っておくべきだろう。ブンデスリーガでのプレーで、219回もの空中戦を制したMFは他におらず、90分あたりに直すと、3.7回の試行で2.2回を勝利している。これは、ファビーニョ(90分あたり2.7回の試行で1.5回の勝利)、ヘンダーソン(90分あたり1.0回の試行で0.6回の勝利)、ミルナー(90分あたり3.0回の試行で1.6回の勝利)を大きく引き離している。

遠藤航の空中戦(赤丸が勝ち、白丸が負け)
ブンデスリーガ2022-23シーズン

攻撃の起点としてもブンデス屈指

最近のリヴァプールには経験豊富な守備的MFが欠けているため、ファンはそのような存在に魅力を感じるだろうが、遠藤は単なるデストロイヤーではない。遠藤は昨シーズン、シュート35本、チャンスクリエイト*39本、シュートで終わったビルドアップに加わった数55回を記録し、攻撃のシーケンス**に合計129回、関与した。シュトゥットガルトの攻撃的シークエンス関与数で首位に立った。昨季、この数字で100回を超えたのは、チームでは遠藤とクリス・ヒューリッヒだけだった。
*チャンスクリエイト:シュートに繋がったパス
**シーケンス:チームがボールを保持し始めてから手放すまでの一連の流れ

実際、彼がプレーしたブンデスリーガ3シーズンの間において、オープンプレーからシュートで終わったシーケンスの起点になった数で、遠藤の90回を上回ったのは、バイエルン・ミュンヘンのヨシュア・キミッヒ(118回)だけだ。これは、遠藤がボール奪取能力に長けているだけではなく、ルーズボールを適切な位置とタイミングで回収できていることを示している。

遠藤のパスの精度(昨シーズンのブンデスリーガでは79.7%)は低いように見えるが、それは彼のパスの32.1%が前方へのパスであり、9.7%がロングパスだったからだと言える。ドルトムントのジュード・ベリンガムも同じような割合のパスを記録し、パス精度は83.0%にとどまっている。

ベリンガムと同様、遠藤もゴールを脅かす。昨季はブンデスリーガ33試合に出場して、得点関与数9回(5得点、4アシスト)を記録した。そのうちの1つは、2-2で引き分けた第2節のヴェルダー・ブレーメン戦でのもので、ゴール期待値(xG)はわずか0.03だった。

第2節ブレーメン戦でのロケットシュート

遠藤は、クロップサッカーに適した守備的MF

彼はチャンスクリエーターでもある。昨季のブンデスリーガで、オープンプレーからのチャンスクリエイトが遠藤の46回を上回った選手は、ジャマール・ムシアラ、ムサ・ディアビ、ラファエル・ゲレイロ、そして同じリヴァプールの新戦力、ドミニク・ショボスライだけだ。

オープンプレーからのチャンスクリエイト数ランキング
ブンデスリーガ2022-23シーズン

下の画像は、昨シーズン最終節のホッフェンハイム戦でのティアゴ・トマスへのアシストだ。自陣深くでボールを受けると、味方の走り出しを素早く察知し、相手ディフェンスの頭上を越えるパスを出した。彼の視野の広さと決断力を示す好例だ。

トマスはそれを受けて走り出し、相手DFとの競り合いを制してニアポストへシュートを放つ。

これは、できるだけ早くボールを前に運びたいという遠藤の意欲の表れであり、もちろんリヴァプールの素早いトランジションのキープレーにもなる。リヴァプールはポゼッションを素早く奪い返すことを好むが、前線の速さを生かし、相手の準備が整う前にボールを素早く運ぶことも得意としている。

下の画像も、この分野において遠藤が優れていることを表している。中盤でウニオン・ベルリンのプレスをかいくぐり、2度のタックルを突破してスペースに走り込んだ場面だ。

ハーフウェイラインまで素早くボールを運び、走り込んだトマスにロングパスを供給する。トマスはゴール前に抜け出す。

最終的にトマスのシュートはセーブされたが、自陣ペナルティエリア外10メートル以内でボールを受けてからトマスが1対1のチャンスを得るまで、わずか7秒しかかからなかった。

遠藤の獲得は『短期的な解決策』か

彼がダイヤの原石だと言っているのではない。実際、遠藤は30歳で、ヨーロッパの主要リーグの上位争いをするようなクラブでプレーしたことはない。そのため、遠藤の獲得には疑問を持つ人もおり、数日前までリヴァプールが獲得を狙っていた選手たちのプロフィールと比較すれば、その理由も理解できる。しかし、ここ数カ月でクラブが失った多くの資質を補うためのチームのオプションとしては、かなり理にかなっているように思える。

遠藤は短期的な解決策と考えられるだろう。クロップ監督は移籍市場が閉まる前に、守備的MFをもう一人加えたいと考えているという噂もあるが、そうでないとしても、昨シーズン印象的なプレーを見せた有望な若手、ステファン・バイチェティッチの成長にとって遠藤が邪魔になることはないだろう。

リヴァプールファンの中には少々落胆している人もいるかもしれないが、今夏の守備的MF市場はスーパースターが勢揃いしたわけではない。今回、クリスタル・パレスのシェイク・ドゥクレのような選手を獲得しないのであれば、1~2年後にクラブが長期的な解決策を講じる予定なのかもしれない。

ドイツでの遠藤を知る者は、選手としても人間としても、その資質を高く評価しているようだ。シュトゥットガルトの元チームメイト、マリオ・ゴメスは最近、記者団に以下のように語った。

「僕は航が大好きなんだ。航はドレッシングルームで僕の隣に座っていたんだけど、最初の頃は監督が彼を起用しなかったから、本当に苦労していた」

「僕は(トレーニングで)航と同じチームに入れてくれといつも監督に言っていた。彼がいれば負けないからね。私はただ、彼を推薦していたんだ」

「あるとき、監督は彼を起用した。彼は素晴らしいプレーをした。彼が出場しているのは、私が監督に推薦したからではなく、彼が本当に素晴らしい選手だからだ。いま、彼はキャプテンになった」。

移籍の噂が出るまでは、誰も彼のことを話題にしなかったかもしれないが、少なくとも数字上では、遠藤はクロップサッカーに適した選手だ。

何より、彼はチェルシーでのプレーを望んでいない守備的ミッドフィルダーだ。リヴァプールにとっては、これが一番重要なことだろう。


選手比較ツールを使えば、昨季の欧州5大リーグの選手の中から、遠藤航に近い選手を探すことができます。


この記事は、『Opta Analyst』に掲載されて記事を翻訳したものです。
元記事はこちら▼
From Hendo to Endo: Why Are Liverpool Signing Wataru Endo?

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