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トラッキングデータとイベントデータの統合 - 5つの重要な洞察

※この記事は、Stats Performオウンドメディア「The Analyst」からの転載記事です。

プロサッカーリーグのパフォーマンス分析が成熟するにつれ、トップクラブで働くアナリストの多くは、分離して利用されている複数のデータセットから戦術に関連するインサイトやトレンドを導き出そうと努めています。

そのようなデータセットの1つが、リーグ内の全クラブが利用できるトラッキングデータで、フィールド上の全22選手の位置と動きを記録しています。このデータは20年以上前から取得されており、アナリストはパフォーマンスと戦術の両方の観点から、設定された指標に対するすべてのプレーヤーの行動を確認することができます。これまで、このデータは素データとしてのみ利用可能であり、長期的なトレンドの特定には限界がありました。

しかし、ここ数ヶ月の間に、トラッキングデータから派生した多くのメトリクスが、トラッキングとイベントのデータセットを統合して利用できるようになり、初めてフロントエンドの分析ツールであるStats PerformのProVisionで照会することができるようになりました。これにより、パフォーマンス分析に新たな道が開かれ、相手プレイヤーの長所と短所を瞬時に把握することができるようになりました。

イベントデータが提供できるのは、起こったプレーに対する情報のみ
トラッキングデータが提供できるのは、ボールと選手の位置情報のみ
2つのデータを統合することで、各プレーの文脈が読み取れる

イベントデータと合わせて、40種類以上のトラッキングに関するフィルターを利用することができ、以下の3つの分野に対応しています。

  • 選手の位置情報:平均的な走行距離のメトリクスとオフ・ザ・ボールでの走行を活用したデータ。

  • パフォーマンスメトリクス:選手の走行距離とスプリントのデータ。

  • パスデータ:パスの速度、パスによって突破した相手選手の数、詳細なクロスデータなど。

この情報を使って、プレーデータに文脈を加えたレポートを日常的に作成することが可能になりました。ここでは、統合されたデータセットを使用して実施できるようになった5つの分析例を紹介します。

1 - クロスでの良い意思決定と悪い意思決定

このデータセットの主な利点の1つは、すべてのプレーにおいて、ピッチ上の全選手の位置を把握できることです。これは、特に両サイドにいる選手のクロスのパフォーマンスを分析するのに有効です。

ProVisionのトラッキング・フィルタの1つで、クロスが送られたときに相手のペナルティ・エリア(PA)内に何人の選手がいるかを判断することができます。これにより、アナリストは、PA内にチームメイトがほとんどいないときに頻繁にクロスを供給する選手を特定することができ、攻撃エリアでの悪い意思決定を浮き彫りにすることができます。

クロス時:PA内に攻撃の選手が1人の場合

逆に、同じ原理で、ボールがどちらかのサイドにあるとき、クロスに合わせるために多くの選手がPA内に侵入してくるチームを探し出すこともできます。これは、試合レベル、シーズンレベルで、プレーごとに分析することができます。また、平均値をリーグ平均と比較することで、両サイドからのオープンプレーでのクロスについて、チームの傾向の洞察を得ることも可能です。

つまり、クロスの数とその結果だけでなく、これらの結果の背後にある要因を明らかにするための文脈が得られるのです。

2 - センターバックによるプログレッシブ・パス

ディフェンダーのパス傾向を分析する場合、自陣からボールを前進させる選手を正確に把握することは、ボールを持っていないときのチームのアプローチに影響を与えます。

パスの方向、開始/終了位置、結果などのイベントデータからフィルタリングすることで、ディフェンダーがボールを持ったときにどれだけ快適に過ごせるかについての洞察を得ることができます。しかし、トラッキングを追加することで、この分析をさらに推し進めることができます。

このデータを使って、アナリストはパスで突破した相手選手の数パス1本あたりの平均突破人数をフィルタリングすることができます。クラブ独自の定義に合うように、グラウンダーパスだけに絞ってパス数を制限したり、パスの始点となったエリア(例:ディフェンシブサード)を限定したりすることも可能です。

プログレッシブ・パス:相手選手を突破するグラウンダーパス

これらの洞察を複数試合や特定のチームの分析に用いて、この指標において評価の高い選手を特定し、彼らのパフォーマンスを他のパス関連指標と比較することができます。ボールを前進させるパスを供給することが得意なセンターバックを特定し、さらにポゼッションバリュー(PV)を使用することで、どの選手がパスによってチームが得点する確率を高めているかを導き出せます。一方で、ポゼッション時に貢献できていないディフェンダーや、プレッシャーが苦手なディフェンダーを特定するのにも役立ちます。

3 – プレッシャー下におけるパスのパフォーマンス

トラッキングデータの重要な利点の一つに、フィールド上のすべての選手とボールを保持している選手との距離を常に把握できることがあります。これにより、各選手が相手選手が近くにいるときにどのようなパフォーマンスを見せるかを考慮したパス分析ができます。

ProVisionでは、パス情報にトラッキングフィルターを追加することができ、ボールから2メートル以内に何人の相手選手がいるかによって数値がどのように変動するかを分析することができます。パスをする際に2人以上の相手選手が近くにいる場合、大きいプレッシャーがかかっていると考えられます。この数値を使って、チーム内の対称的な選手を比較したり、プレッシャーにさらされたときに最もボールを失いやすい選手を特定したりすることができます。

4 – 運動効率と効果的なプレッシャーの関連付け

イベントデータのみを使用する場合、PPDA(攻撃エリアでの守備的アクションあたりの相手のパス数)と、ボール奪取のデータを組み合わせ、チームが相手にプレスをかけているかどうかを識別していました。複数の試合でのPPDAの合計が低い場合は、チームが素早くボールを取り返そうとしていることを示し、高い場合は、チームが自陣でブロックを形成し、相手にボールを持たせる傾向があることを示唆しています。

トラッキングデータを追加すると、イベントデータから得られる洞察と、フィールド上の各選手の動きの激しさとの間に相関関係を確立することができます。これは、統合されたデータセットで利用可能な2つのメトリクスを使用して行うことで実現できます。1つは、選手のピーク速度(1秒間に何メートル移動したかで測定)。もう1つは、各選手が高速で移動した距離の合計(メートル)です。

これらのデータは、激しいプレッシャーをかける戦術を採用しているチームにおいて、どの選手のカバー領域が最も大きいかという情報を提供するだけでなく、様々なProVisonフィルターを活用することで、ロングボールでプレッシャーを回避するチームなど、異なるタイプの相手に対して、選手の運動効率とチームの非ポゼッション時のアプローチが、シーズン平均と比較して、どのように変化するかを確認することができます。

5 – 攻撃時のコーナーキックにおける選手の使い方

2020/21シーズン、欧州5大リーグでは、PK以外の得点のうち20%がセットプレーから生まれた。この数字は、チームがコーナーキックやフリーキックからのチャンスを最大限に生かすことや、これらのプレーで守り切ることの重要性を強調している。

2020/21シーズンのセットプレーからの得点

ゴール期待値(xG)のような高度な指標は、どのチームがコーナーキックから質の高いチャンスを作っているか、または作られているかを知ることができますが、選手の位置データを利用することで、これらの状況下でチームがどのような陣形を形成しているかを特定することができます。

トラッキングのフィルターを使用することで、ペナルティエリア内またはゴールエリア内に何人の選手がいたか、その陣形がシーズン中に何度使用されたかなどを確認することができます。例えば、コーナーキックの際に相手選手が2人ゴールエリア内に立っているシチュエーションが何度あったか、また、そのようなシチュエーションから何度チャンスを作られたかを特定できます。

複数の試合を通してこれを分析することで、セットプレーを守る際のチームの潜在的な弱点を発見するのに役立ち、次の試合の戦術に反映させることができるのです。

コーナーキックの陣形:ゴールエリア内に攻撃側の選手が2人いる場合

この記事では、トラッキングデータとイベントデータを組み合わせたデータセットが、どのように優れた選手や潜在的な弱点を持つ選手を特定するかをご紹介しましたが、これらは一例に過ぎません。

ProVisionのトラッキングフィルターはすべて、個々のレポートやカスタマイズしたスタッツに追加することも可能で、さまざまな状況における分析の可能性を広げます。

ProVisionについてもっと知りたい方や、どのリーグのトラッキングデータが提供可能かなどのご質問がある方は、下記よりお問い合わせください。

▼参考:ProVisionとは?

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