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なぜ「NFTは終わった」と言われているのか


スタートバーンCOOの太田です。
(かなり遅くなってしまいましたが)本年もどうぞよろしくお願いいたします。新年に相応しくないタイトルかもしれませんが、ご笑覧いただけますと幸いです。

2021年春にBeepleというアーティストのNFTアート作品が約7,000万ドルという高価格で落札されたというニュースから、突如一種のブームとなったNFT。しかしながら最近では翻って「NFTバブルは弾けた」「NFTブームは終わった」などマーケット縮小を伝えるマスメディアが増えていきています。(あの時はあんなに盛り上げてくれたのに最近冷たくて寂しい。。。)
とはいえ、実際ビジネスとしてNFTを扱っている私たちとしては「マーケットのフェースが切り替わった」という表現の方がしっくりきます。実際にまだまだ多くの大企業がNFTをはじめとしたWeb3領域への参入や投資を発表しています。

このメディアでの話とビジネス現場で感じていることの間の大きなギャップを去年2023年の夏ころからヒシヒシ感じ始め、この感覚を言語化しないといけないなと思い本記事を書くに至りました(ダラダラしすぎて書き終わるのに2-3ヶ月も要してしまいました。。。)。
そこで今回は、実際にマーケットで何が起きてて、何が原因で上記のようなギャップが生じているのか考察してみたいなと思います。

スタートバーンが何をやっているのかについては、スタートバーン執行役員渡辺の下記記事たちによくまとまっているので、今回は軽く触れる程度にしようと思います。

ちなみに、前回私がこのnoteで記事を書いたのは遥か昔2021年4月。皮肉なことに、NFTブームの真っ只中においてNFTアートについての解説をしていました。。。「そもそもNFTってなんなのかから知りたい」という方はこちらもぜひチェックしてみてください。


1. マスメディアで何が言われているのか

まずはメディアでどのようにNFTが語られているかみていきます。
多くのメディアで「NFTバブルは弾けた」と言われているのが最近の現状です。2022年に起きたテラ(LUNA)の大暴落や暗号資産取引所FTXの破綻なども相まって、ブロックチェーン業界全体の低迷の様相を「冬の時代(クリプトウィンター)」と表現するメディアが散見されます。(2014, 2018年に続く3回目の冬です。。。)

とくに、暗号分析会社ダップギャンブル(dappGambl)が、全NFTの95%が実質無価値であるという分析結果を公表したことで、この流れに拍車がかかったように感じられます。

Gartner社が毎年公表している先端テクノロジーのハイプ・サイクルでも2023年ではWeb3、NFTともに幻滅期に該当しており、将来的なマスアダプションの前の低迷期であるとの評価になっています。

日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2023年
出典: Gartner

東洋経済社が毎年選出しているの「すごいベンチャー100」でも、2022年ではWeb3というカテゴリーがありその中で7社も選出されていたのに対して、2023はWeb3カテゴリー自体が無くなりブロックチェーン関連企業も2社のみという結果になり1年の間でメディアの評価がガラッと変わったことが見受けられます。

メディアのトーンダウンの裏には、NFTの市場縮小だけでなく、生成AIの盛り上がりもあるのかもしれません。ChatGPTの登場で誰もが生成AIを日々の生活の中で活用できるようになりました。それによって同じIT分野の中で、生成AIの注目度がぐんと上がりました。一方でNFTは対照的にマスアダプションにつながるようなキラーユースケースが正直まだ出てきていません。生成AIとの比較の中で、一般ユーザー誰もが簡単にイメージできるような活用事例がNFTではうまれていないことが、最近のメディアの反応を助長しているようにも見えます。

他方で興味深い別の動きもメディア上で見られます。極端さを求めるメインストリームメディアに反発するような言説がウェブを中心に出てきているのです。多くのマスメディアでは、Beepleをはじめとした高額NFTの取引やそれらの価格暴落などわかりやすい表面的な事例ばかりが取り上げられがちです。その結果、NFTの技術的・ビジネス的本質が中々伝わらず、ユーザーの誤解にもつながりかねません。このような状況を批判的に報じる中小メディアが出てきています。

2. NFTの取引状況の推移

では、実際NFT市場は直近どのように推移しているのでしょうか。「NFTバブルは弾けた」といわれていますが、実際にNFTの取引量はどのような変遷を見せているのでしょうか。
Dune AnalysisというサービスでNFTの取引量の推移を見てみました。下記にEthereum上のNFTの取引量を金額ベースと取引数ベースでまとめています。
まず金額ベースでは、2022年5月ごろに暴落してからずっと低迷しているのがわかります。暗号資産マーケットの下落がきっかけとも言われています。

Ethereum上のNFT取引量推移(金額ベース)出典: Dune Analysis

一方で取引数を見ると2022年5月以降もそれ以前と変わらないペースで推移しています。このことから、それまでのNFTの市場拡大が一部の高価格NFTの取引によって支えられていた、そのユースケースが2022年5月ころを機に縮小したことがよくわかります。

Ethereum上のNFT取引量推移(取引数ベース)出典: Dune Analysis

また2023年春以降になると取引数も下降しており、本格的にEthereum上でのNFTのやり取りが減っていることがわかります。一方でPolygonをはじめとした他のブロックチェーンでは必ずしも取引数の縮小トレンドはこの時期見られず、NFTの主フィールドがEthereumから他のチェーンに移りつつあるのかもしれません。

Polygon上のNFT取引量推移(取引数ベース)出典: Dune Analysis

これはNFTの使われ方が変わってきたからとも推測できます。NFTアートような高価なコンテンツで希少性を担保することが重要な場合、分散性の高いEthereumが最も適しています。しかしながらEthereumはスケーラビリティに問題があり(一度にたくさんの取引ができない)ガス代(ブロックチェーンに支払う手数料のようなもの)も高いことから、数多くのNFTを素早く取引する必要のあるユースケースの場合はPolygonをはじめとした他のブロックチェーンの方がよかったりします。当初はNFTアートやNFTコレクティブルのような高単価NFTの取引が市場の中心でしたが、チケットや証明書など幅広い使い方がされるようになるにつれ、NFTの取引単価も下がりブロックチェーンもEthereumから他チェーンへ広がりはじめているのではないでしょうか。

3. 最近のNFTの利用ユースケース

次に、具体的にどのようにNFTが使われ始めているのか、国内の事例を中心に見ていきましょう。

チケットや会員権としてのNFT

すでにチケットの電子化は進んでいますが、NFTを付加することでさらにアップデートされます。まずシンプルに、この世に10枚しかないチケットのうちの1枚を持っている、確かにあの時のコンサートに行った証明ができる、といったような希少性・真正性の証明として役にたちます。自分が応援しているアーティストに対して自分の推し活の記録を証明できるのは大きいですね。さらには一枚のチケットを通じて、複数の事業者や複数のイベントが横断的にユーザーに働きかけることも可能です。例えば、

  • 多くのアーティストが集まるフェスのチケットを持っているとあとで特定のアーティストのファンクラブwebsiteに入れる。

  • イベントに参加するとその周辺の施設の会員にもなれる。

みたいなことも簡単にできるようになります。このようにチケットが一回きりのものではなく、いろんなところで幅広く活用可能な「会員証」「権利証」のようなものになるイメージです。
それを実現しようとしているのが、大阪万博の事例だと思います。

スタートバーンも小田急電鉄さんと共催している年一回のアートイベント、ムーンアートナイト下北沢でNFTチケットを導入しました。NFTチケットを持っている人だけがみれるアート作品があったり、チケット以外にもNFTスタンプラリーがあったりと老若男女の多くのお客様にご利用いただきました(2023年来場者40万人!!!)。

RWA (Real World Asset)

株式や債券、不動産などの既存のアセット (Real World Asset) をトークン化(NFTやFTにすること)する動きが今年に入って活発になっており、下記レポートでも2030年に1500兆円規模まで市場が拡大すると予測されています。

RWAのトークン化が活発になったきっかけは、米国債などのリスクフリーなアセットの利回りがDeFiのレンディング利回りを上まったことで暗号資産長者たちがオンチェーン上でそのようなリスクフリーアセットにアクセスしたいという需要が高まったからと言われていますが、その後不動産や動産などのフィジカルアセットをトークンかする流れも同時に生まれ始めています。

不動産の例: NOT A HOTEL

アートやジュエリーなどの動産の例: 4K.com, Americana


スタートバーンも、アート作品を中心として様々なフィジカルコンテンツの証明書としてNFTを運用・提供してきました。
2019年からSBIアートオークションにも継続的に導入いただいており、2023年には過去に付与された販売証明書(= NFT)を持つ作品が複数出品され、すでに作品の二次・三次の流通サイクルが起こり始めています。

アート作品の他に、工芸品や漫画作品、サイン付きユニホームなど様々なアセット・コンテンツに活用されています。

B-OWND: 現代工芸のECプラットフォーム

SHUEISHA MANGA ART HERITAGE: 漫画原画の高精細出力作品の販売


その他にもブロックチェーンゲームであったり、EUなどを中心にトレーサビリティ・カーボンニュートラルなどの文脈でもNFTが活用されていたりします。
チケットやRWAやゲームなど、初期のデジタルアートと比較して既存のビジネス領域により近い分野でNFTが活用され始めているのは、近い将来のマスアダプションの予兆かもしれません。

4. まとめ

NFTはツール、大事なのは何にNFTを付与するか

このように見てみると、画像にNFTをつけるだけでその画像が持つ価値以上の価格がつく錬金術的なプロジェクトは淘汰されていき、その代わりに本質的に価値があるものに対してNFTを付与することでアクセシビリティや流動性などの問題が解決され市場価値が顕在化されるようなより真っ当なユースケースが市場の中で実装されはじめている、それだけのことに過ぎないのかもしれません。
NFTはあくまでもメタデータを記録継承しプログラムを自動実行するためのツールです。価値の本質はNFTが付与されている画像などのデータに帰属しています。NFTはその価値を顕在化させたり拡張させたりするもので、元の価値がないものにNFTを付与させても何も起こりません(ゼロに何をかけてもゼロのままです)。

NFTアートブームで見えたNFTの可能性

こう言うとまるでNFTアート自体を否定しているように聞こえるかもしれませんが、決してそんなことはありません。2020年後半から始まったNFTアートの盛り上がりは、NFTの持つあらゆる可能性を明らかにしてくれました。

一部のNFTは価格がバブル的に異常なまでに跳ね上がりサスティナブルなものとは決して言いがたいものであったかもしれません。しかしながら、それらNFTコレクションの周りには確かに多くの熱狂的なコミュニティが生まれ、いままでのデジタルコンテンツでは中々みられなかったユーザーの動きが散見されました。DAO(自律分散組織)と言われるボトムアップ型のコミュニティもその良い例です。デジタルコンテンツにNFTを付与することで特定の企業やプラットフォームに依存しない形でより滑らかな「作り手とユーザー」あるいは「ユーザーとユーザー」の関係性が成立するようになりました。
見方を変えると、NFTを介して「デジタルコンテンツを所有できる」ようになったことで、今まで以上に熱狂的なコミュニティができやすくなっているとも言えます。物理の世界でも、アートやトレーディングカードなど所有・蒐集する分野ではコミュニティが発生しやすいのは事実です。”所有する”ことで、そのコンテンツへの帰属意思が高まり類が友を呼びやすくなるのかもしれません。

また、依然としてNFTつきの画像は、真正性を担保しながら記録ができたりプログラムを付加できたりするという点で、旧来のただの画像データよりも優れていると言えるでしょう。先述のとおり、NFTをつけただけで画像自体の価値・価格は上がりません。しかし将来その画像が広く流通されることまで加味すると、NFTが付いていることのメリットは大いにあるのではないでしょうか。

結論: なぜ「NFTは終わった」と言われているのか

話が広がってしまいましたが一番初めの問い「なぜ『NFTは終わった』と言われているのか」に立ち戻ってみると、その回答は

  • NFTの市場は確かに縮小している(ただそれは「NFT付き画像」の市場)。

  • まだキラーユースケースがNFT業界には出てきていない。それが生成AIとの比較の中でより浮き彫りになってしまっている。

  • お金が絡むニュースが多い(高価格のNFTアートや暗号資産のアップダウンなど)ので、その表面的な部分が頻繁にメディアに取り上げられ、市場の浮き沈みがより際立ってしまっているのかもしれない。

  • だがしかし、チケットやRWAなど将来のキラーユースケースに繋がるような事例は出てきており、実際にそこに大企業の資金も入ってきている。今まさに将来のマスアダプションに向けたかなりエクサイティングなフェーズです、乞うご期待。

ということになるのでないでしょうか。

NFTは他のテクノロジーと比べて、即効性や短期的な利便性はそこまでありません。それよりもロングテールに広がれば広がるほど大きな力を発揮します。NFTチケットの例を一つ取っても、全ての電子チケットがNFTとなり活発に二次活用されるようになったら、かなりゲームチェンジングな話になります。このように、NFTはマスアダプションまである程度の時間を要するというリスクはあるものの、ある閾値を超えた時に爆発的な社会影響を与えるポテンシャルも持ち合わせていると思います。特に今後AIやメタバースをはじめとした様々なテクノロジーが発展し世の中のデータ・情報量が増えれば増えるほどNFTが活用されるシチュエーションも増えていくはずです。この辺りの話もまた別の機会に詳しく考察できたらなと思っています、お楽しみに!

それでは、最後までお読みいただきありがとうございました。

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