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韓国版マイナンバー(住民登録番号)

こんな報道がありました。↓

『政府は来年にも個人のマイナンバーと預貯金口座を連動させる。個人向けの給付の手続き などをマイナンバーカード だけでできるようにする。義務付けはせず選択制にする見通 し。菅義偉首相が掲げる行政デジタル化の切り札と位置づけ、来年1月召集の通常国会で 法整備をめざす。』(2020年9月24日 日本経済新聞朝刊)

未だ普及率が20%程度とあまり国民に浸透していないマイナンバーカードですが、これが100%普及した場合の生活はどのようなものになるのでしょうか? 住民登録番号が全国民に付されている韓国の事情を見ながら考えたいと思います。分かりやすいように、新型コロナ対策の給付金を例にとってみていきましょう。

給付金の比較

日本では、いろいろな種類の給付金がありますが、全国民が一人当たり10万円がもらえる「特別定額給付金」と中小企業や個人事業主がもらえる「持続化給付金」が主なものです。「持続化給付金」は、去年の月平均売上高よりも50%以上売り上げが減少した月があれば給付対象となり、法人の場合は200万円、個人事業の場合は100万円が、それぞれ限度額になります。

韓国では、5月に支給が開始された「一次緊急災難支援金」と9月に支給が開始された「二次緊急災難支援金」とに分かれます。「一次」は、全国民を対象にしており、世帯の人数ごとに金額が決められ世帯ごとに支給されました。一人世帯は40万ウォン、4人以上の世帯は100万ウォンです。これに対して「二次」は特に新型コロナの影響を受けた人たちを対象にするということで、個人事業主等(小商工人)、フリーランサー、就職活動中の無職者などを対象にしています。対象となる小商工人は、2019年度の売上が4億ウォン以下で、かつ、2020年度上半期の月平均売上高が、2019年度の月平均売上高よりも減少したものとされています。

日本も韓国も、全国民に給付するものと、小規模事業者を支援するものとの二段構えになっていますが、大きな違いは日本の方が金額が大きいことと、対象の絞り込みが甘くなっていることです。

対象の絞り込みが甘い、とはどういうことかは、続きを読むと分かっていただけると思います。

迅速かつきめ細かい韓国の給付金制度

まず、全国民に支給した給付金を比較してみましょう。

日本の給付金は、郵便で送られてくる申請用紙に記入・捺印して役所に返送するか、自治体ホームページからオンラインで申請するかのいずれかでした。ただ、オンライン申請といっても、役所でそれをプリントアウトし、住民登録台帳と突合するなどの作業をしていたため、確認作業が追いつかず、給付されるまでに長時間かかるということをニュースでよく見かけました。給付は、申請書に記入した銀行口座に現金振り込みです。

韓国の給付金は、緊急災難支援金の特設ホームページで、自分の個人情報を入力すると、いくら受け取ることができるのかを確認できます。受給資格と金額を確認した上で、自分が保有するクレジットカード会社のホームページにて支援金の受給を申請します。カード会社は本人確認をした上で、決められた支援金の金額を「支援金ポイント」として付与します。このポイントの有効期限は2020年8月31日まででした。また、この支援金は中小企業支援の側面があることから、デパート等の大資本店舗では利用することができず、個人経営の店舗でのみ利用できるように設計されていました。

次に、持続化給付金(二次支援金)です。

日本の給付金は、所定の書類に記入するとともに、通帳のコピーや昨年度の税務申告書などの書類を郵送します。その審査を受けた上で、指定した銀行口座に振り込まれる仕組みです。ただ、給付対象の基準の中に、月次売上高という項目があるのですが、月次決算を行なっていない会社や個人事業も多くあるはずで、これをどのように立証するのか、非常に疑問に思っています。実際に、不正受給で検挙されている人もいることを見ると、受給資格の要件およびその審査がかなり緩くなっているのではないかと想像します。

韓国の二次支援金は、最高200万ウォンと、日本の給付金に比べてかなり少額です。最大の特徴は、自分から給付申請をするのではなく、対象者には携帯のショートメッセージで連絡がくるということです。メッセージを受け取った人は、本人名義のスマホ、電子認証、事業者登録番号、銀行口座番号さえあれば、その場ですぐに申請が可能です。申請から振込みまでの期間は1~2日程度です。

なぜ韓国では、受給対象者を政府が選別できるのでしょうか?その鍵が住民登録番号(事業者の場合は事業者登録番号)にあります。

住民登録番号の使われ方

住民登録番号は、1962年の「住民登録法」に基づいて、韓国国民全員に付与される固有番号です。上6桁、下7桁の合計13桁の数字です。上6桁は、yymmddとその人の誕生日を表し、下7桁のうち最初の数字は性別を表しています。残りの6桁は出生地等を表していますが、2020年10月以降に付与される番号については、ランダムに付与されるように改正されたようです。

韓国では、この住民登録番号がなければ、何も生活できないと言っても過言ではありません。住民票や印鑑証明の取得の際はもちろんのこと、納税申告、社会保険加入、銀行口座の開設、クレジットカードの申請、携帯電話の契約、インターネットサービスの会員登録など、ほぼ全ての生活シーンにおいて、住民登録番号が必要になります。

また、現金で買い物をする際に、住民登録番号をレジの人に伝えると、「現金領収証」というものがもらえるのですが、1年間で受け取った現金領収証の合計金額に応じて、確定申告(年末調整)の際に所得控除されるという制度があります。これが何を意味するかというと、店の端末と国税のデータベースが連携されているため、国民のほぼ全ての買い物履歴を国税が把握できるという仕組みになっています。

この他にも、社会保険料と申告所得額との不自然な矛盾を洗い出したり、場合によっては、申告所得と支出金額のアンバランスさを抽出することで、税務調査に役立てていたりします。

つまり、国家が国民行動のほぼ全てを監視できる仕組みになっています。

そのため、どの世帯に誰が何人住んでいて、携帯電話番号は何番で、どこの会社のクレジットカードを持っているかを政府が把握できるために、受給対象者や金額を迅速に細かく設定し、実際の給付作業もすぐにできる仕組みになっています。

一方で、「事業者登録番号」というのがあります。韓国の全ての事業者(個人・法人)は、この事業者登録番号を持っています。事業者が取引をする際、「税金計算書」と呼ばれる法定書類の発行が義務付けられています。いわゆる「インボイス方式」です。この税金計算書は電子的に発行しなければ罰金が課せられます。発行方法は、国税庁のホームページに情報を入力する方式です。

つまり、BtoBであれ、BtoCであれ、国税庁は韓国内取引のほぼ全てを把握していることになります。そのため、どの事業者が前年に比べてどのくらい売上が落ちたかという情報をすぐに把握できるのです。これが、二次支援金対象者を政府がすぐに特定し、携帯電話にショートメッセージを送ることを可能にするカラクリです。

韓国に住んでる外国人の場合は?

このように、住民登録番号がなければ、韓国での生活はままなりません。携帯電話の契約もできなければ、銀行口座も開くことができません。では、外国人の場合はどのようになるのでしょうか?

外国人の場合には、住民登録番号に代わって、外国人登録番号が付与されます。ビザを取得できたら、出入国管理局に申請することで、外国人登録ができます。この外国人登録が終わるまでは、銀行口座開設、携帯電話契約、クレジットカード加入ができませんので、駐在員として来たばかりの初めのうちは、少々不便に感じることになるでしょう。

まとめ

以上、新型コロナ対策としての給付金を例にとって、韓国の住民登録番号の制度を説明して来ました。給付金支給が遅いという批判が日本でよく聞こえて来ます。これをきっかけにマイナンバーカードの普及や銀行口座への紐付けの議論が活発になって来ています。

行政処理を早めるためにも、また、脱税を防ぐためにも、マイナンバーを金融機関、行政、納税、社会保険へと紐付けすることは有用なことだと思いますし、国民の立場でも便利になることが多いと思います。実際、コンビニで住民票や印鑑証明を取ることができるようになって、非常に楽になりました。

一方で、国が国民生活を監視できるようになることに対する息苦しさを感じずにはいられません。国にとって都合の良いように利用されることの無いように、逆に国民側から政府を監視する仕組みが必要になるかもしれません。

また、番号流出による不正事件に対する対応も必要です。一説によると、韓国では国民の80%の住民登録番号が不正に流出しているという話もあります。それを補完するために、金融機関等では「公認認証書」という電子認証を発行しており、本人確認の際には、この電子認証が必須となっています。また、この電子認証は、インターネットで住民票を取得する際にも利用されています。

政府のデジタル化を進めるにあたっては、このように二重三重のセキュリティー体制が必要になって来ますが、日本がどのような方向に向かうのか、これから楽しみに見ていきたいと思います。

(終わり)


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