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自己株式の税務処理の日韓比較

自己株式の取得は、資本の払い戻しであり、債権者保護の観点から旧商法では厳しく制限されていました。しかし、企業の財務政策の柔軟性を高めるために、現在では一定の手続きと要件さえ満たせば自由に取得できることになりました。これは、日本でも韓国でも同様です。

韓国に子会社を置く日系企業でも、長年務めて来た韓国人経営者が引退するに際して、彼が持っている株式を買い取るケースが増えて来ています。日本本社が買い取る場合もあれば、韓国子会社が自己株式の取得という形で買い取るケースもあります。その際の譲渡価格をどのように決定するかという論点が実務上は交渉ごとにもなるので、重要です。一方で、自己株式の取得というスキームを選択する場合には、税務上の取り扱いが日韓で異なります。このことから、日本側では韓国の税務を考慮した上で慎重にスキームを検討する必要があります。

そこで、自己株式を取得した場合の税務上の取り扱いについて、以下、簡単に比較したいと思います。

日本:株式発行法人

取得時:

自己株式の取得は、資本金等の払戻または利益積立金の分配として取り扱われます。この両者は明確に区分しておく必要があります。

資本金等の減少額は、取得時の一株あたり資本金等の金額を取得株式数に乗じた額となります。

利益積立金の減少額は、自己株式の取得価額から上記の資本金等減少額を差し引いた金額となります。

消却時:

自己株式は取得時に消却したものと取り扱われるため、法的な消却時には特になんの処理もしません。当然に損益も発生しません。

譲渡時:

自己株式は取得時に消却したものと取り扱われるため、譲渡時は新たに新株を発行したものとして取り扱う。つまり、譲渡対価の額を資本金等の増加として処理する。損益も発生しません。

韓国:株式発行法人

取得時:

取得時における取り扱いは、日本と同様です。

消却時:

消却時における取り扱いは、日本と同様です。

譲渡時:

譲渡時における取り扱いが、日本と異なります。すなわち、譲渡価額と取得価額との差額は、益金または損金に算入することで課税所得に影響を与えます。

日本:株主

株式を譲渡した側の株主(ここでは個人を想定します)は、譲渡所得と配当所得(みなし配当)とに区分して所得申告をする必要があります。

譲渡所得:[資本金等の額]- [取得価額]

配当所得:[譲渡価額]- [資本金等の額]

配当所得に相当する金額については、株式発行法人側で源泉徴収する必要がありますので、留意が必要です。

韓国:株主

韓国の場合は、株式発行法人の自己株式取得の目的が消却目的か売買目的かによって取り扱いが異なるのが特徴です。

売買目的による取得の場合:

株主が得た利益([譲渡価額]-[取得価額])は、譲渡所得として課税されます。

また、証券取引税の課税対象にもなります。

消却目的による取得の場合:

株主が得た利益は、配当所得(みなし配当)として課税されます。

一方で、証券取引税の課税対象にはなりません。

まとめ

株式発行法人としては、自己株式を取得後、外部に譲渡する場合、韓国ではその譲渡利益相当額が益金算入されるため、留意が必要です。

自己株式を譲渡する個人としては、韓国では、その取得目的に応じて税額が変わることになります。そのため、個人からの株式の買取の際は、個人の課税関係を考慮に入れたうえで交渉する必要があることに留意が必要です。


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