統計データと局収支 (基本編)
「なぜハネマンはダマなのか?」
ということについての、あるフリー雀荘での物語
下記の点数表を見ながら、新人スタッフ(以下、新人)がメンバーに質問を投げかけている場面です。
※子の点数表
30符3翻 3900点
4翻 8000点
5翻 8000点
6翻 12000点
7翻 12000点
8翻 16000点
(30符4翻は8000点としています)
新人
「ダマ3900点の手を8000点にするリーチって、めっちゃ推奨されますよね?」
メンバーA
「うむ。ダマにすると豆ダマと呼ばれるやつだな。音速で鉄リーチだ」
新人
「でも8000点→12000点のリーチや、12000点→16000点のリーチはなんで鉄リーチじゃないんでしょうか?」
メンバーB
「それはだな。まずダマで6翻以上ある場合は、ハネマン確定だからダマが有利と決まっているんだ。現麻本にもそう書いてあるよ。あとマンガンも一回あがることに結構意味があるから、そんなにリーチする旨みはないんだな」
新人
「えーっ。でも、どのパターンもリーチ棒さえ出せば、同じように4000点増えるじゃないですか・・・。ネマタさんが言ってる、とかだけじゃ納得できないッス」
メンバーC
「そもそも4000点増えるという前提が間違いじゃないの?。ピンフドラ2を曲げればそこそこハネツモにもなるじゃん。それって8000点増だし」
メンバーD
「確かにそうなんだけど、それはダマ5翻の場合も同じなんだよね。同じ確率で8000点が16000点になるわけだから」
メンバーE
「3900点→8000点は約2倍になるけど、8000点→12000点は1.5倍、12000点→16000点は1.33倍にしかなってないから、効率が悪いんだよ」
新人
「倍率で見ると確かにそうですけど、ダマ5翻やダマ7翻でも、曲げれば確実に4000点は増えますし・・・。それだけでは高打点手をリーチしない理由にはならない気がします」
主任
「跳満をアガることで半荘収支がかなりよくなるから、ダマで跳満ある場合はアガリ率を高めるという意味でダマにするっていうのはあるけど」
店長
「それはあるよね。でも新人の子に分かりやすく説明する方法ってないものかな。そもそもダマ6翻のリーチが本当に損なのかってうまく説明できないや。経験則や耳学問で習っただけだから」
主任
「仕方ありませんね。新人クンは数字の理解だけは良さそうだから、詳しいことはスターマイン氏にでも聞いておきますか?」
店長
「だなー。面倒くさいことはアイツに任せておこうw。じゃっ、あとはヨロシク〜」
さて、皆様は店長の立場で新人を納得させるだけの数理的な説明をすることができるでしょうか?
というニッチな話になります。
(読むと局収支がどういうパーツで構成されているかの理解もできちゃいます)
ちなみに、各メンバーや主任の言ってることに間違いや嘘はありません。
ただし、それぞれが「部分的に正しい」レベルの説明にとどまっているため、高打点手ほどダマ寄りになり、ダマ6翻以上はダマにした方が良いという、明確な理由を説明にするには至っていません。
ここで登場するのは
これまでのnoteにも何度かでてきた、みーにんさんの『統計学のマージャン戦術』です。今回もたくさん参考にさせていただきます!。
この牌譜解析から得られたデータを用いて、特定条件での局収支をシミュレートしてみましょうという話になります。計算に必要なパラメータは下記の通りです。
A:和了率x和了時得点
B:放銃率x放銃時失点
C:被ツモ率x被ツモ時失点
D:横移動率x横移動時失点
E:流局率x流局時得点
局収支は
(A+E)-(B+C+D)で計算できます。
つまり加点側の要素がAとEで、失点側の要素がBとCとDになります。
では早速、8巡目の子が先制リャンメンテンパイした場合の各数値を抜粋してみます。
ダマ リーチ
和了率 0.73 0.57
放銃率 0.08 0.11
放銃時失点 5600 6600
被ツモ率 0.08 0.11
被ツモ時失点 1900 2900
横移動率 0.10 0.07
横移動時失点 0 1000
流局率 0.01 0.14
流局時得点 2000 1000
勘の良い方はお気づきかもしれませんが、リーチ側で1000点変動している項目は、供託のリーチ棒が影響しています。
色々書いてありますが、ここでは一つだけチェックしてください。
ダマの和了率が73%で、リーチの和了率が57%なので、ダマの和了率はリーチの約1.28倍(≒73÷57)である。
ということだけを頭に入れてください。1.28倍です。
次に、それぞれの手をダマであがった場合と、リーチしてあがった場合の、和了時得点(期待打点)が何点になるかを掲載します。
※和了時得点(期待打点)
ダマ リーチ 差 比
30符3翻 4300 9100 4800 2.12
4翻 8000 11300 3300 1.41
5翻 9200 13100 3900 1.42
6翻 12000 15100 3100 1.26
例えば
ピンフドラ2をダマにすると、ロンで3900点、ツモで5200点になることから、期待打点は平均で4300点となります。
ピンフドラ2をリーチすると、一発や裏ドラがない場合はロンで8000点、ツモっても8000点。一発や裏が乗れば12000点(場合によっては16000点)になることがあるため、期待打点は9100点となります。
ダマ4翻はダマでアガれば8000点止まりですが、リーチしてツモれば必ず12000点(以上)となります。リーチしたときはアガリ時のツモ割合も高くなっていますので、期待値は3300点増えます。
ダマ5翻はリーチの出アガリでハネマンが確定しますが、ダマでツモってもハネマンになるので、ダマ4翻のリーチと比べてそこまで大きな差になりません(期待値の差は3900点)。
ダマ6翻は記載の通りです。ダマ7翻はリーチで倍満確定になるものの、3倍満まで到達することは稀ですので、リーチの効率は6翻とほぼ同様と考えられます。
こうしてみるとメンバーCが言っていたように、リーチすると一律4000点増えるというのは間違いであることが分かります。しかし、最低で3100点、最高で4800点であることから、そこまで大きく外れている訳でもありません。
またメンバーEが言っていた、ダマとリーチの場合の打点の比率についても最低で1.26倍、最高で2.12倍となるため、概ね正しかったと言えます。
ここまで分かれば、先の式に各数値を代入することで、局収支を求めることは簡単です。興味がある方はExcelで管理すればピッポッパで答えが出ます。
A:和了率x和了時得点
B:放銃率x放銃時失点
C:被ツモ率x被ツモ時失点
D:横移動率x横移動時失点
E:流局率x流局時得点
局収支=(A+E)-(B+C+D)
試しにダマ30符3翻の手について検討してみると
※ダマ30符3翻
(1)ダマの場合
(0.73x4300+0.01x2000)
-(0.08x5600+0.08x1900+0.10x0)
=2559点
(2)リーチする場合
(0.57x9100+0.14x1000)
-(0.11x6600+0.11x2900+0.07x1000)
=4212点
和了時得点の比が9100/4300=2.12と大きく、リーチすることで局収支が4212-2559=1653点も増えています。よっていわゆる鉄リーチとなるわけですね。
ここで確認しておきたい点は、B+C+Dの失点要素はリーチ側で不利に働くものの、良形リーチでは和了率が高くて放銃率が低いため、その影響は比較的少なくなります。
つまり、局収支の大部分はA、すなわち和了率x和了時得点で決まることが分かります。
注)愚形リーチや天鳳三麻(ツモ損あり、抜きドラありルール)では、失点領域の影響が相対的に大きくなりますので、マイナス部分の要素にも注意する必要があります。
ということは、和了時得点の比が前半で触れたダマとリーチの和了率の比である1.28以上でないと、リーチした際の局収支がダマより小さくなってしまうことを意味しています。
続いて、ダマ5翻とダマ6翻の局収支を見てみたいと思います。
※ダマ5翻
(1)ダマの場合
(0.73x9200+0.01x2000)
-(0.08x5600+0.08x1900+0.10x0)
=6136点
(2)リーチする場合
(0.57x13100+0.14x1000)
-(0.11x6600+0.11x2900+0.07x1000)
=6492点
ダマ5翻の手は、和了時得点の比が13100/9200=1.42となって1.28にかなり近づくため、局収支の差も6492-6136=356点と僅かなプラスにとどまっています。よってリーチ判断は場況等を重視し、ケースバイケースとなります。
※ダマ6翻
(1)ダマの場合
(0.73x12000+0.01x2000)
-(0.08x5600+0.08x1900+0.10x0)
=8180点
(2)リーチする場合
(0.57x15100+0.14x1000)
-(0.11x6600+0.11x2900+0.07x1000)
=7632点
ダマ6翻になると和了時得点の比が15100/12000=1.26となり、ついに1.28を割ることになりました。得点側の要素だけでもダマに比べてマイナスとなり、トータルの局収支を計算してダマと比較すると、7632-8180=-548点という結果になりました。
以上から、ダマ6翻の手をリーチすると単純な局収支でダマに劣ることが分かりました。
さらに、主任が言及していた
「跳満のアガリが半荘収支に大きく影響する」という観点も加味すると、ダマ6翻以上の手はダマが優位である。
ということがロジカルに説明できるかと思います。
※まとめ
高打点領域でリーチする意味が薄れてくる理由として
・リーチした時の打点の比が低打点時と違うから…
・マンガン以降になるとリーチ効率が悪いから…
といった論理は結果として正しいのですが
その本質は、ダマとリーチの和了率の比(中盤で約1.30)との対比にあったということが分かりました。
ということは、ダマとリーチの和了率が極端に変わる場合は調整が要る可能性もありますが…。
ダマでアガリやすい盤面というのはリーチしても大概アガリ易いものですし、場に高い待ちならどちらにせよアガリづらいので、あまり変わらないのかもしれません。
強いて一般化するなら、「染め屋がいる場合の、非染め色のマンガンテンパイをダマにする」くらいですが、これは感覚的にも当たり前。あとは個別の局面次第になるので、いわゆる場況判断になってきそうです。
最後に
タイトルに統計データ云々と書いておりますが、私自身は統計学の計算など出来るわけもなく、単に小学生レベルの四則演算ができるだけです。
みーにんさんを始め、貴重なデータを世に発信していただいている方々には、いつも頭が下がる思いです。
今回は、局収支を求めるための基礎的なカラクリをご説明しましたので、次回はこれを用いた実戦的な話ができれば、と思います。
参考図書)
統計学のマージャン戦術 みーにん著
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