君になる前のはなし

「そろそろいいですか?」
「はい、大丈夫です」
「ありがとうございます」
「これから家族になる人達を拝見させていただきましたが、あの人達は喧嘩が絶えないようです。もしかしたら暴力を振られ、最悪の場合数日でこちらに戻ってくる可能性もありますが、いいんですか?」
「大丈夫です」
「それはどうしてですか?」
「改めて説明させていただきますが、あなたが今から『人間界』という世界に飛び込みます。動物になりたい、人間になりたい、植物になりたいと志望するのは自由なのですが、その分、明確な理由が必要になります」
「あなたが人間界に、あの家族の一員になりたいと思う理由を教えてください」
「ボクは自分の命を全うした時、胸を張って後悔しないものだったって言えるようになりたいんです。ボクのせいで迷惑をかけた前世だったから、今度はボクが意思疎通のできる人間に生まれ変わって、周りの人を助けたいんです」
「数日でここに戻ってきてもいいです。一瞬でもボクが居たことによって周りの人たちの救いになれば、ボクはそれで充分です」
「分かりました」
「人間界では短くて数日、長くて百年過ごすことができます。性別も含め、性格や外見も後天的、つまりその時の状況によって変わります。ここまで理解できていますか?」
「はい」
「あなたが先程仰ってくれた願い、それを叶えることができなければ地獄を彷徨うことになります。逆に叶うことができればここに戻ってくることができます」
「それでは準備をしましょう」
「あなたが今話している内容や景色は、人間界に行くとすべて忘れます。思い出すのは命を全うし、ここに還ってきた時のみです」
「準備はいいですか?」
「はい」
「それでは、人間界へ行ってらっしゃい」

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