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『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』における「赤」と関連物の考察

鳥飼 みさご
misago.tojo@gmail.com
https://twitter.com/misagotojo


1. はじめに

 『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(以下、作中)において、極めて象徴的な色がある。それは「赤」だ。本稿では、作中で象徴的な赤いもののうち、「レヴュー衣装」と「トマト」の2側面から作品の考察を行う。

2. レヴュー衣装の「赤」

 作中において最も描写された「赤」は、恐らくレヴュー衣装である。基本的なレヴュー衣装は「左肩の赤い上掛け」に「赤いタスキ」、そして個々を象徴する色や形の衣装や小物で成り立っているが、これには例外が存在している。愛城華恋の「白いタスキ」と神楽ひかりの「右肩の青い上掛け」「他の人物とは逆掛けのタスキ」だ。主人公級の2人だけが、それぞれ異なる部分で他のキャラクターと差別化されているのには、大きな意味合いを感じる。左肩の赤い上掛けと赤いタスキの持つ意味、そして何故華恋とひかりに例外が生まれているのか。

 実は、ひかりには他の舞台少女と同じ上掛けとタスキの描写が存在する。テレビアニメ第8話「ひかり、さす方へ」のAパート、ロンドン時代のレヴュー衣装だ。つまり、ロンドンのレヴュー時代のひかりと、その後のひかりの違いが、この疑問への解答の鍵となる。

 ひかりの日本のレヴューでの描かれ方は、ロンドンのレヴューに敗れてキラめきを失った「死せる舞台少女」である。従って、ひかりのレヴュー衣装の変化と合わせて考えると「死=右肩の青い上掛けと右肩からのタスキ」となり、その逆である「生=左肩の赤い上掛けと左肩からのタスキ」も同時に導かれる。

 では、レヴューにおいての上掛けとタスキは具体的に何を象徴しているのか。先に結論から述べると、これは「上掛けは心臓、タスキは血液(血管)」である。

 まずは「上掛け=心臓」について見ていこう。図は心臓を簡略化して描いたイラストである。


図(中外製薬ホームページの図解を元に筆者が作成)

一般的に人体の図解において、多量の酸素と栄養素を含んだ動脈血は赤、酸素と栄養素の供給を終えて老廃物を多量に含んだ静脈血は青で描かれる。図における右心室と右心房が青、左心室と左心房は赤ということだ。体の右側の青、左側の赤という点で上掛けの法則と一致し、「キラめき=栄養」と捉えれば、ひかりは栄養の供給を終えた「青色で右側」、他の舞台少女は栄養の豊富な「赤色で左側」となる。

 次に「タスキ=血液(血管)」であるが、向きの問題に関しては各々の心臓(上掛け)と繋がる血管(タスキ)とすれば説明がつく。タスキの色で例外が生じているのは、「華恋の白いタスキ」である。赤が動脈血、青が静脈血とするのであれば、白は「血液を流せていない状態」となり、レヴュー上では「キラめきを生産できるが 註)、十分に発揮することができない状態」と考える。ひかりとスタァライトすることこそが華恋にとっての目標であり原動力で、ひかりの存在が無ければ不完全なままなのである。『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(以下、劇場版)Chapter10の「最後のセリフ」で、ひかりのキラめきを具現化した青い宝石が華恋の白いタスキに取り込まれた。これにより、初めて華恋はひとりであってもレヴューの舞台に完全な状態で立つことができた。そしてひかりに刺されたことをきっかけにして、今まで生産されていても行き場のなかった多くのキラめきが華恋の体から吹き出したのである。

3. 劇場版におけるトマトの「赤」

 劇場版の幕開けはトマトの爆発から始まる。テレビアニメに無く劇場版で出現した新しい「トマト」という作品モチーフは、その後も劇場版の至るところで登場する、非常に象徴的なアイテムだ。劇場版Chapter4で、「私たちはもう舞台の上」という台詞と共に舞台少女たちがトマトを齧るシーンは印象的である。前項では「キラめき=栄養」と述べたが、このトマトを齧る行為はまさに文字通り栄養の摂取と言えよう。栄養は、劇場版でのキリンの言葉を借りれば「燃料」とも言い換えられる。舞台少女たちはその体に新たな燃料をくべ、劇場版で繰り広げられる最後のレヴューに臨むのだ。血液に対する「赤の食物」である。

 また、このトマトはキリンから転がってきたものである。劇場版の中でキリンはまるでアルチンボルドの絵画のように野菜や果実で構成されたものとして描かれる。このキリンにトマトが使われている箇所は、劇場版Blu-ray特典のトランプのJOKERのカードでじっくりと確認できるので、お手元にご用意できる方はぜひご覧いただきたい。喉元と心臓の位置の外側なのである。ここでも心臓が描写されているということだ。

 しかしながら、赤色の食物は数多く存在する中で、何故トマトが用いられたのか。これについては恐らく既に多くの考察が為されて図(中外製薬ホームページの図解を元に筆者が作成)いるが、本稿ではトマトの食物としての歴史的側面から見ていこうと思う。トマトはナス科に分類される植物である。トマトが南米からヨーロッパに広まり始めた16世紀から17世紀ごろ、同じナス科に属する植物として知られていたのがベラドンナである。ベラドンナは毒性があり、摂取し中毒を起こすと死に至ることがある。そして、16世紀の植物学者マッティオリは、トマトを誤ってマンドレイクの一種に分類した。マンドレイクは引き抜くと悲鳴を上げる伝説があることで有名であるが、こちらも毒性が強く、摂取すれば死に至ることがあるのだ。つまり、トマトが広まり始めた当初のイメージのひとつは「トマト=毒」であった。このイメージから考えると、舞台少女たちは自ら毒を摂取し、一度死を迎えてからレヴューが始まっていくのである。

4. おわりに

 以上が上掛けとタスキ、トマトのそれぞれについての考察である。上掛けと言えば、劇場版ラストシーン、舞台少女たちが自ら上掛けを外して空に放つのは非常に印象的である。上掛けは「レヴューで生きるための心臓」であり、これから次の舞台に向かおうとする彼女たちにはもう必要のない物となったのだ。劇場版Blu-rayのパッケージでの彼女たちは古くなった血管、タスキすらもきちんと外して、笑顔で次の舞台へ走っていくのであった。

[註]

・華恋の上掛けは赤であるため、心臓に栄養がない状態ではない。

[参考文献]

著者コメント(2022/10/10)

 初めまして、今回考察を書かせていただきましたがいかがでしたでしょうか?
 周りに舞台創造科の方がおらず、考察も恐らくはメジャーな説等があるのでしょうが、ほぼ知らない状態なのでもしかしたら全く見当違いのことを言っているのではと怯えながら書きました。
 ぴえん。
 この合同誌企画に気付いて参加できたことは本当に奇跡だと思います。
 主催様、副主催様、この場をお借りして感謝致します!ありがとうございました!
 …あと、舞台創造科のお友達、絶賛募集中です(小声)。

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