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2021 / 1 / 15 の星の声


銀河サミット2021 in 廃屋 



宇宙のあちこちから、地球に集った星の使者たちは、人間の手が行き届かなくなった山間にある廃屋に集まりました。もちろん、いつも廃屋に集まっているわけではありません。今回はたまたまです。前回は梅の花のつぼみの中でしたし、その前は、ピラミッドのてっぺんでした。

毎年、各星の使者たちは、太陽の使者の声がけで集まります。今年は、世界中で蔓延している感染症を考慮して、風通しが良く、ほどよい広さの人工物の中で開催されることに決まりました。

「とはいえ、どうしてこんなところになったんだか」

遠い銀河からやってきた星の使者たちはため息をつきました。崩れかけた壁には30年以上前のカレンダーが9月を示したままかかっていて、下旬には震えた赤字で「稲刈り」と書かれていました。あまりに荒れ果てた会場にげんなりした様子の使者たちを見た太陽の使者はニコニコと微笑んで言いました。


「まずは、光を用意しましょう。よい、こら、せっ!」


太陽の使者が指を鳴らすと、廃屋の中は一瞬にして光沢のある白一色に変わったのです。朽ち果てた床に美しい光の絨毯がひかれたり、清く澄み切った空気の香りがしたりして、星の使者たちは思わず感嘆の声を上げました。


「よーし、宴会だあ!」


銀河サミットは一品持ち寄りが原則です。使者たちは、その星の特産物や、人気の飲食物を持って集います。今回の目玉は、ベガの使者が仕入れた天の川酒造の蔵出し原酒「青の時代(光)」です。人間の世界では控えられている大人数での会食が賑やかに幕を開きました。


「もし人間がこのことを知ったら、私たちのことを非難するでしょうか?」


「さあ、どうでしょうね。あなたはとある宗教では神として尊ばれていますから、それはないでしょう。でも、私たちの真似をする人間はいるでしょうね」


「そのときは、神の真似をするなと、人間が人間をさばくのでしょうか?」


「さあ、どうでしょうね。人類はこれまでに数多くの争いをしてきましたが、おそらくもう起きないでしょう。でも、もしそんなことがあったら、一大事ですね」


「ええ、一大事です」



そうして和やかに会食が続く中、太陽の使者はひとつ号令を出しました。


「みなさーん、そろそろサミットの本題にうつります。飲み食いしながらで結構ですので、こちらの画面をご覧ください」


太陽の使者が指さした方に、テレビ中継のように映像が流れ始めました。現在の地球の様子をあらゆる視点から捉えたものでした。使者たちは手や口を動かしながら映像を見ていましたが、しばらくして、誰もが釘付けになったシーンがありました。


「これはすごい!」


一際大きな声を出したのは、リゲルの使者でした。地球上の人間に例えると女性の容姿によく似ていますが、身長は1m足らずです。

使者たちが釘付けになったシーンは、地球上のさまざまな人間の営みを、鳥たちの視点を借りて上空から映したものでした。人間は彼らの環境に起きる出来事に沿って、ただ呼吸を繰り返して生活しているだけです。中には、子どもを出産する女性や、息絶える瞬間の人間を捉えた特別な場面もありましたが、地球上ではありふれた光景でした。


「人間の営みは、宇宙に存在する星々の軌道によく似ている」


リゲルの使者がそう言うと、隣にいたカノープスの使者はさらに興奮した様子で言いました。


「それに、ものすごい速さで成長しているよ!」


他の使者たちも、地球や人間に対するそれぞれの見解を伝え合いました。書記をつとめる水星の使者が、流れ星でつくった筆を走らせてもなかなか書き切れないほどにたくさんの意見が出ました。そんな水星の使者の様子を見計らって、太陽の使者は光の空白に一つの議題を刻み込みました。


太陽系の連帯解消について



これには、廃屋が崩れ落ちそうになるほどのどよめきが起こりました。いったい何を言っているんだと、使者の誰もが動揺した議題について、太陽の使者は言いました。


「みなさんもご存知の通り、太陽系に属する地球は、私たちの星、太陽のルールの中で成長してきました。ですが、地球はもうこれまでのルールの中で存在することができなくなりましたし、その必要がなくなりました。地球上の人間もまた同じです。と言うわけで、私たちは太陽系というこれまでの連帯を解消することにいたします」


またも大きなどよめきが響いて、ついに廃屋の端っこが音を立てて崩れ落ちてしまいました。幸い、危険な目にあった使者は一人もいませんでした。

使者たちは太陽の使者の言葉の真意がわからず、酒の勢いに任せて騒ぎ始めました。中には、宇宙の秩序が崩壊してしまうと涙を流す使者もいました。それでも、太陽の使者は相変わらずにこやかな表情を浮かべて、こう言いました。


 「宇宙の秩序は流れる水のごとし。生まれ変わる宇宙の淀みない愛の元で、きっとまた巡り会いましょう」



今週は、そんなキンボです。





こじょうゆうや

あたたかいサポートのおかげで、のびのびと執筆できております。 よりよい作品を通して、御礼をさせていただきますね。 心からの感謝と愛をぎゅうぎゅう詰めにこめて。