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 この頃、日暮れる時刻が早まったり夜風がずいぶん涼しくなったりして、秋の気配を感じはじめている。ただその一方で、昼間の日差しはまた道を焼き、夏のしぶとさを肌が覚える。だからか、夏季からずっと間延びした時間を生きているような、同じ場所にえんえんと停滞しているような、変な気持ちが凝っている。

 大学を卒業して、いまだに実家で暮らしている。親に甘えてぐうたらしているのです。七月から役所に勤めはじめたものの、単調な仕事の連続であくびが出る。同僚の人たちと話すのは楽しいし、お客さんから感謝されると素直に嬉しい。それでも、疲れて帰ってきて眠ってまた出勤、を繰り返している現状にふと寒気を覚えるときがある。なんで俺はこんなところでこんなことしてる?とりあえず銭を稼ぐために毎朝目を覚ます。

 いずれはここを出なければならない。ずっとここで親に迷惑をかけるわけにはいかない。だんだんと実家からフェードアウトしようと思うものの、いったい何から始めればよいものか、悩ましい。ちゃんと考えなきゃいけないのに、ゲームを起動して、借りた本のページを捲っている。そうして休日はすぐに去ってしまう。

 大学を卒業した人は大概、企業に就職するか大学院に進学するか、どちらかの道を選ぶ。Y字に分かれた道がそれぞれ整備されているようにみえる。僕はそこから逸脱してしまった。一緒に進んでいた人の背中が遠くなった。なんなら、後から来た人でさえ僕を追い越して行った。僕はいまどこを歩いているんだろうか。暗澹の中で足踏みをする。

 この間、年下の友達と電話した。就活を目前に控えたその友達は、どんな職種にもどんな企業にも大した魅力を感じないと言った(たぶんそう言った)。僕は大したアドバイスもできないまま、「どうしようかね〜」という返事をするしかなかった。「もしうまくいかなくてもなんとかなるよ」と言いたかったけど、本当になんとかなるのか、僕が一番知りたいし、そもそも僕と同じ道を辿ってほしいとも思わない。羽をはやして繭から飛び出してくれたらいいな、って考えているけれど、他方で、なぜ蛹のままではだめなのだろうと思っている。誰に急かされているのか、誰に不安にさせられているのかわからないまま、僕は「成長」を目指している。繭の中はずいぶん暖かい。僕の羽はまだ心許ない。