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中篇小説『リヴァース・ショット』連載11回。今更だが 諸世紀 十巻72章。 眠れる預言者となる実時。

 とりあえず
実時は 猫の方に戻る。和子もビールを用意する。コンロのガスボンベをセットした。
実時は さらに猫のトイレをバスケットから取り出し、猫に対して英語と
猫語らしきニャーニャーを出鱈目にして諭していた。
「それで ほんとに 理解するの?」和子は不思議そうにその光景を見て謂った。
「ふふふ。半年間記憶喪失で 僕が身を置いていた処で世話してくれた、この猫の飼い主が こうすればいいと教えてくれたんだ。」
猫は しきりにその矩形のプラスチックに細かなコルクみたような玉を敷き詰めてある物体の匂いを嗅いでいた。しかしそれよりも和子が 牛肉を包んでいたラップを外す手元に猫の神経は 集中しているらしい。実時は 猫がトイレを理解したと決め付けて、それを玄関の方へ持っていった。当の猫のゲーテは 和子の膝に頭突きをするように擦り付けている。炊飯ジャーが 米を炊きだす音を立て始めた。猫は その音の正体を探るように音の出ている方に耳を向けている。
全身をシックなグレイの毛で覆われているその猫は しなやかな体躯に凛々しい顔つきをしていた。黒味の中に金色の光彩を忍ばせた美しい両眸、銀色の睫毛と髭、表情豊かな尻尾は 感情表現をする器官でもあるかのようだ。和子は 実時を真似て「ゲーテ」と呼びかけた。ゲーテは 小さくニャーと謂いながら和子の呼びかけに応じた。小皿に乗せられた生の牛肉に彼の全神経は 集中した。
「記憶を無くしてる間、僕はね、不思議な女性と暮らしていたんだ」
実時は 炬燵で和子と差し向かいに座って話し始めた。
「自分の事を男だと思っている、二十三歳の女性なんだよ。男だと思っている、なんていうと怒られるかな、性同一性障害とかいう病名らしいけど、
彼女は 病人扱いされるのが 厭だった。なぜ自分は 女性の肉体を持っているのだという怒りと嫌悪に満ちていた。わざわざ男性ホルモンを注射して、髭や脛毛を生やそうとさえ思っていた。彼女はとても美人なのだけど、ある胸の大きな女性に熱烈に恋しているんだよ。
ところが 自分は 男なのに、美しい素敵な乳房を持っている。彼女にとってそれが 如何に絶望的な事実であるか 誰もわからない。
彼女は この猫と、記憶を無くした中年男の僕にだけ 親切で それ以外の存在に対して矢鱈と警戒し、懼れ、怒り続ける。記憶を無くした中年男は ひたすら物を食い続ける病にも罹っていて、なんでも闇雲に喰うんだ。
つまりそれが 僕のことなんだよ。まるで僕の胃は ブラックホールのようでその胃に空いたブラックホールが僕の意志を無視してしまう。
僕自身その発作が起きると 味わってるわけでもなんでもない、ブラックホールの胃が勝手に なんでも吸収し始める。テレビや炬燵まで呑込みそうになったこともある」
和子は 実時の話し始めたとんでもない出来事を聞きながら 黙々と肉を牛脂で焼き、醤油と砂糖、酒を塗し、焼き上がる傍から 溶いた卵を入れた小鉢に移した。実時は 喋りながら その甘辛い牛肉を頬張った。和子も負けずと食べた。実時は その不思議な女性が 漸く自分が女性である事が本来の自己であるという精神状態に帰還するまでを話した。
テーブル中央のコンロに乗ったフライパンに割り下を注ぎ、醤油と酒と砂糖を加えて 野菜などと肉を煮つめる頃 ご飯は炊き上がった。 二人は実によく食べた。
       ※
胃がブラックホール状態になる、記憶喪失時の伊勢実時の話は 
又、別の物語。
ここにおいては その異界的時空間を通り抜けてきた直後の伊勢実時の物語である。
それゆえに この時に 伊勢実時がよく食べたとはいえ、常人の食べ過ぎ程度である。
和子が思ったとおり、実時が 買ってきた牛肉のパックは 三分の一も食べきれは しなかった。二人の胃袋にビールや酒も左程に入る余地もなかった。

食卓兼用の炬燵の上を片付け、和子がお茶を淹れ、三代から送ってきた温泉饅頭を出した。すると 実時が 和子の目の前に封筒を差し出した。
「和ちゃん これ」和子は 封筒の中を検めよという仕草の実時に促され、封筒を開けた。中からは 小切手が出てきた。
「これは?」と和子は 首を傾げた。
「僕は ここに三日程厄介になるつもりなんだ。そして その後 月山に向かう。何故月山に向かうかは これからゆっくり話そう。そして 月山から戻るのは 八月十八日以降になる。それまで このお金でこの猫の面倒を見ながら 僕を待っていてほしいんだ」
和子は 目が廻りそうだった。可也の巨額な数字が並んでいる小切手にも驚いていたが、実時が半年、どんなに手を尽くしても行方不明だったのに
今こうして目の前にいて、しかも 遂さっき キスをし、盛大にすき焼きを食べた。しかも その半年の間彼が彷徨っていた日々の荒唐無稽さに 頭脳は 些か混乱状態であった。
「あの。今 ここは 夢の中?」
和子は 自分にだか実時にだか解らないような訊ね方をした。すると 彼女は 膝に ずっしりと重みを感じた。小切手越しに恐る恐る膝の辺りを見た。グレイの美しい牡猫は和子の膝の居心地を確認し、咽喉をゴロゴロ鳴らし、和子の顔を見つめ返して目を細めた。和子は 猫のゲーテが 爪を少しだけ出して自分の膝を刺激してくれたのが分った。
「夢の中じゃないよってこと?」和子は 猫たるゲーテに訊いた。今自分が 夢見の中に居るわけでないことが不思議な猫によって 明確になった。
「でも、こんな大金をどうしたのですか?」と現実的なことを実時に訊いた。
「東京部会で 篤時に貰ったんだよ。正当報酬としてね。僕が 居ない間に あいつ 
僕が反古にして置いた茶杓を勝手に 売って儲けていたんだ。それと書画も。 僕としては未だ 世間に出せないと 棄てるつもりにしていた作物を 結構 いい値で一門に売りつけていたらしい。篤は 昨日ひょっこり僕が 姿を現して 吃驚したまま 僕の言いなりで 小切手を切ったよ。君は少し栄養つけてさ、暢気にゲーテと待っていてほしい。この猫は いずれ東京に居る親友の山辺に預けることになっている。山辺にゲーテを預けたら、君と僕は湯河原の梓慶庵で暮そう」
実時は 茶杓や書画に没頭した切っ掛けとなった あの「千里眼の布施」たる老師と陰騭録を奨めた山辺との話を 和子にした。
すると和子が 少し驚く事を 謂った。
「でも 実時さん あの老師様は両脚とも膝から下 義足でらっしゃるから とてもスーツ姿で お一人で お堂から宿坊にお出ましになって スっと消えられるなんて
ちょっと私には想像できない・・・・。」
実時も今更ながらに 和子にそう指摘されて
ハッとした。そうだ。老師は いつも両脇を抱えられて 歩行し、立つも座るも介添えが必要な方だった。
「じゃ あのスーツ姿の人は 誰?」
実時は 十数年間勘違いしたまま 思い込み続けていたのだ。和子もポカンと開いた口が塞がらなかった。
「この世の中 幾ら科学が進歩したといっても まだまだ 人間の知っている範囲なんて高がしれているもの・・・・」と和子が攖寧社で大宗師・是時が決り文句にしている説話の導入部を思わず口にした。
実時は ゴクリと唾を呑み、和子の言葉に頷いた。父是時も偶には まともな事を言っていたものだと変な感心をした。
そして実時は 記憶喪失状態になる前の不思議な体験を和子に語りだした。

変えられない宿命と変える事のできる運命を見極め、宿命を受容れる落ち着きと運命を変える知恵とに没頭すべく 伊勢流茶道の後継ぎたる宿命に逆らわずに、その恵まれた境遇をして、研ぎ澄ますべき感覚、直観(intution)という思考と感情の自己制御の鍛錬によって培われる至高の感性を追い求める状態になっていたところだったという。
梓慶庵という伊勢流本家茶室名の由来となる『荘子・達生篇』にある梓慶という名の『鐻(きょ)』という鐘の台座を作る名人の話を参考に 
茶杓を竹から削りだすにあたって 『私ノ自然ト樹木ノ自然ト全ク融合スルコトニ依ルノミ』を恃みに、
正しく字義をなぞるようにして 近所の竹林を訪ね廻り、切り出させてもらった竹を 蔵の冷暗場所で陰干しをし、さて そろそろ 削りだそうと思い立って、蔵へ行き、竹を眺めて歩いていると 耳の後ろか 頭上かで 
ブーンという重低音の耳障りな音がしたそうだ。蚋でもいるのかと不快に感じ、首を竦めて 片手で自分の周りを払った。しかし 虫ではないらしかった。耳の中に虫が 入っているのかと思うほどブーンという低い唸りが 
だんだん音を大きくさせ、実時は 少しパニックに陥った瞬間、そこからどこをどうして経過経由したか全く記憶にないまま 実時は 初秋の見知らぬ街に呆然と立っていた。そして自分が誰だかすら判らない、実感と実体からズレ落ちた違和感だらけの世界にいた。寒いとか尿で膀胱が破裂しかねないといった、苦痛などの生体維持に関わる五官感覚だけが 明確で、 
何かを思い出そうとしたり、自分の考えを纏めようとすると 頭が悲鳴をあげた。そうなると唯一明確な五官感覚すら曖昧になりそうで 
兎に角四六時中、緊張と切迫に怯えていた。
降霊術師という特異な宿命を背負った実時ではあったが
生まれてこの方表向きは 茶道本家の後継ぎとして何不自由の無い裕福で平穏な世界が最も身近な浮世として暮らしていたはずの この地上時空が 
四十歳になったある日から 突然、見知らぬ世界に変貌し
この地上時空に存在するだけで 緊張と緊迫感に苛まれ
突如として 食欲とは関係なく 非現実的な量の物を食べ尽くさずにいられない衝動に襲われ、その衝動のなすがままとなる。
この壮絶な記憶喪失、実時失踪物語は 和子にとって
あの六年間の入院生活とどこか似ていると思った。しかし和子には 
その六年間は 只の空白だった。緊張と緊迫感に苛まれて起こる発作は 
合法的な医薬品によって医師や看護婦たちが鎮めてくれた。ただ朦朧とし、苦役を果たさなくては いけないという意識で 細々と物を口に入れ、咀嚼し、嚥下させ、時間に浸蝕されていく痛みを妄想しては ただ 泣いた。
それらのことは 又 後で実時に話そう。
和子は そう思いながら 実時の失踪物語に耳を傾けながら 静かに思った。実時が夢中で話ている姿、実時の声、今目にしている、耳にしている それらが いとおしい感触を持って自分を包んいる。
そうか この感触のことを 人は 幸福と名付けるべきなのだ! 
和子は愛する存在を、ただ心を込めて見詰ること、その話す言葉に聞き耳立てること 只其れだけで幸福なのだと実感していた。
実時の声は実際 美しい音楽だった。
その 美しい音楽に聞惚れているところに電子音が不躾に割り込んできた。和子の携帯電話が鳴ったのだ。和子は 電話をすかさず切った。
着信表示は 見るまでもなく七尾会からだった。ミナミという女しか 
その携帯電話は 使用しないのだ。
「電話、でなくてよかったの?」実時が訊ねる。和子は 頭を振って、
「どうせ いつもの間違い電話です」
「後で和ちゃんの携帯の番号教えて、月山で修行中電話するから。ハハハ」と実時は笑った。
「ところで 月山の修行って何なのです?」
和子は 降霊術師の実時が 月山で何をするのか見当もつかなかった。
「それでは そろそろ 本題に入ろう。積もる話は 和ちゃんにもあるだろけど、それは兎に角これから話すことを 聞いてもらってからだ」
といいながら 実時は 荷物から小さなテープレコーダーを取り出し
マイクを接続し、テープを入れた。簡単に録音の仕方を和子に説明した。
「これから 僕は 一度 そこのベッドに横たわり、深い呼吸をする。そのうちまるで
僕は 眠ったようになる。ところが それはトランス状態だ。和ちゃんなら 察しがつくさ。そうして 僕は 喋りだす。その喋る内容を 録音してほしいんだ。実は 東京で一度試してみている。そのテープと照合してみたい。喋り終わったら 一時間ぐらい そのまま寝かせてほしい。どんな内容を喋ったとしてもね。トランス状態から普通の睡眠に戻るのは 鼾が 合図。
一時間ぐらいしたら自然と目を醒ますよ」
「実時さん ご自分に霊を降ろすの?」
「まぁ そうなる。」
「何処で そんなことを?」
「記憶喪失から覚める直前、僕は 世話になっていた『レオ』という女性を ある事件から救出することになってしまってね。まぁ そんなに勇ましい話では ないのだけど、彼女をなんとか助け出した時、彼女を抱かかえていると
突然 霊が失神していた『レオ』に降りたんだ。カっと目を開け放った彼女を見た瞬間、僕の記憶喪失は 嘘のように晴れ、霊に対応すべく真言・霊句をゾロゾロと並べ立てた。
するとね。その霊は かなり高位で大天使ミカエル クラス・・・・といっても判りにくいか。ともかく大きな霊だったんだ。
その大きな霊から 全て僕は指示を受けた。これから月山に行くのは 僕の宿命だということ。何故月山に行かねばならないかは
追って 知らせるから その猫とともに横たわり、深い呼吸をしろ。信頼できる者に記録させろ。などなど。
僕は エドガー・ケイシーを知っていたから
その指示を聞いた時 自分がすべきことが 閃くように判った。
つまり、猫のゲーテを横に寝かせ、僕は仰向けに寝て両手の掌を後頭部の
下に枕代わりに敷いて、伸ばした両の足は右の足首の裏、アキレス腱を左足の甲の辺りにあて、少しクロスさせる。その絵が 浮かんで見えたんだ。
実時は 膝元にいるゲーテを撫でながら
「この灰色の猫君は只者じゃないらしい」 と言った。
実時は その超自然的、又は非現実的な現象の一部始終をともに体験し、『レオ』さんから許可を得てこの猫を借りてきたということだった。

実時が トイレに立つ。ゲーテという灰色の猫も自分が用を足すべきところへ向かう。
不可解な出来事には馴れっこである、元巫女であった丸山和子でも さすがに震えを感じた。温泉饅頭を一つ頬張り、すっかりぬるくなった茶を飲んだ。
実時が 戻る。
「録音が終わったら、和ちゃん 先にお風呂にでも入っているといい」
実時は そうしてベッドに横たわる。灰色の猫、ゲーテは 実時の太い腹に背を向けてその傍に寝そべった。ゲーテは 大きな欠伸をした。実時は 鼻から吸い、口から吐く呼吸を数回した後、呼吸は鼻だけからになった。太い腹は ゆっくり上下に揺れていた。細くて間隔の長い、深い深い腹式呼吸を意識的にしているのだ。
やがて実時の手足の指先が小刻みに震え始めた。そして二度ほど 激しく反り返った。
顔には苦悶の色が駆け抜けた。
その姿を目の当たりにした、和子は驚きを隠せなかった。
なぜなら その実時の姿は 降霊術によって霊を受容した巫女と同じだったからだ。
巫女・芳仙だった自分の姿ではない。自身がそのような状態になることを自分では全く覚えていない。養母たる三代、巫女・季咸に霊が降ろされる姿を一度だけ見たことがあったのだ。和子もエドガー・ケイシーという名前を耳にしたことがある。そのアメリカの男性が『眠れる預言者』と呼ばれていたぐらいの知識は あった。しかしきっと その人もこんな状態になるのだろう。そして巫女のように口から光の渦を発するのだ。和子は 実時から手渡されていた小さなカセットテープレコーダーを録音状態にした。そして思わず 横座りを正座に直した。
実時の唇が 開いた。
「この魂の実体は・・・」
その声は通常の伊勢実時の声であっても
どこか別人のようであった。声の高さ、声の質、殆ど変らない。しかし 明らかに別の人格による声として響き渡りはじめた。
「この魂の実体は この千九百九十九年、
八月十八日に地中深き黄金の大鉱脈の真上、
すなわち 月の山、月山において果たすべき事がある。伊勢実時という名を今生に持つ、この魂の実体が その時に果たすべきことを今ここで予め伝えておこう。
これも又、『宇宙の理(り)、天の理(ことわり)』である。
その日。
西暦でいう千九百九十九年、八月十八日、この地上時空を乗せて回転するこの惑星、すなわち地球に向かって 七十二ポンドのプルトニュウムを搭載した人工衛星カッシーニ号が大気圏を掠め、土星へ軌道を向けるスイングバイ航法が実行される。地球という星を七回爆発させることができる程の核兵器を開発した人間の科学は その航法で間違いなく 土星探査計画を実施できるとしている。
但し、人間はこの地球を七回吹き飛ばした実験結果を持ってはいないが。
しかしこの地球という星の上でしか通用しない物差し、つまり現行程度の科学知識でこの無限の宇宙を計測可能と決め込んでいるその思い上がりに対する警告は既に為されていた。そういうものである。

『一九九九の年、七番目の月、
 天蓋から恐怖の大王とも言うべき物が降ってくるかもしれない。
 その「アンゴロモアの大王」を再び戻す、
 マルスの前と後で、幸運にも、制御する』

つまり これは 十六世紀の医師にして
見者、ミシェル・ド・ノストラダムスが
書き残したカトラン集『諸世紀』第十巻、
七十二篇である。千九百九十九年の
セプトの月とは、新暦八月である。
七十二篇とは、
まさしく七十二ポンドのプルトニウムを
予告している。
さらに 十巻が 指し示すのは
地球を中心にして しし座の方向に太陽、
水星、金星が、
さそり座の方向に月、火星、冥王星。 
おうし座の方向に木星、土星。
みずがめ座の方向に天王星、海王星が
其々地球に向かって直列し、十字に並ぶ日を
示している。 
つまり そのように十字に直列する日は、
千九百九十九年、八月十八日である。
ところで。
見者と錬金術師は別物である。
ノストラダムスはグノーシスの末裔である。
ヘルメス・トリスメギストスの末裔は 
ヨーロッパにおける中世において彼らは
錬金術師と呼ばれた。
現代においては彼ら錬金術師の末裔は
科学者と呼ばれている。
但し実際、ヘルメスは 
霊能力者・ティアナのアポロニウスによって
見えざる者となり、
錬金術師は ヘルメスの正当なる
末裔とは 言い難い。しかし、
現代の科学者は 中世の錬金術師の末裔、
乃至は 生まれ変わりである者が多いことも
事実である。 一方、
見者とは見えざるを見えるようにする認識の
力を鍛え、正しく見、正しく語る者である。
この魂の実体も その素質はある。
しかし 見者として育成している閑がない。
事態は差し迫っている。
『宇宙の理、天の理(ことわり)』においてはこの魂の
実体が未だ見者でないことは想定内である。
この魂の実体の他にも 世界に、月山の
他にもある地中深き黄金の大鉱脈の真上に
幾人かの魂の実体が 同日同時刻に、
果たすべきを果たすのである。
それらの者達は、
時空を超えて来世を予め体験する、
ようなものだ。
そしてヘルメスも又 その時見えざる者から
復活することになる。
しかし彼ら、この魂の実体を含め 
予め来世を体験するヘルメスの正当な末裔は
錬金術師の末裔としてではなく、
真の意味においての科学者である。
来るべきヘルメスの正当な末裔はノストラダ
ムスの流れ、グノーシスの末裔と融合する。
それら来るべき深い深い認識の所有者とは 
『大宇宙の真・善・美に沿った
柔軟な思考の力と力強い感情の力を
二重螺旋構造体に形成する』者達のことだ。
別の言い方をすれば 彼らは
感情を思考の下に従わせようとしないで、
正しい思考をもたらす 感情を自己の内に
持ち合わせている。という描写も可能だ。
すなわち 感情を直観へ飛翔する反重力の力
として活用できる者達である。
それは 鳥をよく観察すれば 反・重力の意
味を理解できるだろう。現在の科学で鳥が自
分の身をあのように瞬時に飛び立たせる仕組
みを機械という形でそっくりそのまま作る
ことは不可能である。
それを作ろうとすると雀の何万倍もの重量と
何千万倍もの燃料を必要とするだろう。
雀がそのように飛び立つことへの 
深い認識もなく、純粋な魂への畏敬の念を
育成していない錬金術師の末裔では 
如何様にもならないのは当然のことである。
しかし 『宇宙の理、天の理(ことわり)』は進化を進め
るだろう。
『宇宙の理、天の理(ことわり)』とは『愛』で
あるからである。
そのことは 雀の親鳥が 春先、子雀に飛び
方を教えながら自分が食べるよりも 
子に与えることを優先させる姿に示されてい
るではないか。
それを言葉通りに受け止める程度の認識では
なく、深く正しい思考として自らの感情に浸
透させることができる心、すなわち『感じ知
ること』が 可能な者こそが先駆者であり、
ヘルメスの正統なる後継者や、
真の見者たちである。
人間とは浅い認識で 名も無い鳥の
そんなありきたりの姿として示されている
『愛』を平気で踏みにじり、軽んじる。
原罪の意味とは概ねそういうことである。
又 原罪の意味についても真剣に考える事を
躊躇したり、無益な考えとしたり、
損得勘定の邪魔になるだけと決め付ける。
そのようにして育てられ成長した
錬金術師の末裔達は只闇雲に出世という 
この大宇宙の真・善・美とは些かも関わる
こと無いない 人間社会の物差し、
人間にしか通用しない価値観に欲情しまるで
腹を空かせた野獣よりも見境なく、
獰猛な欲望を最優先させ、
欲望に駆り立てられて 
なんの躊躇いもなく、
プルトニウムを危険な状態のまま宇宙空間に
飛び立たせたのである。しかも一度地球を
掠めるようにして軌道に乗せる不完全な技術
を遂行したのである。
その人間の仕業によってどれだけの生命が
人間だけでなく、植物や昆虫、鳥や動物を滅
ぼすかもしれないという危険を省みない。
この大宇宙の真・善・美に則って、
国家の威信など如何なる微細な生命より
尊きはずもないのに。
人間は今や
自らを尊大に思い上がらせる感情を抑制でき
ない。危険に満ちた存在になりつつある。

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