見出し画像

聴覚で瞬間移動する訓練 世界で一番やさしいスタニスラフスキー・システム⑲  

五感訓練で俳優のジレンマを解決する


私は五感を当たり前のように使ってきた。

だから、なぜ、それをわざわざ学び直さなければならないのかと疑問に感じることも多かった。

でも、やっとわかった。

私たちの五感と行動は相互に影響を与えあっている。その繊細なつながりに気づける敏感な感覚を養い、その両方を再現できる能力を磨くために訓練するのだ…

日常生活とは違って、 お芝居の中では相手が何を言うか、何が起きるか既に知ってしまっている。

忘れたことになんかできないし、フリをしても通用しない。
私の理性は永遠に騙せない。

でも、身体は物語に引き込まれやすい。

だから、本当に聞く時と同じ身体的感覚で耳を傾け、本当に探す時と同じように目や身体や感覚を使うのだ。

私は普段、どのような小さな行動を積み重ね、どんな感覚を経験しているのだろう?

例えば、私が…

人の打ち明け話を聞くとき、
探し物をしているとき、
想い出にふけっているとき、
孤独に耐えているとき…

そんな行動の細部や感覚を見抜き、再現できるようになるための訓練が始まったんだと自覚出来ていることが嬉しい。

これまで、相手のセリフを聞くって難しいと思ってきたし、どうしたら良いのか分からなかった。

そこにあると知っているモノを探したり、見つけて驚くのとかスゴク苦手だったけど、行動する能力を磨けば良かったんだ…

想像の音を聴き、身体感覚を調整する訓練


「さて、先ほどはなるべく沢山の音を拾うために、姿勢を変え、目を閉じ、呼吸も浅くしたかもしれません」

「はい、動きを制限し、耳に意識を集中させているのにも気づきました」

「なるほど、確かにそうでしたね」

「当たり前のようですが、普段、私はこのように小さな行動を無意識に行いながら、耳を澄ますという行動を成り立たせ、沢山の音を聞くという目的を達成しようとしているんですね」

普段、無意識に任せていた行動も、何が起きるか全て予定されている虚構の世界では、わざわざ学び直さなければ、本当に行動できない場合もあるのです

「はい、良く分かりました」

「逆に難しいと思っていた場面も、小さな行動に適切に分け、一つ一つを確実に行動することで思うがままに演じる事も出来るようになるのです」

「楽しみです」

「では、今度は想像の音に耳を傾けてみましょう」

「想像の音ですか?」

「はい、例えばですが、私が黒板を爪でひっかく音を…、アハハ!もう、顔が歪んでいるのが分かりますね、ハハ!」

「はい…」

「想像の音にでもあなたの身体が反応することが分かりますね。すると、逆に想像の音を操作することで、間接的にあなたの身体が経験することをコントロールできるということです。その訓練をしてみましょう」

「はい」

「では、今から私がいくつか場所を指定していきますので、想像の中でその場所へ行ってください。そして、そこで聞こえるであろう音を耳に経験させていただけたらなぁと思います」

「はい」

「私が細かく誘導することもありますが、あなたにとってその場所を感じるのに都合の良いモノだけを選択してくれれば良いです。私の誘導全てを実現しようとしないで、あなたの想像の世界で起きる事に身体を任せてみましょう」

「分かりました」

私は目を閉じた

「あなたは今 海に言います…

海岸の砂浜にいるのです…

どんな音が聞こえてくるでしょうか…

風の音かも知れません…

寄せる波の音かも知れません…

引いて行く波の音かも知れません…」

もう、来た!少しコツをつかんだのかもしれない。

意外だったけど、引いていく波の音が私にはリアルだった…潮の匂いが鼻をつく、もう、本当に海に来たみたいだ…

「砂浜にしみ込む海水の音かも知れません…

ひょっとすると鳥の鳴き声でしょうか…

今は、聴覚の訓練をしていますが、ひょっとすると潮の匂いや、頬に当たる風の感覚も同時に働いていたらそのままにしておきましょう…」

先生は恐らく私の得意な嗅覚を刺激しようとしてくれているのだ…
でも、いち早く私はそれを利用していた…

「海で 聞こえるであろう音に耳を傾けてみましょう。そして同時にその音を聞いたことで経験している体の変化に気がついてみましょう」

私はかなりくつろいだ身体の状態になっていた。
いつでも寝てしまえそうだった…

想像上の波の音が私を癒す

「場所が…急に…変わります…あなたは、今、交差点にたっています」

交差点…、もう少しこうして居たかったのに…

「交差点で聞こえるであろうことを耳にに思に出させてみましょう。そしてそこで経験するであろう感覚を全身に経験していることに気がついてみましょう」

「行き交う車の騒音…

車のクラクション…

行き交う人々の足音や声が聞こえるかもしれません…

そのような音を聞いたときに、皆さんの身体に起きる変化に気がついてみましょう。

今は聴覚の訓練をしていますが、映像が見えたり、匂いがしたりすることによってよりたくさんの音が聞こえてくるかもしれません…」

私は大都会の真ん中でとてもストレスを感じていた…
孤独が蘇ってくる
不安な感覚も…

「今、 体におきていることに気がついてみましょう…」

そして、私は先生の誘導にのって、激しい雨の中や、焚き火の前、森の中を次々に経験した。そして、最後は舞台の上で拍手喝采を聞いていた…

イメージを操作する


「あなたの耳に喝采を聞かせてみてください。

どんな音がどんな風にあなたの耳に響くでしょうか?

あなたの身体がどのような影響を受けているか気がついてみましょう

具体的にできる部分があればより具体的にしてみましょう

一番気に入った音をより大きくしてみましょう

もし、声が聞こえてくるなら、その声は誰の声でしょう

なんといっているでしょうか
言葉をより具体的にしてみましょう

聴こえてくる音に演出を加えることで結果的にあなたの身体に生まれてくる感覚に変化が起きるのに気がついてみましょう」

私はボロボロに泣いていた…

母を客席に見てしまったから、

あの声を聞き、居る!と気づき、探した、

手を叩いてくれていた…

そんなこと今までなかったし、もうない事なのに…


「はいっ! では、この部屋に戻ってきてください…お疲れ様でした」

「私たちが想像上で聞いた音の種類によって特定の感情や気分を自然に生じさせることができるということを経験していただけたかと思います」

「はい、今の感覚を全て自在に再現できれば素晴らしい事ができそうです」

「想像力は私たちが意識的にコントロールできる領域にあります。音量を調整してみたり、削除してみたり、ある音を具体的にしてみたりと編集自在です。すると、本来なら無意識に私たちに起きることも、意識的に操作できるということです」

「はい」

「では今回のレッスンは以上にいたしましょう。今週も宿題がありますので次回までの1週間取り組んでみてください」

私はある音源をもらった。

海から始まり交差点の音が実際に流れる。

それを聞き、生じてくる感情や感覚に気づくこと。

やがて、その音は消えるが、想像でその音を聞き続け、その身体感覚を保つようにするという訓練。

音が変わると別の感情が生じるが、その度に新たな感情が生じる瞬間や、それまでの感情が減衰していく様子を感じ取るようにすること。

これで身体的感覚に敏感なセンサーを養うことが出来るらしい。

すると、行動を繊細にコントロールしやすくなり、結果、感情の調整も細やかにできるようになるとのこと。

先生の誘導があると私は想像に身を任せるのがかなり楽にできるようになってきている。

この訓練を続ければ、自分だけでも私をやさしく誘導できるようになれるかも…

聴覚訓練のための解説と動画


【編集後記】
いつもお読みくださり誠にありがとうございます。下記の動画は「みんなの演技力を劇的に向上させるスタニスラフスキー・システムの本当の使い方」という動画教材の一部です。

今回の聴覚についての訓練が動画を見ながら自宅で可能です。

有料で販売中の教材ですので全てという訳にはいかないのですが一部を公開していく予定です。今回のお話しの中で出てきた宿題の訓練も音源付きでレッスンできますのでぜひお試しください。

今後、その他のコンテンツもYouTubeにアップする予定ですのでチャンネル登録や高評価の程よろしくお願いいたします。 アクティングコーチ田中徹

【レッスン音源へ頭出し済】⇩日々のトレーニングにご利用ください!⇩

俳優の環境を少しでも良くする一助になればと頑張ります。よろしければサポートお願いいたします。より、分かりやすく、役立つお話を創る原動力にさせて頂きます!