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M&A価格交渉のかなめ、企業価値評価

※当記事は2021.4.12にメルマガ配信されたものです。

今回のテーマは企業価値評価です。

企業価値評価(株式価値評価)の算定手法は、
・インカムアプローチ
・マーケットアプローチ
・コストアプローチ 

の3つに大別されます。どの方法により評価を行うかは、評価の目的や対象となる会社の業種や状況に応じて選択することになります。
各算定手法の仕組みや特徴を理解することは、実際のM&Aにおける価格交渉等でも役立つと考えられます。

インカムアプローチは、算定対象が生み出す将来のキャッシュフローをベースとした評価方法であり、代表的な手法にDCF法があります。DCF法は最も理論的な手法とされていますが、将来予測や前提条件を合理的に設定する必要があります。

マーケットアプローチは、算定対象もしくは類似上場会社の株価や財務指標等を用いて価値算定する手法であり、代表的な手法に類似会社比準法があります。市場株価等を参照する点で客観的であると考えられていますが、算定対象の事業内容等によっては、適切な類似上場会社を選定することが難しい場合もあります。

コストアプローチは、算定対象の財産価値をある一定時点で評価することにより価値算定する手法であり、時価純資産法や、時価純資産に営業利益の3年~5年分を加算する年買法などがあります。理論的根拠には欠ける面がありますが、シンプルで分かりやすいことからM&Aの実務でもよく使われています。

以下、M&Aの交渉において上記の算定手法をどのように活用できるか、一例を示したいと思います。

年買法は、バイサイドの目線に近い算定手法と言えるかと思います。
M&Aにより株式を取得した上場会社は、会計上、株式取得費用から対象会社の時価純資産を差し引いた金額をのれんとして計上し、一定期間で均等に償却するよう求められます。
通常、バイサイドでは対象会社の事業計画等から見込まれる営業利益等から、のれん償却額を差し引いて利益がいくらぐらい残るかというシミュレーションを、M&Aの検討段階で行います。このため、分かりやすい計算方法として時価純資産+のれんという年買法が定着していったのではないかと思われます。

一方、セルサイドは少しでも高く買って欲しいという要望がある点は良く理解できますが、例えば資本金の10倍で売りたい、といったあまりにも根拠のない計算では、価格交渉がスムーズに進んでいかない可能性もあります。
したがって、セルサイドはバイサイドの価格目線も踏まえつつ、DCF法や類似企業比準法による理論的根拠のある株式売却希望額をもとにバイサイドと交渉していくことが大事です。
また、セルサイドのオーナーの方には、最初に聞いた自社の評価額が頭から離れずに、時間が経過して状況も変化しているにもかかわらず、最初の評価額に固執してしまい株式譲渡の交渉が進まなかったという例もあるようです。
事業承継を検討される場合には、専門家による最新の評価額を把握されておくことが大事です。

最後までお読みいただきましてありがとうございました。
次回は「M&Aにおける”のれん”」についてお伝えする予定です。