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のれん M&A後の成長を見通せるか?

今回のテーマは「のれん」です。

暖簾(のれん)とは、商店の店先に日よけや目隠しなどのために吊り下げる布のことを言います。商店の入口などに営業中を示すため掲げられ、屋号や商号などが染め抜かれていたことから、暖簾はしだいにその店の信用も表すようになったと云われています。不祥事などが原因でその店の信用等を失う事を「暖簾に傷が付く」と言うのはご存知でしょう。
威張っている武士でも商店に入る際には暖簾をくぐって商人に対して頭を下げさせるために暖簾を下げていたという説もあるようですが定かではありません。

暖簾という言葉が「店の信用やブランド」という意味でも使われているように、会計用語としての「のれん」もまた会社の信用力やブランド力などといった目に見えない収益力として計上されるものです。のれんは、英語で「goodwill=グッドウィル」と言い、営業権という意味で、超過収益力などと訳します。

M&Aでの株式取得対価は、対象会社が将来生み出す収益(キャッシュ・フロー)等に基づいて評価されます。高い信用力やブランド力、技術・ノウハウなどを持つ企業は、目に見えない(=貸借対照表に計上されない)資産を活用して収益を上げることから、そうした企業の価値は時価純資産を上回ることとなり、結果として「のれん」が発生します。

反対に、株式取得対価が時価純資産を下回る場合には「負ののれん」が発生することになります。

通常では起こりにくい処理ですが、売買の交渉であればこそ、セルサイドの様々な事情により時価純資産を下回る金額でも株式を譲渡するこケースはあります。
私も負ののれんの計上は経験があります。以前は(正の)のれんの償却期間と同様に、負ののれんの償却費を営業外収益として複数年に均等に計上していましたが、現在の会計基準では一括で特別利益に計上されます。国際会計基準では負ののれんは営業利益に計上されます。

この負ののれんによる利益計上を頻繁に行っていたのがライザップです。実際のところ、負ののれんが計上されるのは買収金額が純資産を下回る場合であり、対象会社が恒常的な赤字であったり債務超過に陥っていることがほとんどです。負ののれんを計上すること自体は不正ではなく問題ありませんが、負ののれんが発生する会社を集中して買収し、それらの会社を安定的に黒字計上できるまでに成長させることができなかったことから、逆に大きな損失を計上する結果となってしまいました。

M&Aは最初に目的を明確にしておくことと、M&A後の成長まで含めた戦略を策定しておくことが重要です。

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M&Aに関連する用語には、マッチングやデューデリジェンス、クロージングなど、英語をそのまま使用しているものや比較的新しい言葉が多い中で「のれん」という言葉が残って使われていることに時々不思議な感じがすることがあります。

後記
35歳の若さで台湾のIT担当の閣僚に起用され、新型コロナウイルス対策で活躍した天才プログラマーのオードリー・タン(Audrey Tang)氏に関する本を読みました。中学生の時には学校には行かず、年齢や学歴、性別に関係のないインターネットの世界で、各国の教授達とコミュニケーションを取り研究を進めていたそうで、そのメールの内容を見て中学校の校長先生は「もう学校に来なくていいよ」と言って守ってくれたという話が載っていました(近藤弥生子著『オードリー・タンの思考 IQよりも大切なこと』ブックマン社、2021年より引用)。まだまだ年齢や学歴を重視する日本ですが、これからの変化の激しい国際社会に対応していくためには、才能のある人がもっと活躍できる社会が必要だと感じました。

最後までお読みいただきましてありがとうございました。
次回は「表明保証とその保険」についてお伝えする予定です。

※当記事は2021.5.7にメルマガ配信されたものです。