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薬の効果がないときどうするか

「薬の効果がないときにどうするか?」

これは簡単なようで難しい問題である。



薬の効果がないとき

統合失調症の人に、抗精神病薬で治療をしているとき、1種類目の薬の効果がないときには、通常は別の薬に変更する。

・待つ
・気分安定薬などの他の薬を追加する
・別の抗精神病薬を追加する ※あまり推奨されない
という選択肢もあるものの、多くの医師は別の薬に変更すると思われる。

2種類目の薬が効果がないとき難しい。
・待つ
・気分安定薬などの他の薬を追加する
・別の抗精神病薬を追加する
・更に別の抗精神病薬に変更する
という選択肢がでてくる。


別の抗精神病薬に変える

別の抗精神病薬に変えるといっても、何に変えるかが問題となる。

「本人を見たら〇が効くのが分かる」と主張する医師がいる。いわゆる”名人芸”である。私には全く分からない。「本当に効く薬が分かるなら、初めからそれを使ったらいいんじゃない?」と思ってしまう。

もちろんある程度の臨床経験はあるので、薬についてはイメージは持っている。


この薬を使ったらこういう副作用が出そう。この薬を使ったらこういう雰囲気になりそう。というのはあっても「この人にはこの薬が効きそう」と思うことは無い。もちろん「効いてほしい」と願いながら処方する。

私にとっての薬の変更は、副作用の出かた、使用した薬の効果の出かたから判断し、安全にかつそれなりの妥当性のある薬を選択するものの、基本的にしらみつぶしの作業である。

例えば、リスペリドンの高用量で何の効果のなかった人に、ブロナンセリン(ロナセン)を選んでも効果がない可能性が高いが、リスペリドンで少しは効果があったものの眠気・乳汁漏出などのため十分増量できなかった人にブロナンセリンを選ぶのはある程度合理性のある選択である。

いずれにしてもこういった場面での最大の問題点は、主治医の意向が大きく影響し本人や家族などの意見は尊重されないということである。もちろん不安定な時に、「今の薬が効果ないけど、どうする??」と聞かれても困ってしまうと思う。情報が無さ過ぎて判断しようがない。

それぞれの選択肢にはメリットとデメリットがある。

1)待つ

<メリット>
・本人への影響は最小限に留まる
・前の薬の離脱がない
・新しい薬の副作用も無
・時間が経つと意外と改善する

<デメリット>
・時間がかかることが多い
 逆に 結果的に早く良くなることもある。
・悪い状態を前にただ待つのは結構つらい
 なんとなく追加したり変えたりしたくなる。


2)気分安定薬などの他の薬を追加する

<メリット>
・良くなることがある
・状態が典型的でない人に効くことがある
・気分の変動や衝動性のある人に効くことがある

<デメリット>
・新たな副作用がでる
・改善後に中止しづらい
・効果を支持するデータはない
・ガイドラインでは使用しない方が良いとある


別の抗精神病薬を追加する

<メリット>
・効果が出やすい 
 本当の効果ではなく、単なる過鎮静の可能性もある。
・主治医が”名人芸”の人なら上手くいく
・前の薬の離脱がなくあまり揺れがなく安定しやすい

<デメリット>
・副作用は確実に増える
・主治医が”名人芸”の人でなければ 多剤併用・大量投与まっしぐら
・改善後に両方とも中止しづらい


更に別の抗精神病薬に変更する

<メリット>
・効果が出ることがある
 ただし可能性は結構低い。
・単剤併用が維持でき処方がきれい
・全体的に副作用は少なめ(使う薬の数が少ないため)
・使える病院なら クロザピンを使う

<デメリット>
・別の副作用
・前の薬の離脱がでることがある
・効いてくれる可能性はそれほど高くない

いずれにしても”名人芸”の医師でないのに、別の抗精神病薬を追加するという選択肢を選ぶ医師は最悪である。しかし世の中には自分は”名人芸”の医師だと思い込んでいる医師が結構いるので、注意が必要である。

誤解されないように一言追加しておくと、世の中には本当に”名人芸”の医師が存在する。しかし圧倒的に数は少なく、あなたの目の前の医師が”名人芸”の医師である可能性は限りなくゼロに近い。


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