見出し画像

薬に関する医師と本人の義務

かなり前に初診で見た人の話である。10年以上もメンタルクリニックに通院しているものの、診察を受けるのは半年に1回程度で、普段は職員とちょっと話をして薬をもらって帰ってきていた。以前は病院に電話し自宅まで薬を郵送してもらっていたらしいので、その当時に比べると負担が極めて大きくなっている。

診察を受けないで処方するのは完全に医師法違反である。

医師は自ら診察しないで治療をしたり、処方箋を交付してはならない
医師法第30条(改変あり)

 診察しないで処方するのは、内科系の開業医では比較的普通に見られるので、私はしないもののある程度は仕方ないのかもしれない。

この人の最大の問題は、通院を始めて半年も経たないうちに状態が安定したものの、その後ずーーーーと同じ薬が出し続けられていることである。抗不安薬1種類、抗うつ作用もある抗精神病薬1種類、副作用止め2種類、それぞれの薬の量もなかなかの量であった。本人は「飲み忘れると、変な感じがでるから飲み続けてきた。飲んでると普通に生活できる。この薬は自分に合っていると思う」と言う。

 

離脱という「症状」

結果から言えば、この人は時間をかけて減薬し薬を終了させ通院も終了となった。

「この薬は自分に合っている」のではなく、離脱のためやめれなくなっていただけであった。

比較的多い量の抗不安薬・睡眠薬を長期間飲み続けると、薬を飲み忘れたり急にやめると、薬が切れた頃に変な感覚が出ることが良くある。離脱症状といわれるものである。

もちろん抗精神病薬や抗うつ薬や気分安定薬を長期間、場合によっては一生飲み続けないといけない人はいる。特に統合失調症の人や双極性障害の人、再発を繰り返すうつ病の人はそうである。

しかしこの人の場合はそうではなかった。医師と本人がすべきことをきっちり守っていれば、もっと早い段階で治療を終了に持っていくことができたはずである。

 

医師の義務と本人の義務

医師の薬に関する義務は

・薬の効果と副作用に注意しながら処方する

・副作用止めは必要最低限にし、できるだけ早めに減量し中止を目指す

・中心となる薬は症状が改善すれば、一定期間続けた後にゆっくりと計画的に減量し中止を目指す

 

一方 本人の薬に関する義務は

・通院が大変でも定期的に通院し、医師と薬や治療について相談する

・薬を飲んでいればいいという、薬だけに頼った考え方をしない

 

これらの当たり前の義務を医師も本人もしなかった。

医師は延々と「患者」にし続け、楽して収入を得ることができ、本人は出前を取るような感覚で薬をもらい、長期間 漫然と薬を服用したことで症状ではなく薬の離脱のために延々と薬を続けることとなった。

自分は立派で優れた医療をしている、とは思わないものの、あまりにもレベルの低いひどい医療を見ると悲しくなってしまう。必要な時期にはしっかりと薬の力を借りながら治す、必要がなくなったら薬を止めていき治療の終了を目指すのが当たり前である。

 

薬が必要ながら過剰に恐れて飲まないことで結果的に苦しむ人。

薬が必要ないのに延々と薬を飲み続ける人 と 飲ませ続ける医師。

いずれも不幸な状況である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?