抗うつ薬はどの薬を選ぶのが良いか 私の治療アルゴリズム
【疑問】抗うつ薬はどうやって選ばれるのでしょうか
【回答】エビデンス上はどの抗うつ薬を選んでも効果の面での差はほとんどありません。医師の経験から使い分けられることが多いものの、本当にそれが正しいのかは誰にもわかりません。
どの抗うつ薬を使うか
うつ病の人に対してどの薬を使うかというのは、簡単でもあり難しい問題である。
うつ病の治療ガイドラインでは、第一選択薬としていろいろな抗うつ薬が挙げられている。
・軽症では新規抗うつ薬
・中等症以上では新規抗うつ薬・三環系抗うつ薬・四環系抗うつ薬・ECT(電気けいれん療法)
が推奨されている。
中等度以上に関しては代表的な治療法がほぼすべてが列挙されており、実質的に何も言っていないに近い(しない方が良い治療が明示されていることは意味がある)。
また新規抗うつ薬に関しては、「有効性・忍容性の両面で臨床的に明確な優劣の差はない」と明示されている。
つまり どれでもいい。
エビデンス上どれでもいいと言われても、実際多くの抗うつ薬から1つ選ぶ必要があり、その選び方は医師によって大分異なってくる。
1)抗うつ薬はどれを使っても同じという医師
良く言えばエビデンスに対して正直な医師である。
どの抗うつ薬が使われるかは適当に決められ、ある意味処方する人は医師である必要がない。
2)使い慣れたこの薬を使うという医師
その薬の使い方や副作用に関しては精通していることが多いものの、他の薬は使ったことがない経験の浅い医師であることもあり注意が必要。
特に1種類目の薬が効果がなかったときに治療は苦しくなる。
3)症状に合わせて使い分けるという医師
エビデンスを踏まえた上で、経験や感性を生かした処方をする。
精神科医には比較的多いタイプながら経験や感性が本当に正しいのか評価するのが難しい。
以下の本の著者でもある神田橋條治という超有名な精神科医は、患者に薬をかざして合う薬を見つけることができるという。
ちなみに私が知っているこの人の(自称)お弟子さんである精神科医は、「この薬の方が合う」と次々と薬を変え、あっという間にほとんどの患者を悪化させていた。
経験や感性は上手くはまれば最適な薬をいち早く見つけることができる一方、最悪の場合は効かない抗うつ薬から順番に選ばれてしまうということも起こりうる。
自分のうつ病の人の治療アルゴリズムを紹介する。これが正しいと主張するつもりはなく一つの参考と思って欲しい。
基本的に、1)抗うつ薬はどれを使っても同じ と思っているものの、副作用が異なるため、眠気などの副作用がプラスに働く人とマイナスに働く人で使い分けるという考え方である。
初発のうつ病 主に外来治療レベル
1)ゆっくり休み疲れを取る
2)疾病教育
・うつ病の基本的知識
・今は休む時期である
・自分を責めない
・回復するために、今 必要なこと
・治療方法
・今後どのように回復すると予想されるか
を説明。
*補足 全部一度に説明しても覚えている可能性はゼロのため、少しずつ分けて説明をしていく。
3)環境調整
・ストレスとなっていることの軽減を図る
・必要に応じて休職の診断書や相談窓口の紹介
・本人同様にストレスを抱え限界となっている家族を支援
など。
適度な環境調整は望ましいものの、初診時から過剰な環境調整を行うのはマイナスになることが多い。
特に「〇〇だからうつになりました」という人の発言は慎重に対処する方が良い。
4)抗うつ薬を十分量使用する
少量で効果が出る人はいるものの、効果も副作用も無いのに少量のままだらだらと続けない。
<通常>
エスシタロプラム(レクサプロ) 10mg 1×夕食後(最大20mg)
<不眠が強い、高齢者の場合>
ミルタザピン(リフレックス) 15mg 1×就寝前(最大45mg)
*補足 ミルタザピンの投与方法は就寝前ながら初期は夕食後の方が午前中の眠気が少なくて済むことが多い。
<不安はほとんどなく思考制止・意欲減退が目立つ>
ベンラファキシン(イフェクサー)37.5mg 1×昼食後
1-2週間後 75mg 1×朝食後(最大225mg)
*補足 ベンラファキシンは将来的には朝食後にすることが多いものの、初診は午前中の診察のため、朝食後の処方では実質的な薬物治療開始が翌日からとなってしまうため昼食後で始めることが多い。
ベンラファキシンやデュロキセチン(サインバルタ)は服用後に元気になる人と、少し眠気を感じる人に分かれる。
前者の人は朝食後、後者は夕食後に服用すると良い。
5)併用薬
ゆっくり休めるなら不要。
<不眠>
ラルメテオン(ロゼレム)8mg 1×就寝前
あるいはブロチゾラム(レンドルミン) 0.25mg 1×就寝前
*補足
オレキシン受容体拮抗薬のスボレキサント(ベルソムラ)が薬理作用的には理想的ながら、経験的には抗うつ薬を必要とするレベルのうつ病の不眠には効果不十分のことが多い。
逆にスボレキサントで不眠が改善する人は、抗うつ薬を使用せず、スボレキサント+休養+生活指導で改善することが多い。
マイスリー(ゾルピデム)は超短時間作用型でうつ病の不眠の中心の中途覚醒には効果不十分のことが多く、非ベンゾジアゼピン系で安全性が高いと言われながらも、意外と依存性が高く止めづらい人が多いので避けるほうが良い。
<不安が目立つ>
4週間以内 ロラゼパム 1.5mg 3×毎食後 あるいは ロフラゼプ(メイラックス) 1mg 1×夕食後
<焦燥が目立つ>
レボメプロマジン(レボトミン) 5-15mg
*補足 レボメプロマジンはうつを治すというよりとりあえず安定させ、眠れるようにして自殺などの衝動行動を予防するという目的で使用する。多い量を必要とする場合は入院した方が良い。
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