抗精神病薬を服用中の統合失調症は死亡率が低下する

【疑問】抗精神病薬で統合失調症は死亡しやすくなるか?

【答え】適切に使用すればない

抗精神病薬の危険性ばかり強調する人たちがいる。彼らの努力の多くは薬を安全に使用し多くの人が恩恵を得ることができるようにすることではなく、ただ薬を否定し拒否することに費やされている。

数年前に持続性注射(LAI)での突然死が新聞で大々的に報道されていた。

2016年6月15日現在 ゼプリオン使用後の死亡例は83人に上る。
YomiDr 2016.6.16

この報道が出た当時ゼプリオンなどのLAIを嫌がる人たちがある一定数あり少し苦労した。報道することは自由ではあるもの、報道する人たちの最大の問題点は報道した後の事実チェックと報告がないということである(報道前の事実チェックもいい加減すぎることも多い)。

人間は必ず死ぬので「読売新聞を読んだ直後の死亡例は〇人に上る」という記事だって簡単に作成できる。

LAIと経口薬とプラセボの比較 RCTのメタアナリシス

Kishi T et al.Scihzophr Bull 2016

対象人数が1.7万人と非常に大きいRCTのメタアナリシスで信頼性は高い。

LAIとプラセボはすべての原因の死亡率・自殺率ともに差がなく(平均期間28.9週)、LAIと経口薬でもすべての原因の死亡率・自殺率ともに差がなかった(平均64.5週)

抗精神病薬の服用者と非服用者

Taipale H et al. World Psychiatry 2020

1972~2014年に統合失調症と診断されたフィンランド人6.2万人を最長20年(中央値14.1年)追跡した研究。

22%が死亡、68%が身体疾患で入院しており、死亡率は非服用46%、服用26%と大きな差があった(全死亡HR0.48、心血管疾患による死亡0.62、自殺0.52)。

安全に配慮した薬の使用

今回のような薬が安全であるというニュースは報道されることはまずない。Googleなどで検索しても危険と言う話が大量に出てくるのみである。

抗精神病薬は絶対安全だ!と主張する気は全くない。

薬である以上 体に何らかの作用をし多少なりとも危険性はある。高齢者に少し多めに使用するとあっという間に嚥下が悪くなり肺炎を起こすことは良くある。

薬の必要性と危険性を正しく理解した上で治療を受ける必要がある。

2番目に紹介した6.2万人の14年前後の長期経過で死亡率は薬を服用している人の方が低いというデータは極めて重要である。もちろん薬を服用中の人は医療的なチェックが入るため死亡率が低下するという可能性はある。

いずれにしても薬は危険で怖いものではなく、本当に必要な人は十分に注意しながら使用すれば恩恵を得ることができる。

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