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「私は正常です」という親

今働いている病院は、初診で本人が受診を拒否しているときに家族だけの相談を受けている。もちろん本人の健康保険は利用できないため、自費診療となる。その際に良くある出来事である。


家族相談に来る親

子どものことで相談に来た人が、「病院に行くように話しても、怒るだけで言うことを聞いてくれない」「子どものことが心配で心配で仕方ない」「どう対応したらいいかわからない」などと、色々と困ったことをずっと話をする。

統合失調症や双極性障害などの早急に治療をしたほうが望ましい疾患の可能性が高いときには無理やりでも受診を勧める。自閉スペクトラム症や注意欠如多動性障害や知的障害などの発達障害の可能性が高いときには小児科や児童精神科医のところへの相談を勧める。そうではないとき、なんとなく明確な病気・障害がはっきりせず、日常生活において不適応を起こし、家族は困りおそらく本人も多少は困っていそうなときは、気長に受診を促したり、家族への対応を助言することになる。

家族が明らかに不安が強く、過干渉で、本人の言動に過剰に反応していることが明らかなときには、家族が定期的に通院し相談を続けることを提案する。しかし「本人が来ない以上、本人の診察や本人の治療はできませんが、困っているあなたの相談に乗ったり、あなたが変わるための援助や治療はできますよ」と伝えると、怒り出す人がいる。

 

「私は正常です」という人

「私は正常です! こんな病院を受診しないといけないほど頭はおかしくありません!」

 さすがにここまではっきりという人は少ないものの、「子どもが病院に行ってくれない」と嘆いている人で精神疾患に偏見を持っている人は多い。

「私は正常です!」という言葉は、子どもに対して「おまえは異常で頭がおかしくなっていて、こんな病院に無理やり連れてこないといけない」と感じているということである。そんな風に接する親に対して、子どもは当然ながら「私は正常だ!」と怒り、病院受診を拒否する。

「自分は今余裕がなくなっている」「ちょっと神経が過敏になっている」「空回りばかりしている」などは自覚することは可能で、そこから治療につなげることは可能ながら、「頭がおかしいかもしれない」ということを受け入れることは、ほとんどの人にはできない。

 そのことに気付き、自分の持つ精神疾患に対する偏見を改善し、自分自身も変わろうとするとき子どもも変わっていくことが多い。そのため、本人が受診を強く拒否をしている場合や本人が受診につながるのはかなり先になりそうな場合は、自費診療にするか、本人ではなく家族のカルテを作り、家族自身の問題として相談や治療に関わるようにしている。しかし、そのことを説明しても希望する人はほとんどいない。

 

病院を受診するということ

病院に1回行くだけで、それほど大きな代償を払うことなく、魔法の言葉をもらって子どもが良くなることを期待している、というようにしか思えれない人があまりにも多い。

 精神科病院は頭がおかしくなった人が受診するところではありません。精神科病院は1回行っただけで魔法のように良くしてくれるところでもありません。

気軽になんでも相談しに行く場所でもありません。

それなりの覚悟(言われたことに従う覚悟、しっかりと治療を受け続ける覚悟)をもって受診をする場所です。そのことを忘れないようにしてください。

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