抗うつ薬の個人的な印象
以下の記事でどの抗うつ薬が最も優秀かという論文を紹介した。
今回は、抗うつ薬に対する一精神科医としての印象を紹介する。
これが正しいと主張する気はなく、「精神科医はこんなイメージで抗うつ薬を使い分けているんだ」ということを知って欲しい。
もちろん医師によっては全く違うイメージを持っているかもしれない。
SSRI 選択的セロトニン再取り込み阻害薬
エスシタロプラム(レクサプロ)
効果はある程度あり、副作用は少ない。初期に眠気や胃部不快などの消化器症状が多少出ることがあるもの、多くはすぐに軽減する。
開始用量10mgが効果の出る量と同じなので、増量せず待つことができる(必要時には20mgまで増量する)。
重度のうつ病の人は効果がちょっと弱いと感じることがある。
通常のうつ病の人はもちろん、パニック障害、全般性不安障害など広い範囲に安心して使える薬。
セルトラリン(ジェイゾロフト)
下痢・胃部不快感・眠気などの副作用が多少出ることがあるも次第に軽減する。
海外では200mgまで使用できるものの、日本では100mgまでしか使えないためか、効果はやや頭打ちという感じがある。
25mgの少量から出せるため副作用が出やすい人に使いやすい。
エスシタロプラムが発売されるまでは使用頻度が高かった。
パロキセチン(パキシル)
比較的副作用が強く出ることが多いものの効果は高い。
重度のうつ病でも40mgまで使用すれば十分治療が可能。
すーと不安が軽減し、「まあいいか」という感覚が増える。
この感覚が強く出すぎて、脱抑制的になったり衝動的になってしまうことがまれにある。
離脱が出やすく薬を終了させることが難しい人が多い。
ただしこれは薬の副作用というより、重症の人に使うことが多いためかもしれない。
フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)
嘔気などの副作用が出る人が多い。
決められた最大量(150mg)では効果は今ひとつのことが多い。
こだわりや強迫に効果はあるものの、決められた量以上の200-250mg必要なことがある。
副作用が強くなる上に保険で切られることがあるので使いづらい。
優秀な他のSSRIが発売されており、今更新しく処方することはない。
SNRI セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬
ベンラファキシン(イフェクサー)
多少 眠気・便秘・嘔気などの消化器系の副作用が出ることがあるものの次第に消える。
効果は十分にあり、意欲減退、抑うつ気分など改善させる力が強い。
重度のうつ病の治療も十分可能。
カプセルで飲みづらく、服用量が75mg、150mg、225mgとなんとも切りが悪い。
デュロキセチン(サインバルタ)
初期に軽度の消化器系の副作用が出る人が多いが、効果はある。
不安、意欲減退、抑うつ気分などのうつ病の中心症状に効果がある一方で、痛みに対しても効果がある。
カプセルで飲みづらい。
ベンラファキシン発売までは使用頻度が高かったものの、現在は使用頻度が減り、痛みに対して使うことが多い。
最近は整形外科の医師が処方することが多くなっており、その影響で双極性障害の人が躁転してしまうことがある。
ミルナシプラン(トレドミン)
軽度の副作用が出ることが多い。
効果は決められた量(100mg)を守っていると今ひとつで、150mgは使用したいものの、保険で切られることが多くなる。
他に優秀なSNRIがあるため、使うことはない。
NaSSA ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性
ミルタザピン(リフレックス)
軽度の副作用が出る人と強い副作用が出る人と分かれる。
高齢者や中高年以降のうつ病の人には副作用は出づらいものの、若い人では強力な眠気や食欲増加が出やすく、1日立ち上がれなくなることもある。
効果は非常にあり、睡眠を安定させ、食欲を改善し、不安を軽減し意欲減退などのうつ状態も改善していく。
高齢者のうつ病や不眠や食欲減退の強いうつ病に効果が高い。
三環系・四環系抗うつ薬
効果は高いものの、副作用も多くSSRI・SNRIで十分治療可能であり、長期服用している人以外は新たに処方することはない。
少量追加して上手く調整する達人はいるものの、ほとんどの精神科医は多剤併用になり、副作用と症状の区別を付けれないため、処方しない方が良い。
新たに使う精神科医は、極めて治療が上手い人か、古い知識しかない下手な人かどちらかであることが多い。
その他
トラゾドン(デジレル、レスリン)、ミアンセリン(テトラミド)
抗うつ作用を期待して処方することはほとんどない。
睡眠の質を改善させる作用がある。
スルピリド(ドグマチール)
少量25-50mgで不安をやわらげ、食欲を改善させる。
小刻み歩行や無表情や手の震えなどの副作用が出やすい。
100mg以上は副作用が増えるだけで効果は低く、スルピリドではなく他の抗うつ薬をしっかり使用するべきである。
ボルチオキセチン(トリンテリックス)
2019.11に発売された比較的新しい薬である。
現在は病院での仕事が中心でうつ病を治療する機会が減っていることもあり、個人的な使用経験は不十分であるものの、比較的良い薬という印象がある。
といっても、エスシタロプラムやベンラファキシンで十分代用可能なので、わざわざ使うメリットがあるかは微妙なところである。
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