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抗認知症薬を保険適応から外すということ

認知症には抗認知症薬が使われることが多いものの、その意味をもう一度しっかりと考えておく必要がある。

既にフランスでは抗認知症薬の一部は保険適応から外されている。

認知症の治療に日本でも使われている4種類の薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチン)が、フランスで医療保険の適用対象から外されることになった。副作用の割に効果が高くなく、薬の有用性が不十分だと判断した。これまで15%が保険で支払われていたが、全額が自己負担になる
2018年6月23日 朝日新聞デジタル


抗認知症薬の効果

抗認知症薬の効果に対する疑念は今に始まったことではなく発売当初からあった。

本物の薬飲んでいる人 と 偽物の薬を飲んでいる人を比較すると、本物の薬を飲んでいる人の方が認知症の進行が2年程度遅くなり、介護の必要性が増えるのを多少予防してくれる。

ごく一部の例外はあるにしても薬を飲むことで症状が改善することはない。認知症の進行を止める~少しゆっくりにさせるという意味合いしかない。

それでも現在日本で発売されている認知症の薬は承認された。現在 1)進行予防の意味はそれほど大きくない、2)副作用も多く出る、3)抗認知症薬の代金が高くなりすぎてきた、などのから抗認知症薬を保険適応から外そうとする動きがある。

2020年度の薬の販売金額は、メマリー(メマンチン)184億円、レミニール(ガランタミン)72億円、アリセプト(ドネペジル) 93億円(出典:Answer News 2021/07/07)と高額である。それぞれの前年度比64%、58%、30%とジェネリックへの移行が進んでいる。

先発薬を販売している会社が後発薬のシェアが大きくなりメリットが少なくなり政治家への献金をやめたのでは?と思ってしまう。


個人的には一様に保険適応から外すことには反対である。

しかし医師ならだれでも処方できる、いつまででも処方し続けることができるというのはやめた方が良い。

抗認知症薬は使い方が難しい、特に効果判定と継続するか中止するかの判断が難しい。


抗認知症薬の効果判定は難しい

ごく一部の人は薬を開始することで活動的になったり、頭の働きが良くなったり、生き生きするようになる。この場合は効果があると判断するのは簡単である。

しかし抗認知症薬のもっとも期待される効果の現われ方は、認知症の進行を1-2年遅らせることである。

薬の効果があっても認知機能は少しずつ低下する、効果がなかったときには認知機能は低下する。認知機能の低下するスピードは個人差が大きく、現在の低下は、薬のために少し遅らせることができているのか、飲んでも飲まなくても差がないのか判断は極めて難しい。

時々 抗認知症薬の効果判定のためには、「定期的にHDS-R(長谷川式簡易認知症検査)などの検査を行うべき」という人がいるものの反対である。定期的な検査で少しずつ悪化していることが確認できても、薬の効果がないとは判断できないし、薬の効果があるとも判断できない。HDS-Rの1-2点の変化は誤差レベルで本人に負担をかけているだけである。

意味のあるHDS-Rの4-5点の変化は検査をするまでもなく診察場面で察知できるのが精神科医として当然のスキルである。


継続するか中断するか判断が難しい

服薬を続けている人の薬を継続するか中断するか判断は難しい。

効果がある程度あっても、時間の経過とともに次第に認知症は進行することが多く、今の状態を考えると続ける意味があるのか疑問に感じるときが来る。

しかし抗認知症薬を中断すると認知症は悪化するというデータがある以上、中断する際には家族や施設職員に説明しないといけない。

飲み込みが悪くなったり、ふらつきが強いなどの副作用が目立つときには、継続のメリットよりデメリットの方が大きいため中断するべきである。しかし目立った副作用がないときには「これ以上 認知症が悪くなると困るから続けてほしい」「一応続けてほしい」などと言われると 継続はやむを得なくなってしまう。

しかも高度アルツハイマー型認知症に対しては、ドネペジル(アリセプト)を5mgではなく10㎎を使ってよい、メマリー(メマンチン)を使ってよいとなっているため、高度のアルツハイマー型認知症だから抗認知症薬をやめるという理由にはならなくなってしまう。

今後 認知症はどんどんと増加することを考えると、
・抗認知症薬は認知症を専門とする医師しか処方できない
・治療開始から3年までしか保険適応を認めない
などのある程度の枠を決めた上で使用するのが良い。

補足:3年にした意図はあまりなく、経験的にそれ以上の継続は本人のためというより、家族や職員の安心のためという要素が大きいからである。


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