成人期ADHDと小児期ADHDはつながっていない?
興味深いデータがある。
出典:成人期ADHDは小児と同様の病態なのか?同様に治療可能なのか 吉川徹 臨床精神薬理20:671-676、2017
趣旨は
・成人期ADHDは小児期ADHDからの移行と考えられていたが違うかもしれない
・青年期以降に初めて診断基準を満たす遅発型がある
その中で紹介されていた論文
Moffitt TE et al Am J Psychiatr 2015
Caye A et al JAMA Psychiatry 2016a
Agnew-Blais JC et al. JAMA Psychiatry 2016
これらを概略化すると、
・小児期ADHDの78-95%は大人になるとADHDの基準を満たさなくなる
・成人期ADHDの68-90%は子どものときADHDではなかった
1つめの小児期ADHDは大人になるとADHDではなくなるというのは、成長(と治療)により改善していると理解することができ、ある種喜ばしいことである。
しかし2つめの成人期ADHDのかなりの多くは子どものときADHDとはみなされていなかったというデータはかなり重大な問題を含んでいる。
小児期ADHDと成人期ADHDは大分違う疾患群である可能性、小児期ADHDが正常の発達過程の揺らぎを広くとらえすぎている可能性、成人期ADHD自体の診断が妥当ではない可能性などである。
ADHDにしか見えない人
実際の臨床においても、統合失調症やうつ病の病名がついているもののADHDの傾向を持った人を見ることがある。
注意力が散漫で作業に集中できず、順序立てて動することができず、行き当たりばったり目のつくものにすぐ手を出して、全てが中途半端で、いつも探し物をしている。
常に体のどこかを動かしそわそわして落ち着かない、すぐ話に入ってくる。
失敗や他人に迷惑となることをして注意すると「わかりました」「すみません」と返事はいいものの、すぐに違う話を始め同じことを何度も繰返す。
どう見てもADHDにしか見えないものの、家族や本人は「子どもの頃や若いころは普通だった」「問題なかった」と何度確認しても否定する。
その場合統合失調症などの現在の病気のために今のような状態になっているのか、ADHDだったものの家族も本人も周りも気が付いていなかったのか悩むことが多かった。
ある種 すっきりした。
これらの状況は、同じADHDというスペクトラム上にある人たちが、「症状」が成長とともに増減することによるものなのか、小児期ADHDと成人期ADHDとは異なる疾患なのか、それとも他の要因なのか、今後の研究を待ちたい。
生活のしづらさを抱えてる人
また小児期ADHDの78-95%は大人になると寛解する(ADHDの基準を満たさなくなる)といっても、基準を満たさなくなるだけで、生活のしづらさが強く残っている人はどの程度いるものなのだろうか気になる。
成人期ADHDは 小児期ADHDに比べて、
・多動性は 外的→内心の落ち着きのなさ で現れる
・情動制御や高次の実行機能の領域 で現れる
・小児期に情動制御の問題があると、ADHDは持続しやすく、その後の併存症も多い
とされている。
見た目的には分かりづらくなるも、内面の”忙しさ”や適切な行動が取れないということで現れ、本人の苦痛は非常に大きなものとなる。
今後 ADHDは”いい薬”を使う前に、本人にあったトレーニングをしっかり行い、その人たちの環境にあった対応を検討しながら、成長を待つという視点が更に重要になってくる。
そして成人期ADHDの診断は慎重になるべきであり、薬の使用は極めて慎重に検討するべきである。
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