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自民党有力政治家を分析する。中島岳志『自民党 価値とリスクのマトリクス』の目次より

中島岳志『自民党 価値とリスクのマトリクス』は、安倍首相をはじめ、菅義偉、岸田文雄、石破茂ら自民党有力政治家9人の著作・発言の分析を積み重ね、現在の自民党の特質をあぶり出す一冊です。

このnoteでは、「目次」と本文からの引用で、本書の流れを見ることができます。

安倍晋三、石破茂、菅義偉、野田聖子、河野太郎、岸田文雄、加藤勝信、小渕優子、小泉進次郎。9人の首相候補政治家の言葉、著作の分析を積み重ね、現在の自民党の本質をあぶり出す。「リベラル保守」を掲げる政治学者による、これからの日本の選択を考える際の重要な指標となる画期的自民党論。
「右」「左」では表しきれない政治のあり方を、「価値」と「リスク」のマトリクスで読み解く!

中島岳志『自民党 価値とリスクのマトリクス』
ISBN:978-4-909048-05-9 C0031 本体:1,600円+税

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【目次】

中島岳志『自民党 価値とリスクのマトリクス』発行:スタンド・ブックスISBN:978-4-909048-05-9 C0031 本体:1,600円+税

はじめに (こちらのnoteに転載されています)

 政治家の言葉を読むこと(6p〜)

私たちは、政治家をキャラやイメージで捉えすぎていないでしょうか。俗人的な人間関係によって、政治の世界を見過ぎていないでしょうか。
この連載では、さまざまな政治家の文章をじっくりと読むことによって、おなじみの政治家たちの理念や構想を把握してゆきたいと思います。

 政治のマトリクス(8P~)

このように〈価値〉と〈リスク〉を軸に分類をしていくと、四つのタイプの政治家のあり方が浮かび上がってきます。私は政治家を捉える際、「右」/「左」というイデオロギーよりも、Ⅰ〜Ⅳの象限で分類することにしています。そのほうが、各政治家のヴィジョンを捉えるには、明らかに有効だからです。

チャート2

〈1〉 安倍晋三 アンチ・リベラルと親米

 安倍晋三という政治家の「地金」(13p~)

肯定的な評価と否定的な評価に真っぷたつに分かれる人物ですが、どのようなヴィジョンや政策、特徴を持った政治家なのか、私たちははっきりとつかみ切れていないのではないでしょうか。

 議員生活は歴史認識問題からスタート(15p~)

安倍さんはいきなり野党の政治家としてキャリアをスタートさせます。そして、このことが安倍晋三という政治家を考える際、重要な意味を持ちます。

 「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」事務局長に(17p~)

この会の記録が書籍となって残されていますが、そこでも歴史教科書問題や慰安婦問題などをめぐって、官僚やリベラル派の政治家、左派的知識人に対する激しい批判が繰り返されています。

 アンチ左翼、アンチ・リベラル(20p~)

ここで「論破」という言葉を使っているのが、安倍晋三という政治家の特徴をよく表していると言えるでしょう。相手の見解に耳を傾けながら丁寧に合意形成を進めるのではなく、自らの正しさに基づいて「論破」することに価値を見出しているというのがわかります。

 靖国参拝は国家観の根本(25p~)

国家は命を投げうってでも守ろうとする国民がいなければ成立しない。だとすれば、国のために命を捨てた人の顕彰がなければ、国家は成り立たない。そう説きます。

 日米安保強化を一貫して強調(26p~)

親米派の安倍さんは、イラク戦争についてもアメリカを支持。自衛隊派遣についても民主制を定着させるという「大義」と石油確保という「国益」のために、積極的に進めるべきとの立場をとりました。

 政治家は結果責任をとることで免罪される(30p~)

彼は祖父・岸信介の態度を継承しながら、心情倫理として問題があっても、結果責任をとることで免罪されると考えているのですから。

 日本型ネオコン勢力の権力奪取(32p~)

安倍さんの本来の関心は、横軸(価値の問題)に集中しています。そして、その姿勢は本人が言及するように「アンチ・リベラル」です。

〈2〉 石破茂 自立と持続可能性

 政界トップクラスの著作数(37p~)

そもそも石破さんは農林水産大臣も務めたことのある農水族です。また、第二次安倍内閣で地方創生担当大臣を務めたことから、近年は地方の活性化問題についての発言が多くなっています。

 「小さな政府」を志向、自立と持続可能性(40p~)

一方、石破さんが強化すべきと主張するのが、現役世代(特に若者)に対する再配分です。彼はしきりに「若者を金持ちにしよう!」と言います。

 アベノミクスへの懐疑(45p~)

日本では上場企業以外で働く人が大多数であるため、ここに届く経済政策をとらなければ、国民全体の実感につながりません。
そこで注目するのが地方の存在です。

 原発再稼働、米海兵隊は国外へ(48p~)

石破さんは、日本の領土をアメリカの軍事基地として無批判に提供しているようでは、自立した独立国とは言えないと主張します。

 「価値」をめぐるヴィジョン(53p~)

ただ、近年の安倍内閣の決定プロセスに対して、党内議論の活性化や丁寧な合意形成、多様性の尊重などを訴えており、この点では相対的にリベラルだといえるでしょう。

※石破茂については、こちらの論考もあわせてお読みください。

〈3〉 菅義偉 忖度政治と大衆迎合

 冷徹なポピュリスト(59p~)

読売新聞朝刊で連載中の「人生案内」には必ず目を通し、市井の動きや感情に、常に目を光らせているといいます。

 地元有力者の父親に反発、秋田から上京(60p~)

若き日の菅さんを語る際に、よく語られるのが「たたき上げ」「苦労人」というキーワードです。

 人事を通じて官僚に忖度させる(63p~)

菅さんの特徴は、なんといっても「人事」。官僚などの人事権を握ることで巧みに誘導し、忖度を生み出すことで、政治的成果を得ようとします。

 メディアの自主規制を誘導し、批判を抑えこむ(65p~)

しかし、このような手法は、空気を読まない人間の乱入によってかき乱されます。それが東京新聞の望月記者をめぐる一連の騒動です。

 大衆迎合──値下げ、返礼品、リゾート誘致(68p~)

菅さんの推進する政策には、大衆の欲望に迎合するものが多く見られます。その典型が「値下げ」です。

 自己責任を基調とする「小さな政府」、橋下徹と呼応(71p~)

菅さんの打ち出す政策は、基本的に「自助」という自己責任を基調とする「小さな政府」路線に基づいています。

 政策の優先順位は価値よりコストの問題(73p~)

同じⅣの安倍さんとは、基本路線を共有しつつ、重視する政策の傾向が異なります。

〈4〉 野田聖子 多様性と包摂

 男性中心社会への憤り(79p~)

彼女は「マドンナ議員」というレッテルを払拭しようと、政策面で努力を積み重ねます。そして政治家としていち早く関心を寄せた「情報通信」分野で頭角を現しました。

 不妊治療を契機として(82p~)

野田さんは、この経験を経たうえで、人口問題・少子化問題に本格的に取り組んでいきます。

 子どもを産み育てやすい環境の整備(84p~)

野田さんの一貫した主張は、子どもを産み育てやすい環境を整備すべきということで、特に「女性が就業しやすい社会的条件の整備が進んだ国では、子どもも産みやすい」という点を強調します

 家族形態の多様性を容認する社会(88p~)

野田さんのスローガンは、「ダイバーシティ」と「インクルージョン」という概念に帰結していきます

 アベノミクス・新自由主義批判(91p~)

それは「未来への投資」です。少子化対策、教育、人材投資、研究開発投資を進め、子や孫にレガシーを残すことで持続可能性を追求するというヴィジョンが掲げられます。

 選択的夫婦別姓という悲願、LGBT・セクハラ対策(93p~)

野田さんの射程は、選択的夫婦別姓の導入にとどまりません。民法を改正して、「結婚の規制緩和」を実現することを目指しています

 弱点と課題(95p~)

つまり、安倍政権がこだわる右派的政策に対して、そのオルタナティブを持ち合わせていないという明確な弱点があります。

〈5〉 河野太郎 徹底した新自由主義者

 自らの主張を積極的に発信する政治家(101p~)

東日本大震災後、河野さんは自民党にありながら脱原発を説く論客として注目が集まりました

 父・河野洋平への敬意と反発(103p~)

河野さんには、父の存在に依存して政治家になったという意識は薄く、むしろ父の考えに背いても自らの意志を貫くという意識が強く働いています。

 「小さな政府」論者(105p~)

彼は繰り返し「小さな政府で経済成長」すべきことを訴え、行政のスリム化を強調します

 競争原理と規制緩和を推進(106p~)

河野さんにとって、かつての自民党は左派的な存在です。長年のしがらみに基づいて、効果を度外視した再配分が行われてきたことを「社会主義的」と捉えています。

 「敗者」と「弱者」を混同してはならない(110p~)

小泉政権が終わると、格差社会の問題が取り上げられ、構造改革の弊害が説かれることが多くなりました。これに対し、河野さんは真っ向から反論します。

 新自由主義政策の延長にある脱原発(113p~)

河野さんにとって、日本の原子力政策は既得権益の塊にほかなりません。

 外国人労働者受け入れ、外交・安全保障のコスト(114p~)

河野さんの特徴は、外交・安全保障問題についてもコスト問題が強調される点です。

 政策の中核はリスクの個人化(117p~)

河野さんは総体的に「リベラル」な志向性を持っていると判断できますが、政治家として実現した政策の中核は、価値観の問題ではなく、「リスクの個人化」にあります。

〈6〉 岸田文雄 敵をつくらない「安定」感

 ヴィジョンを示さず、敵をつくらない(123p~)

とにかく当たり障りのないことを言う天才。発言に対して強い反発が起こらないかわりに、政策やヴィジョンに対する強い共感も広がっていません。

 安倍首相には従順、福田元首相には共感(125p~)

岸田さんは、思想的には異なる立場の安倍さんに対して、従順な態度を貫きます。

 「自己責任」なのか? 「セーフティネット強化」なのか?(128p~)

とにかく明確なスタンスを打ち出すことはせず、その時どきの政権の方針に柔軟に対応し行動するという姿勢は一貫しています。

 一貫して原発推進、ブレる憲法論(133p~)

いずれにしても、憲法九条をめぐるスタンスがブレていることは事実です。

 靖国問題に対するあいまいな態度(137p~)

自らが首相になった際に、参拝するか否かについて、管見の限り、明言を避けています。

 核廃絶への思い(138p~)

岸田さんは、一貫して日米安保堅持のスタンスをとっています。しかし、アメリカの核の拡大政策については厳しい見方を提示してきました。

 本当にリベラルなのか?(140p~)

とにかく自らのヴィジョンを語る勇気を持たない限り、国民は首相にふさわしい人物か否かの判断ができません。

〈7〉 加藤勝信 リスクの社会化を実現するために

 加藤六月の娘婿、安倍家との関係(147p~)

加藤六月さんは安倍晋太郎さんの信任が厚く、「安倍派四天王」の筆頭と言われていました。

 安倍内閣で一気に出世(149p~)

ある財務省幹部は、次のように言っています。「加藤氏に官邸主導の人事を見せつけられ、無駄な抵抗は止めたほうがいいと悟った」

 リスクの社会化を目指す(151p~)

加藤さんの最大の特徴は、新自由主義が自民党内を席巻するなか、珍しく「リスクの社会化」政策に取り組んできたという点にあります。

 一億総活躍社会の実現(154p~)

力強い成長をするためには、社会的弱者となった人たちが「夢や希望を持って家庭や地域社会や職場等でもう一歩前へ踏み出して行ける社会」が必要だと述べます

 子どもの貧困の解決(156p~)

子どもの貧困対策こそ、未来への投資となると、加藤さんは言います。

 「働き方改革」を主導、賃上げを重視(158p~)

賃金は、大企業だけ上がればいいのではない。中小企業の賃金も上げるためには「取引関係の中で適正な取引をやっていただく」ことを要請しなければならないと言います。

 一貫して消費税増税(161p~)

消費の拡大を促進しながら、消費税増税にこだわる姿勢には、様々な異論があるでしょう。

 価値をめぐる政治スタンスを見せず(161p~)

加藤さんのもうひとつの特徴は、夫婦別姓やLGBTの権利問題、歴史認識問題などの「価値」をめぐる政治課題について、ほとんど関心を示さない点にあります。

 安倍的パターナリズムから脱却できるか(164p~)

加藤さんの課題は、安倍的パターナリズムから距離をとることができるかどうかにかかっています。

〈8〉 小渕優子 財政再建とセーフティネット

 小渕元首相が溺愛した娘(169p~)

二〇〇〇年六月の衆議院議員総選挙に群馬5区から出馬し、十六万票以上を獲得して初当選。この時、弱冠二十六歳でした。

 セーフティネットの充実による少子化対策(172p~)

小渕さんの特徴は、自民党のなかにあって、子育て問題を家族のあるべきかたちという規範に回収しない点です。

 財政再建を主張、消費税増税もやむなし(176p~)

小渕さんの関心は、少子化対策などに必要な財源問題に向かっていきます。

 夫婦別姓を推進、リベラルな価値観(178p~)

自民党が政権交代によって野党になった時代、小渕さんは自民党転落の原因を、多様化する時代の変化に対応できなかったことにあるとみなし、世代交代や女性参画を進めていかなければならないと説いています。

〈9〉 小泉進次郎 「自助」の限界

 横須賀育ち、体育会系の気質(183p~)

このマッチョな根性主義が彼の基本姿勢であり、政治ヴィジョンや人間観にも反映されます。

 アメリカでジャパンハンドラーから影響を受ける(185p~)

小泉さんという政治家を分析する際、非常に重要なのは大学卒業後に経験した約三年間のアメリカ留学です。

 民主党政権に対抗し「自助」を強調(186p~)

政治家・小泉進次郎が、与党・民主党を批判するという構図で幕を開けたことには、重要な意味があります。彼はセーフティネット強化(=「公助」)や新しい公共・社会的包括(=「共助」)を強調する民主党への対抗から、「自助」を優先すべきことを強調しました。

 原発へのあいまいな態度、父は「郵政」息子は「農協」(189p~)

父の小泉純一郎元首相は、郵政民営化に徹底的にこだわりましたが、小泉さんは「農協」の改革にメスを入れることになります。この両者はパラレルな関係にあると言っていいでしょう。

 「アベノミクスは時間稼ぎに過ぎない」─東京五輪後を見据える(195p~)

小泉さんは、社会保障をめぐる財政の厳しさを強調します。

 「人生100年時代の社会保障へ」(198p~)

ここで小泉さんは「自助」の限界にぶつかります。

 リスクの個人化に軸足を置き格差・貧困を是正(200p~)

農政改革での挫折。なかなか政権に採用されない社会保障の提言。小泉さんの経験不足・実績不足は否めません。

おわりに──私たちは何を選択するべきか

 保守本流はⅠとⅡの融合体だった(204p~)

田中角栄さんは「リスクの社会化」を推し進めた政治家でした。

 「小さな政府」論の登場(206p~)

問題は、この政治改革路線が、「再配分の透明化」ではなく「再配分の縮小」へとつながっていったことです。

 新自由主義(Ⅲ)から日本型ネオコン(Ⅳ)へ(209p~)

小泉さんはⅠ・Ⅱの路線を「古い自民党」とラベリングし、「自民党をぶっ壊す」と叫ぶことで、ポピュリズム的人気を獲得しました。彼は「リスクの社会化」を唱える人たちを「抵抗勢力」と名づけ、逆に自らを「改革勢力」と位置づけることで、世論を誘導していきました。

 首相候補者たちのマッピング(212p~)

やはり「リスクの社会化」を指向する人たちよりも、「リスクの個人化」を指向する人たちのほうが、首相候補としては有力視されています。

 野党の戦略(216p~)

このような自民党に対抗するために、野党がとるべきポジションは明確です。

 政治家にとって言葉とは何か(218p~)

本書をひとつのきっかけとして、政治家の理念・ヴィジョンのマッピングを行い、これからの日本のあるべき姿を考える流れができてくれればと願っています。政治を軽視したり、冷笑したり、侮ってはいけません。「どのような社会を生きたいのか」という人生観と直結するのが、政治なのですから。

【著者紹介】

中島岳志(なかじまたけし)
1975年大阪生まれ。大阪外国語大学卒業。京都大学大学院博士課程修了。北海道大学大学院准教授を経て、現在は東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。専攻は南アジア地域研究、近代日本政治思想。2005年、『中村屋のボース』で大佛次郎論壇賞、アジア・太平洋賞大賞受賞。
著書に『ナショナリズムと宗教』、『インドの時代』、『パール判事』、『朝日平吾の憂鬱』、『保守のヒント』、『秋葉原事件』、『「リベラル保守」宣言』、『血盟団事件』、『岩波茂雄』、『アジア主義』、『下中彌三郎』、『親鸞と日本主義』、『保守と立憲』、『超国家主義』、『保守と大東亜戦争』などがある。



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