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3.5諭吉を失い、上の人からは叱責され、半泣きになった話。

突然ですがワタクシ、遥か昔に某インターネットプロバイダで、3年ほどテレオペをしていたことがありまして。

当時は個人情報保護法が施行されてしばらく経った頃でしたので、オフィスの入り口という入り口、それはそれは物々しい警備体制でございました。

警備員さんが各入り口に常駐しておりまして、まずはそこで持ち物検査(通称モチケン)にパスしなければなりません。

さらにその先は駅の改札のようになっておりまして、IDカードをかざさねば通れず、警告音が鳴り響くシステムになっておりました。

制服にポケットは一つもなく、透明なビニール製の手提げ袋が支給され、その中にはハンカチと貴重品と飲み物類しか入れることができませんでした。

研修の資料すら許可がなければ持ち込めず、携帯電話はもってのほか。

携帯は休憩室で使えましたが、うっかり手提げ袋に入れたまま忘れ、オフィスに足を踏み入れようものなら、警備員さんに見咎められ、それはそれは大変なことになります。

顧客情報が流失しないよう、携帯の中身を全てチェックされてしまうのです。

個人的なメールのやり取り、保存していたお気に入りの画像や動画、電話帳、メモ機能…etc.

『お気に入りの画像・動画』に関しては、男性の携帯には見られたくない類のモノが含まれているケースが多々ありまして、男性諸氏は「ケータイ持ち込むとヤバいコトになる!」と、戦々恐々としておりました。

そんなある日、15分休憩を取るために席を立ったワタクシ、トイレと自販機に寄るつもりで、お財布とIDカードを持ってモチケンを問題なくパスし、オフィスを出ました。

トイレを済ませ、自販機に寄った時に気付いたのですよ。

(お財布!!お財布がない!)


何しろ制服にポケットが一つもないので、トイレの個室の奥の段になっているところに置きっぱなしで出てきてしまったのです。

慌ててトイレに取って返しましたら、幸いお財布は置いたところに鎮座しておりました。

急いで自販機に向かいまして、お金を…と思ったら、小銭がなくてですね、ならばお札を…と思ったら、一枚もないのですよ。

ワタクシ、子供の頃からお小遣い帳をつけるのが日課で、普段からお財布の中にどれくらい入っているのかは把握しておりまして。

小銭はともかくとして、お札が一枚も入っていないはずがなく、記憶が正しければ、3.5諭吉は入ってたのです。

そこでようやく、気付きましたよ。

(お金だけ抜かれたんだ!!)


お財布の中には、お金の他に大切にしていたモノが入っておりまして、慌てて確認するとそれらは無事でした。

しかしですね、何しろ3.5諭吉を失ったショックは大きく、とぼとぼとオフィスに戻りましたよ。

ショックでショックで、仕事中も凡ミスを連発して叱責され、泣きっ面に蜂でございました。

その後、食事休憩の順番が回ってきましたが、何しろ文無しなので食べ物も飲み物も買えず。

休憩室で文字どおり頭を抱えておりましたら、SV(スーパーバイザー)さんが声をかけて下さいまして。

「アレ?せきじゅんさん食事休憩でしょ?メシ食わないの?」

言おうか言うまいか迷いましたが、このままあと2時間ちょい、腹ペコ青虫状態で労働するのは厳しいと思い、事情を説明しましたよ。

「自分がいけないのですが、そんなワケでお金がないのです…」

すると、予想に反してSVさんに、このように叱責されたのです。

「お金、盗られたの?しかもそんなに…何で早く言わないの!?」


「えっ?だって、盗られたのは私の不注意で、自己責任…」

と、途中まで言いかけたのですが、SVさんにさえぎられまして。

「とにかく直ぐに上に報告しなきゃ!一緒に来て!」

(なぜゆえお金を盗られた挙句、SVさんにまで叱責されねばならんのだ?)

と、泣きっ面にスズメバチ状態でしたが、一緒に来いと言われたので、追いかけるようにしてオフィスに戻りまして。

『上の人』にもう一度、事情を説明しましたら、またしても激しく叱られましたよ。

「あのね、ここがどういう職場なのか分かる?個人情報を扱ってるの!そこにね、泥棒が居るってどういうことか分かるよね?」

「すみません、あまりよく分かりません…」

「もちろん、どんな職場でも泥棒はいけないよ?でもね、個人情報を扱う部署だからこそ厳重に警備してるし、そういう人は排除しないといけないの!これはね、せきじゅんさん一人の問題じゃないんだよ、分かるかな?」

昔から飲み込みの悪かったワタクシですが、そこまで説明されて初めて事の重大さを感じ、なぜSVさんに叱られたのかも腑に落ちました。

「盗まれたのは、お金だけ?金額は?他に盗られたものある?」

「いえ、お金だけです。小銭とお札…3万5千円ちょっとです」

憔悴しきってそう告げると、その『上の人』が、

「とにかく大変だったね。そんなには貸せないけど、いくらか用立てるから食事しておいで。今から1時間、出てきていいから」

そう言って5千円札を一枚、渡して下さいまして。

ワタクシ、叱られたショックなのか親切にしていただいたからなのか、自分でもよく分かりませんでしたが、涙がちょちょぎれそうになったのでした…。

『ホウレンソウ』とはよく言ったもので、何かあったら報告、連絡、相談なのだなあ…と、改めて実感しましたよ。

そして何でもかんでも『自分の責任だから』と自己完結してしまうのは良くないのだな、ということも学習したワタクシなのでした。

その後、防犯カメラの数が増え、警備体制がより物々しくなったのは、言うまでもありません。

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