各点収束と概収束の話

毎度、なんか面白いテーマを提示いただいたので考えてみた。

さて、知識としては知っていたがどこで見たか定かでない話、どう煮詰めようか? とりあえずセットアップしてみよう。

空間の設定

以下、Xは非空な集合、Yは距離空間とする。Yを位相空間として議論してもいいのだがここでの主題は距離化可能性だったので、あまり意味がない。Yの距離はd(y_1,y_2)で表す。ここでFをXからYへの関数の為す空間とする。問題はFについての位相である。

一様収束位相

Fの列(f_n)がfに一様収束するとは、

sup{d(f_n(x),f(x))|x∈X}→0 as n→∞

が成り立つときである。いま距離ρを

ρ(f,g)=arctan(sup{d(f(x),g(x))|x∈X})

と定義すれば(arctan(∞)=π/2とする)、これが距離の公理を満たすことは簡単にわかり、明らかに一様収束はこの距離での収束である。よって一様収束はF上では距離化可能である。

ちなみにarctanを取った理由は、supを取った結果∞になる可能性があり、∞を値として持つ関数は距離とは見なせないというだけの理由である。もし有界な関数に限定して話をするなら、arctanは取る必要がない。

広義一様収束位相

簡単化のためにXがR^Nの閉部分集合であるとしよう。F上の列(f_n)がfに広義一様収束する(または、コンパクト収束する)とは、任意のコンパクト集合Cに対して、f_nのCへの制限がfのCへの制限に一様収束することを言う。一見抽象的だが、C_k={x∈X|x_i≦k for all i}と定義して、

ρ(f,g)=Σ_k2^{-k}arctan(sup{d(f(x),g(x))|x∈C_k})

として距離ρを定義するとなんとこの距離がこの収束と対応する。証明もそれほど難しくない。

ちなみにこの位相は距離空間でなくとも議論する方法が知られていてコンパクト開位相と呼ばれている。詳細はwikipediaの次のページを参照。

https://en.wikipedia.org/wiki/Compact-open_topology

各点収束(可算集合)

Xが可算集合だとする。このとき、Fの各点収束には距離による位相と対応する。Xが有限集合{x_1,...,x_k}であったときには、

ρ(f,g)=Σ_id(f(x_i),g(x_i))

が各点収束と対応する距離である。Xが可算無限集合{x_1,...}だった場合には、

ρ(f,g)=Σ_k2^{-k}arctan(d(f(x_k),g(x_k)))

が距離の役割を果たす。どちらも簡単に証明できるのでここでは詳述しない。

各点収束(非可算)

Xが非可算集合だった場合、各点収束は距離付けできない。ただし、何らかの位相には対応している。実際、Xの有限部分集合{x_1,...,x_k}とYの開集合{U_1,...,U_k}に対して

U={f∈F|f(x_i)∈U_i}

と定義し、このUが開集合になるような最小の位相(直積位相と言う)を定めると、各点収束はこの位相での収束と対応する。証明は容易。ところが、Xが非可算という仮定からこの位相は第一可算公理を満たさないので、距離付けできない。

概収束

上のツイートへのリプライとして概収束に対応する位相が存在しないというのがあったのだが、その根拠がいまいち僕にはわからなかった。一応検索してみるとそれっぽい結果があるのだが、その証明があやふやで、正しいかどうかがわからない。一応、正しいと思える証明を作ってみたので、チェックしてもらいたい。概収束を議論するので、Xは確率空間である。また、Yは可分な距離空間であるとしておく。

仮に、概収束と収束概念が一致するような位相が存在していたとする。このとき、その位相におけるFの部分集合Cが閉であることの必要十分条件は、C上の任意の収束有向点族(f_ν)の極限fがCに含まれていることである。集合Cが上の条件を満たしていたとしよう。いま、C上の点列(f_n)がfに確率収束していたとする。確率収束する点列は概収束する部分列を必ず持つ(Dudley (2002)の定理9.2.1)ので、fはCの要素でなければならない。したがってCは確率収束に対応する位相(これはKy Fanの距離の下で距離空間になる)の下でも閉集合であることがわかった。補集合を取ると、概収束の位相における開集合は必ず確率収束の位相における開集合である。したがって特に、確率収束していれば概収束していることになる。ところが実際には確率収束し概収束しない関数列は簡単に作れるので、これは正しくなく、よって概収束に対応する位相はない。

以上の証明には問題点がひとつある。つまり、最後の「確率収束し概収束しない関数列が簡単に作れる」かどうかである。この問題は実はけっこう厄介で、Xの確率空間としての構造に依存する。特に、たとえばXの可測構造が有限分割から誘導されるものであった場合、確率収束と概収束は一致するはずである。ということは、どう好意的に捉えても、「Xの構造次第では、概収束と確率収束は一致しない場合がある」ということまでしか言えないと思われる。そしてもし概収束と確率収束が一致するならば、概収束はKy Fanの距離で距離付け可能である。

というわけで、質問

「概収束が確率収束と異なる」ためのXの測度構造についてのわかりやすい条件、知ってる人がいたら教えてください。以上。

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