改めて告知&予告

この前J.Math.Econからacceptされた論文が出版されました。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0304406820300719?via%3Dihub

内容を簡単に説明する……できるかな……まあいいや、簡単に説明すると、効用最大化問題の逆問題みたいなものに関する問題です。

普通の効用最大化問題を解けば、我々は需要関数を計算することができます。効用関数があまりに複雑だときれいに計算はできないかもしれないけれど、少なくとも効用関数を用意して、それに対応する需要関数は、一つしかない。これは当たり前なんだけど、recoverabilityってのはこの逆を考える。

すなわち、与えられた需要関数に対応する効用関数が一つしかないための条件はなんだ? というのが、この問題だ。

考えてみればカリブレーションだって、基本的に効用関数は直接推定できてない。あれで推定しているのは需要関数の対応するパラメータなわけで、「効用関数と需要関数が一対一に対応しているクラス」に限定しているから、それがそのまま効用関数のパラメータを推定していることになるってだけ。だけどたとえばコブ=ダグラス効用から需要関数を出して、その需要に対応する「まったく違う」効用関数があったりすると、このへんあやふやになるよね。それはどういうときに起こって、どういうときに起こらないのか、というのを研究するのがこの分野。

んで、マスコレルがすでに1977年に、なんの条件もないと、二つの異なる好みを表す「普通の」効用関数で、対応する需要関数を計算すると完全に一致しちゃうものが存在することを示している。ここで言う「普通の」というのは、「連続で、狭義準凹で、増加的な」という意味。彼はその論文に、需要関数が「income-Lipschitzian」という条件を満たしているとこのようなことは起こらない、というのを証明しているんだけど。

今回の論文で僕は、顕示選好の強公理は満たす(だからなにかの選好に対応している)需要関数で、「income-Lipschitzian」の条件を満たしているけど、そもそも「普通の」効用関数に一切対応しないような需要関数の例を二つ挙げた。マスコレルの結果は「普通の」効用関数についての命題なので、「普通の」効用関数に一切対応しない需要関数にはこれは使えない。

で、僕は次に、「普通の」効用関数の基準を弱めた。「連続」を「上半連続」に変えた。するとそういう効用関数の存在定理が出せて、それどころか計算する方法まで提示できる。これを使って、マスコレルの結果を「上半連続な」効用関数のクラスにまで拡張した……というのが、だいたい上の論文のあらましです。

というわけで、興味があったらオープンアクセスなんでぜひ読んで下さい。

これに関連して、最近顕示選好理論の知識についてあまりみんなよく知らないような気がしているので、それをまとめた連載とかしようかな、と思ってます。乞うご期待。

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