目が厳しかった話

 実はいまでも若干厳しい。けどまあ、noteのエディタ見てなんとか普通に見える程度には回復したので。

 この話の発端は2年前に遡る。たしかウィーンの学会から帰ってきたあたりから、妙にパソコンの画面がまぶしいという症状に襲われていた。調べてみると「羞明」という症状らしい。
 調べてみると「ベンゾジアゼピン眼症」などという名前の病気が指摘されているらしく、僕が服薬しているソラナックスを長期に飲んでいると眼瞼けいれんとかいう病気になるという怖い話だった。なお、現在僕はこのベンゾジアゼピン眼症という病気の実在自体を疑っているが、その話はいったん置いておく。とにかく、その時点ではかなり有力だと思っていた。
 で、眼科に行ったけれどもただのドライアイという診断。ドライアイの薬なんぞつけてもなにもよくならなかったのだが、それしか出してもらえない。すぐに行くのをやめた。まだこの段階では、文章を書くときに目をつぶってしまう・目を酷使するゲームがやれない、という程度の不便さだったので、まあいいかと放置していたのだ。
 コロナの関係でマスクをしているとメガネが曇るという別の問題もあって、しばらく気づかなかったのだが、よくよく考えるとこの時点で外を歩いているときも目が見づらくなっていた。具体的には、駅で柱にガチで激突したことがある。目をほとんどつぶった状態で歩いていたからだ。
 当初考えていた「ベンゾジアゼピン眼症」については、まずかかっている心療内科の先生から「聞いたことがない」と言われたこと、眼科からも眼瞼けいれん系の症状は否定されたこと、グーグル検索しても信頼できるレベルのデータ検証をした論文があるように見えないことから、かなり疑わしいと思っていた。それでも、気になるは気になるし、最近は精神自体は安定していると思っていたので、ソラナックスをだいぶ少なくしていた。ここ一年、一日0.2mgしか摂取しないのが常態であったと思う。
 今年の5月始め、症状が悪化した。歩いていても目を開けられないレベルになってきたので、さすがにヤバいと思って眼科を再度受診したがやはりドライアイとしか診断されず。こんなにきついのに……ということで、ソラナックスを完全に切っていた。さらに眼科からは老眼の始まりの可能性を指摘されたので、ためしにメガネを作り直したりもした。それでもまるで改善しなかった。
 ふとここで気になったのが、授業中は目が気になったことはほぼないということだった。この症状には見覚えがある。大学院生の頃、パニック障害になったばかりの頃に、発表時以外は苦しくて死にそうなのに、発表時だけはなんの問題もなかった。そこで疑ったのが、この疾患が不安障害の類であるということである。この種の障害がわかりやすい自覚症状を伴わないことが多いのは、実体験で知っていた。そこで、上のやり方を改め、まずためしにソラナックスを一日0.8mgに増やしてみた
 結果、劇的に目の症状が改善した。

 というわけで、心療内科案件だったということのようです。
 現状の目は、noteの真っ白背景の画面でこれを書いていてもちょっとまぶしいな程度で済む。歩いていても若干まぶしいけどきついとは感じない。このレベルまで回復している。
 当初インターネットで調べて見つけた「ベンゾジアゼピン眼症」については、以下の三つの理由により、その存在自体を疑っている。

1)提唱しているのは眼科系の臨床医がほとんどのように見える。そもそも、検索によって公的機関の注意喚起や学術論文が検索でほとんどヒットせず、代わりに眼科医のHPにおける記述がやたらと出てくる。慢性疾患について客観データを取りにくいという問題をある程度加味したとしても、学術的裏付けがあまりにも薄弱ではないかという疑いを抱かざるを得ない。
2)そもそも上記の眼科医のHPでの記述で特に有害だとしてやり玉に挙がっているのはデパスなのだが、デパスはベンゾジアゼピン系ではない。にもかかわらず「ベンゾジアゼピン眼症」という名前をつけること自体が理解に苦しむ。ベンゾジアゼピン系への悪口が言いたかっただけなんじゃないのか、あるいは衒学的な名前をつけて患者に悪いイメージを抱かせようとしているんじゃないか、という強い疑いが残る。
3)この症状について記述されたHPを調べると、ほとんどが眼科医によるものである。ベンゾジアゼピン系薬剤を処方する心療内科側のHPに当該症状の記述はほぼ見つからない。加えて、ベンゾジアゼピン系薬物の副作用一覧にも記述がない。そもそも僕がかかっている心療内科の先生はこの症状の存在自体を知らなかった。僕は臨床医の経験則を軽視はしていないが、ベンゾジアゼピン系薬剤の処方に関する経験を多数有している科で知名度が低いということは、そんな症状はあったとしても非常にレアケースなのではないかという疑いを抱かざるを得ない。

 そもそもの問題として、僕のように心療内科的要因で目の症状が出ること自体はけっこうな数ヒットする。その種の人々がソラナックス・メイラックス・サイレースあたりのメジャーな薬物による薬物療法をやっているのはほぼ当然である。したがって眼科的症状と上記薬物の服用に因果を伴わない相関が出る可能性は十分にあるが、それを注意深く調べた論文なり解説記事なりは僕がざっと調べた範囲では一件も見かけなかった。このあたりの事情もあり、僕は現在ベンゾジアゼピン眼症なる症状の存在自体を疑っている。
 もしこの記事を見ている人で、僕と同様に謎の目の病気に襲われている人がいたら、抗不安薬や睡眠薬が原因とは考えない方がいいんじゃないか。逆に増やすことで解決した実例ならここに一件あるよ、ということで。
 今回の話は以上です。

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