arXivに新しい論文を二本目

https://arxiv.org/abs/2202.04573

はい、アップしました。

やっぱりまだ誤植とか一切取ってないんだけど、それはそれとして若干の解説を。

この論文の内容はタイトルにあるように準線形経済で均衡価格の一意性と安定性が言えたという話なんだけど、この論文の売りはなんといっても、やはり均衡の一意性だと思う。

古い研究から最近の研究に至るまで、基本的に均衡の一意性を補償するためには、経済そのものに仮定を課すのではなく、経済から導出されたものに仮定を課すのが一般的である。最も有名なのは、超過需要関数に対して、粗代替性か顕示選好の弱公理を課すこと。ついこの前J.Math.Econを通っていまダウンロードランキング2位の論文ではオファー曲線に仮定を置いていた。このあたり、昔から変わっていない。

で、なんでこうなるかというと、均衡価格がたくさん出てくる例が普通にCES型効用の二人二財純粋交換経済の中にすら存在するからなんだな。(MWGの問題15.B.6)このレベルの経済ですら一意性が言えないということは、つまりみんなが納得できるほど弱い条件で、均衡の一意性を補償できる条件がまるで知られてないということなんだけど。

ところが部分均衡だと、普通需要関数は右下がりで供給関数は右上がりだ。だから均衡は一意になる。あれ?

なんでだろうと思って調べてみた結果、出てきたのが上の結果です。部分均衡の裏側には二財準線形経済がある。じゃあL財準線形経済でも同じように均衡価格の一意性が出るのでは? と思って計算した結果出ちゃいました、というのがこの論文。

以下、テクニカルに難しいところを書きます。まず準線形経済の特徴はニュメレール財の需要が端点に来る状況だと壊れます。だからそこを壊さないために、普通の文脈だとニュメレール財については負の消費を許して議論する(上の論文はそのケースと、そうではないケースの両方を扱っている)けれども、そうすると今度は消費集合の下からの有界性が言えなくなる。これがどんな影響を与えるかというと達成可能配分の集合のコンパクト性が言えなくなって均衡の存在定理が怪しくなります。実はこの経済、均衡の存在すら自明ではないのだ。

じゃあどうするかっていうと、達成可能配分の中で「全員が初期保有よりも高い効用水準を達成している」点の集合のコンパクト性を示す。均衡配分が存在すればそれはこの集合に絶対入っているので、代わりにこれを使って証明してやろうってわけだ。これが補題6。

純粋交換経済だとこれでもう準備はできていて、なぜかというと超過需要関数Xに対して均衡点での条件

DX(p^*)=Σ_iS_i(p^*,m_i^*)

が成り立っているから(S_iは消費者iのスルツキー行列)。スルツキー行列の性質はかなりいろいろ知られていて、それを使うことで任意の均衡価格の「指数」が+1であることを示せる。すべての均衡価格の指数が0でないのでこの経済は正則であり、よって正則経済のよく知られた定理から、この経済の均衡価格の指数の合計は+1になる。が、全部+1で足しても+1だから均衡価格はひとつしか存在できない。これでこの場合は証明できる。

問題は生産を入れた場合だ。強い仮定を入れればもちろんいろんなことが言いたい放題なのだが、今回はあまり強い仮定は入れたくない。いろいろ悩んで、供給関数が微分可能になるような仮定は入れないことにしたが、そうするとかなり技術を要する証明が必要になる。

まず、上で述べたように供給関数が均衡価格で微分可能であるときを考えると、純粋交換経済と同様にして超過需要関数Xに対して

DX(p^*)=Σ_iS_i(p^*,m_i^*)-Σ_jDy^j(p^*)

を得ることができる。ここでy^j(p)が生産関数。で、ホテリングの補題から生産関数は利潤関数の勾配ベクトル場であり、利潤関数は凸関数なので、上の関数は実はスルツキー行列の足し合わせから半正値定符号行列を引いたものになっている。だからさっきの技術が全部使えて、やはり均衡価格はひとつしかない。

問題は微分可能でないとこのロジックが使えないことで、この場合利潤関数π^j(p)に対して軟化子での近似を均衡点の付近だけで考えて、その軟化子での近似を利潤関数と見なした新しい経済における超過需要関数もどきに上のロジックを適用して、均衡価格の一意性を示す。のだが、そのためには、均衡価格の近くでちゃんと近似できなければならない。そして複数の近似が入れ子になる状況はまずいので、まず最初に示さないといけないのは均衡価格の集合が離散集合になることである。

そして、純粋交換経済ではおまけのように示されていた均衡価格の局所安定性がここで必要になるわけだ。つまり、任意の均衡価格が局所安定であれば、当然ながら均衡価格の集合は離散集合になる。そこでそれを先に言ってしまおうということだ。無限小解析をうまいことやることで、なんとかリャプノフ関数が作れて、証明の構築に成功した。それが上の論文。

……いやー、力業だねえ。

そんなわけで、とりあえずアップしておきます。あ、言うまでもなくまだ精査してないので間違いが残ってるかもです。重大なミスはないとは思ってるけどね。じゃ、そういうことで。

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