熊本から世界へ!再春館製薬所の挑戦 - Shopify導入がもたらした変化
ー 池端さん、東さんの自己紹介をお願いします。
池端:2015年株式会社再春館製薬所に入社しました。2023年度より海外事業部 DX推進室のマネージャーとして、海外事業部のデジタル基盤構築を行っています。2024年度からは台湾事業部マネージャーを兼務しています。
東:2023年株式会社再春館製薬所に入社しました。入社直後からグローバルサイトのシステムプロジェクトマネージャー(PM)および海外事業部横断のデータ分析基盤構築のPMとして推進中です。
ー 海外展開で大事にしているマインドはありますか?
池端:1974年から(今年で50周年)ダイレクト・テレマーケティング・システムのパイオニアとして販売してきたドモホルンリンクルだからこそ、人と人とのつながりを大切にし、お客様の声を大事にしてお客様それぞれのお悩みに寄り添い、親身になってアドバイスを行ってきました。
「海外のお客様に対しても、日本のお客様と同じ品質の商品とサービスを提供する」ということにとことんこだわり、2011年海外事業をスタートしています。その考えを大切にしながら海外事業を進めてきましたが、変化が激しい市況で生き残るためには、守るべきものと変えるべきものを見極めることが必要と感じています。見極めは難しいですが、お客様を軸に判断したいと考えています。
Shopifyの導入について
ー テレマーケティングを主軸としているビジネスモデルでShopifyを採用することは難しかったのではないですか?
池端:2011年の台湾進出以来、再春館製薬所の強みである日本と同様の電話CRMシステムを海外に導入するため、フルスクラッチでサイト開発を行っていました。しかし、開発を重ねるにあたってシステム自体が複雑化し、現場メンバーが使いこなすのに時間がかかってしまったり、機能追加に数ヶ月の開発工数を要している状況がありました。そうした中で、新規事業的な位置づけである海外事業がこのままのスピード感でうまくいくのだろうか?という危機感を持っていました。
過去、ECプラットフォームを活用したシステム基盤再構築について検討したこともありましたが、テレマーケティングを行うためのCRMシステムとの連携を最優先事項としていたのでリニューアルを見送ったことがあります。
しかしながら、海外事業を取り巻く状況は刻々と変化しており、また、社内DXを委ねられている立場でもあって、改めてShopifyの採用を検討し始めていました。そんな中で、CEOから偶然Shopifyを使ってみてはどうか?という推薦もあり、リニューアルを再度本格的に検討することとなりました。以前私がスクラッチに近いパッケージサービスを利用してサイトを運営していた経験もあり、Shopifyのエコパッケージの魅力を理解していたこともあります。
また、一番売上が大きい国内事業ではなく、海外事業におけるテストからスタートする計画だったので、最悪失敗しても取り戻せるだろうという思惑もありました。
その結果、ユニバーサルスタンダードな機能を兼ね備え、かつ高速でPDCAを回し、“チャレンジが創出しやすい基盤を構築する”ことができるカートシステムは「Shopify」であると考え、まずは越境対応のためのECサイトをShopifyで再構築する決断をしました。
ー Shopifyを使ってみて変わったことはありますか?
池端:一番変化を実感したのは、PDCAサイクルを回すスピードです。プロモーションの実行なども、以前は3か月程度を要していたものが最短で即日実行できる。まさに“チャレンジが創出しやすい基盤”であると思います。
今までのシステムは複雑な構造であったため、システムのことはシステム担当者、お客様対応はお客様対応部署、マーケティングやデータ活用は企画職と各業務が分かれてしまっていましたが、徐々に分断が取り払われていることを感じます。
Shopifyを選択したことによりいい意味で制約がかかっている状況で、スクラッチ時代と比較して、部門間で、限られた選択肢の中で折り合いをつけるための歩み寄りのコミュニケーションが生まれるようになりました。スクラッチの時代は開発するか、しないかだけを判断すればよかったので、その結果、部門間で軋轢が生まれてしまうこともありました。今は、共通の課題に対してどう取り組むべきか?を社員一丸となって議論することができるようになってきています。また、お客様対応部署の社員がShopifyレポートを見て企画立案から、顧客セグメントを使いこなすなど、一気通貫の取り組みが生まれるといったこともありました。
東:以前の弊社の状況と比較して、現場のプリーザー(注:再春館製薬所内でお客様対応をする方々のこと)もマーケティングデータやレポートなどを閲覧できるようになったことで、プリーザーたちにも当事者意識が育まれており、とても良い変化だと感じています。今はまさにデータ分析基盤構築も進めているので、データを深く掴み、データドリブンな組織環境が整いつつあるので、この変化を加速させていきたいと思っています。
Shopifyそのものはもちろん優れていますが、あくまでもツールとしての話であり、それを利用してどのような絵を描きたいかは自分たちが考えるべきものです。プロジェクトマネージャーとして、ここまではシステムで解決できるが、ここはシステムに合わせてルールを変えていく必要があると会話しチーム内で合意を取り付けるように今は意識づけています。
VIP - 会員プログラムの導入について
ー 今回、「VIP - 会員プログラム」をご導入いただいたグローバルサイトの役割を教えてください。
池端:グローバルサイトは、現地法人を設立していない国を対象に日本の本社からEMSやFedExの海外配送サービスで世界中のお客様にドモホルンリンクルを届ける越境ECモデルのサイトです。
ー このタイミングでロイヤルティプログラムをスタートすることにした理由はありますか?
池端:再春館製薬所では「自然とつながり、人とつながる明日を」という理念を掲げ、年齢による悩みに向き合いながら、一人ひとりのお客様を末永く支えていくことを大切にしています。末永いお付き合い=CRMの継続につながる取組の1つとして、期限付きのポイントを発行し、非売品の限定アイテムと交換できるようにしていたりします。こうすることでドラッグストアなどどこでも購入できる商品ではなく、自社で購入いただく理由を作っています。
2023年の3月に、グローバルサイトをShopifyへリニューアルした際、以前のスクラッチのサイトで実装できていたポイント交換サービスの実装は諦めていました。購入時に付与したポイントを非売品のプレゼント品へ交換するという仕組みを検討する中で、「非売品のプレゼント品へ交換する」部分がネックで、Shopifyでは実装できないという判断を下しました。
当時はギフトアプリを利用して、特定の条件を満たした場合に商品交換をできるといった形で妥協してサービス提供をしていましたが、リニューアル後お客様から「リニューアル前と同じように、自分で貯めたポイントを自分の好きなタイミングで、自分の好きな商品と交換したい」というお声が多く寄せられている状況でした。
Stack社が提供している「VIP - 会員プログラム」の導入は、情報収集も兼ねて熊本から東京で開催されたShopifyのイベントに参加した際、フリーディスカッションの時間でたまたまStackの営業の方と名刺交換し、現状の悩みを吐露をした際に、「え、それはShopifyでもできますよ?」と言われたことがきっかけです。
台湾サイトの刷新も見据えていたので、ロイヤルティプログラムがモバイルアプリと共存できること、お客様対応を大切にしているから私たちだからこそ、お客様対応のCSツール「チャネルトーク」との連携が構築されていたことが最終的に導入の決め手となりました。
ー 導入してから数ヶ月程度ですが、既に効果が出ていれば教えてください。
東:待望されていたポイントプログラムの復活という事で、会員様の注文を中心に注文数は前月比:+139%と大幅に伸び、CVRも前月比+ 3.50%となりました。一方、ボーナスポイントの消化をしたいという思いから低単価での注文になりAOVは減少していました。今後も引き続き経過観察していきます。
ー リリース後、お客様の反応を受けて改善した内容や今後注力していきたいことはありますか。
東:現在はVIPのポイントプログラムの導入に留まっているため、グローバルサイトにおける共感(惹きつける → 信頼関係を築く → 満足させる)を醸成する新たな価値作りを目的にロイヤルティ制度の進化を検討していきたいと思っています。
また、ポイントプログラムの導入効果は長期にわたって計測が必要なためどのような形で効果測定をすべきかKPIの策定とその方法を定める必要があり、Stack社にも伴走いただきながらデータドリブンな活用を推し進めていきたいと思っています。
今後の展望や再春館製薬所の考えるパートナー選定について
ー 外部の会社とお仕事なさる上でここが基準になっているというポイントはありますか?
東:受発注の単なる取引関係ではなく、海外事業で目指す未来に共に進んでいけるパートナーシップを築けるかどうかを重視しています。人と人とのつながりを大切にしているからこそ、求める機能与件が難しい事も正直あるので、「できません」で終わらず、になんとかできるやり方を一緒に作っていける信頼関係をまずは作ることを大切にしています。
もう少し具体的にお話すると、小さな課題に対してどのように向き合ってくれる方なのかを見ています。事業会社側の目線を持って対応してくれているか?ですとか、自社サービスのことを理解しているか?は当然ですが、最終的に自分たちの会社に対してどうやって使えるかという提案ができるかどうかは重要です。よくある問答なのですが、費用対効果の質問に対して、「やってみなければわからない」といった曖昧な回答ではなく、担当個人としてはどう思っているか?という意見を持って接してくれることなどは重要視していますね。
池端:私はどちらかというとエモーショナルな部分を意識しています。例えば、会社の歴史や商品、カルチャーに興味を持ってくれている担当か?ですとか、発注者とベンダーが衝突した際に歩み寄れるか?同じ思想を持っているか?という点などを会話の節々で感じ取るようにはしています。
ー 会社や、海外事業部の今後の展望についてお聞かせください。
池端:海外事業に関しては、まだ当社の中で大きな柱とまでは育っていないのが現状で、将来的には全事業トータルの売上高(約300億円)の1/3の100億まで規模を引き上げていきたいと考えています。
東:まずは注力国として1国、台湾事業を成長軌道へ転換するため、グローバルサイトと同様のShopifyを採用した仕組みに作り変え、“チャレンジが創出しやすい基盤を構築する”ことをスタートに取り組んでいきたいと考えています。次にトライする台湾サイトはテレマーケティングの比率が大きいので、グローバルサイトの成功事例がそのまま横展開できるわけではないですが、ここで成功を収めることができるか?は会社にとって非常に大きなターニングポイントになると思っています。
池端:合わせて国内で展開している食生活や睡眠など、スキンケア以外のいきいきとした人生を送るためのグッドエイジングを応援する新ブランド「Lashiku(ラシク)」等の新しい商材やこれまでの海外で培ったノウハウを活かした新規事業も加えてトータルで規模を拡大していきたいと考えています。
編集後記
取材で熊本に飛び、再春館製薬所本社を訪れました。最初に案内された「歓迎館」に並んでいる胡蝶蘭を見て、初めて、再春館製薬所がドモホルンリンクルなどの商品だけでなく、バトミントン競技で世界大会に出場する選手を排出するなど、スポーツ事業にも力を入れていることを知ります。地元に雇用を生むだけでなく、世界で活躍する人材をも輩出する。そして今後は、商品も世界へ進出していきます。
新規事業の位置づけである海外事業メンバーは、同時に社内DXに取り組むという多忙ぶりですが、現在のところ、順調に進んでいるように見えます。背景には、システムに応じて柔軟に要件変更を行っていることがありそうです。私の知る限り、多くの企業でDXが進まない理由は、「うちはこの方針だから」という固定観念に屈することにあります。プロジェクトに関わるメンバーがこの固定観念を覆し、意思決定できる組織は強力です。池端さんと東さんは社歴も全く異なり、性格もロジカル×エモーショナルで真反対のように見えますが、だからこそ良い具合にバランスが取れているように映りました。
これから海外事業部は、新たな課題に立ち向かっていくと伺っています。Shopifyがそれに対応できるか、また、関係者がシステムの制約に合わせて柔軟に対応できるか。その変革の一端を担う者として、最大限の支援をしていきたいと思っており、今後の同社の展開が楽しみです。
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Stackについて
Stack Inc.は、SaaS型小売基幹システム「SQ」と、Shopify機能拡張の提供を行っております。2021年4月にブランドがモバイルアプリを構築・運用できる「Appify」を、2021年10月にブランドがロイヤリティープログラムを展開できる「VIP」を正式にサービス公開し、機能の改善・拡大を続けてきました。今ではStackが提供するサービスは200以上のマーチャントで導入されています。