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くし形切りのトマト

私の母は、トマトをくし形切りにしていた。物心ついた頃からそうだったから、それが当たり前だと思っていた。

だから、結婚して、夫が、トマトを輪切りにした時は、驚いた。なんか、食べにくいし、お皿にもおさまりづらそうだった。

でも、私の仕事が夜7時までになって、その時は私の帰りが遅くなるので、夫が夕食を作ってくれることになった時はありがたかった。そういう時に、輪切りトマトが出現したのだ。

それから、しばらく、私がトマトを切る時はくし形切り、夫がトマトを切る時は輪切り、という日々が続いた。

結局、うちでのトマトの切り方は、トマトを半分に切って、それを輪切りにする(半月切り?)という折衷案のようなものに落ち着いた。

先日、実家に行く機会があって、その時、妹と姪っ子が料理を作ってくれたのだが、その時に、トマトがくし形切りで出てきたので、不思議な感慨があった。

妹は、共働きで子育てと仕事を両立させて、地方公務員なのだが、管理職になっている。

でも、きっと、料理をご主人にやってもらうことなく、自分で引き受けてきたんだろう。残業があっても。

だから、トマトもずっとくし形切りだったんだろう。そして、自分の子どもにも、トマトはくし形切りだと教えたんだろう。

うちは、毎日ではないとはいえ、夫に夕食を頼むことになった。

それでよかったんだろうか。遅くなっても私が作るべきだったんだろうか。夜遅くなる時は、朝出かけるのも遅いので、朝早いうちに夕食の準備をするべきだったんだろうか。

お前が遅くなる時は、俺が作るよ、っていう夫の言葉に、単純に甘えてしまったのは、本当は料理がちょっと苦手だったから、渡りに船だったということだったのか。

昨日、午後出かけていて(仕事ではない)、帰って疲れて、なんとなく夫に夕食作りを頼みたかったけれど、夫に「夕食作り、お願いね」と言われてしまった。

でもやっぱり疲れていて、もう一度、夫のところに行ったら、「適当にできないの?」と言われてしまった。

台所に戻って、夫にもなんとなく腹が立ったし、夫に甘えることに慣れた自分にもなんとなく腹が立った。

そして、お腹がぺこぺこだったので、冷蔵庫からトマトを取り出して、くし形切りにして丸一個、食べた。

あーそうそう、やっぱりトマトはくし形切りだよね、切りやすいし、食べやすい。間食だけど、野菜だから、いいよね!

小腹を満たして、夕食を作るエネルギーをもらうことができた。

これからもたまには、間食に、トマトをくし形に切って食べるかもしれないな、と思った。



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