見出し画像

この夏に札幌で聴いた大感激のコンサート。


札幌に住み始めて約一か月。この間に僕が通ったコンサートの話題を少し。
 
1990年にバーンスタインが始めたPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)は、札幌の夏の風物詩としてすっかり定着しているようだ。
タングルウッド音楽祭のように、オーディションで選ばれた国際色豊かな若手演奏家が札幌に集い、ウィーン・フィルやベルリン・フィルの教授陣からみっちり絞られる。でも彼らはへこむことなく、あくまで陽気に音楽を楽しみつくす。東京では何度か聴いたことがあったので、今度はぜひ札幌芸術の森で行われるピクニック・コンサートに行ってみたいと思っていた。

念願かなったその日、札幌はこの夏一番の好天だった。

鬱蒼とした森の中にそこだけ繰り抜かれたような屋根付きのステージがある。ステージの前には椅子席が並び、その背後のなだらかな丘に芝生席が存在する。13時。開場とともにクーラーボックスやテントを持参した家族連れが次々と芝生席を埋めていく。

野球場みたいなところかなと想像していたが、実際はそれほど広くない。いちばん後ろの席からでもステージの指揮者が確認できるほど。

まずは小曽根真が推す若手のミュージシャンによるジャム・セッション。女装のトランぺッター、松井秀太郎の繊細の音とテクニックにいきなり参ってしまった。次はHBCジュニアオーケストラのスッペとチャイコフスキー。休憩をはさみ、いよいよPMFオーケストラの登場だ。

小曽根真をソリストに迎えたプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番はもちろんノリノリだった。でもやっぱり、ブラームスの交響曲第2番をここで聴けたことは最大の収穫だ。

夏の屋外で聴くには申し分のないこの曲。静かな部分になると、周囲からセミの声や子どもたちが遊ぶ叫び声が聞こえてくる。そこがまたなんとも心地いい。指揮のラハフ・シャニはイスラエル・フィルを率いている新鋭。初めて聴いたが、躍動感のあるテンポと正確な仕切りで見事にメリハリをつけていた。

最後の和音が鳴り終わったのは17時前。まだ日はさんさんと降り注いでいる。ときには夜の帳が下りる中で聴きたいものだ思いながら帰路に就いた。
 
「男声合唱団ススキーノ」は地元ではちょっと知られた合唱団。結成22年目で現在の団員は80名ほど。平均年齢は70歳ほどだろうか。細かいことはさておき、歌うことの魅力に取りつかれた男たちの威勢の良い声はこちらの心をほくほくさせてくれる。この夜は唱歌や民謡が中心だったが、僕は「虹と雪のバラード」にいたく心を揺さぶられた。50年前に生まれたこの曲をいま札幌で聴くことになろうとは。奇をてらわない「ススキーノ」のおかげだろう。ちなみにこの夜は「札幌カルチャーナイト」という、いろんな公共施設を開放して行われたイベントの一環だった。こんな取り組み、素敵じゃないですか。
 
そして先週、札幌文化芸術劇場hitaruで札幌交響楽団の定期を聴いた。指揮は首席指揮者のマティアス・バーメルトの予定だったが、コロナ感染により、急遽下野竜也が代役となった。

この下野さんが素晴らしかった! メインはブラームスの交響曲第1番。終始早めのテンポでぐいぐい押してくる。曲の各所にある「決め」の個所でぴったりはめてくる。それでいて歌わせるところは存分に歌わせる。終楽章のコーダの金管の咆哮などはその最たるもの。もはや中堅どころの下野さんだが、もっと注目されてもいいのではと思った。

こんなふうに思ったのは晩年の岩城宏之を聴いたとき以来。そう、かつて札響を愛した岩城さんみたいだったのだ……。
 
自宅からわずか30分で豪華なコンサートが聴ける喜び。札幌はこれから秋にかけて、ますます芸術の色に染まっていく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?