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感情コストと企業活動

過去は、感情コストを度外視し、機械的な作業で仕事をすることができた。しかし、徐々に機械的な作業はコンピューターがすることになった。ルーティンは減り、新しい仕事を、新しい気持ちでする必要がある。

過去においては、軍曹のような上司が、部下に考えさせないようにして、作業をさせて、収益を上げていった。大量生産、大量消費の時代においてはそれでよかった。

これに対して、今の社会においては、大量消費、大量生産が否定されている。シェアリングエコノミー、サーキュラーエコノミーは、まさに真逆の動きである。

過去のやり方、つまり、鬼軍曹が部下に考えさせない行動をとれば何が生まれるか。思考停止である。感情コスト、すなわち、頭が考えないように、又は、リスク回避に動くように、心が動く場合、柔軟な発想は思い浮かばない。

遅刻しそうになって動揺しているときに良い考えが浮かぶ人は稀である。その人たちは日々考えていたのであり、日々に余白があったからである。しかし、日々考えていない人にとっては、考えること自体が苦痛であり、急場になってよい発想などなおさら思い浮かぶことはない。

感情コストは、「自分が思い浮かぶ想定」と「外部的な状況」が異なり、かつ、自分では解決できないものの場合に発生する。企業は、財務データその他で表出されないものに関心を持つことはめったにない。

惰性こそが効率化であり、惰性について疑いを持つことはない。同調圧が優先されて、疑問に思うことは遮断されている。遮断されていない場合は、転職の一字が思い浮かぶことになる。

この点と法務は何が関係するのか、理解できない人もいるだろう。

企業改革をするには、この惰性と同調性がボトルネックであり、その打破をするためのストーリーが必要になる。

労働法上、労働の定義は労働者性をベースにされる。

1・2を総合的に勘案することで、個別具体的に判断する。
1 使用従属性に関する判断基準
(1)指揮監督下の労働
①仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、

②業務遂行上の指揮監督の有無、

③拘束性の有無、

④代替性の有無
(2)報酬の労務対償性
2 労働者性の判断を補強する要素
(1)事業者性の有無
①機械、器具の負担関係、②報酬の額
(2)専属性の程度
(3)その他

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これを見る限り、ルーティン及び同調性を要する仕事は指揮監督下、専属性があるものの方が好ましい。これに対して、自由な発想は、以下の状況下では、期待できない。

(1)指揮監督下の労働
①仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、

②業務遂行上の指揮監督の有無、

③拘束性の有無、

ちなみに、心理的安全性は、メンバー同士の関係性で「このチーム内では、メンバーの発言や指摘によって人間関係の悪化を招くことがないという安心感が共有されている状況」である。労働契約においては、そもそもその心理的安全性が脅かされやすい環境にある。だからこそ、労働法は、労働者の権利を保護する観点がある。

心理的安全性を損なう原因になる事項として以下のものがある。これらはチームワークの際、不安になる事項である。

「(1)無知だと思われる不安(Ignorant)
質問や確認をしたくても「こんなことも知らないのかと思われないか」と不安になり、その結果、気になることがあっても質問しづらくなってしまいます。

(2)無能だと思われる不安(Incompetent)
ミスや失敗した時に「仕事ができないと思われるのでは」と不安になり、自分の失敗や弱点を認めなかったり、ミスを報告しなかったりするようになります。

(3)邪魔をしていると思われる不安(Intrusive)
自分が発言することで「話の邪魔をしていると思われないか」不安になり、提案や発言をしなくなっていきます。

(4)ネガティブだと思われる不安(Negative)
改善を提案したくても「他の人の意見を批判していると否定的に捉えられるのでは」と不安になり、現状の批判をしなくなったり、意見があっても言わなくなったりします。」

(3)と(4)は、まさに、同調性からくる圧力であり、創発性を損なうモデルである。(1)と(2)はまさに若手に対して押し寄せる危険及び不安であり、変化の兆しを阻害する要因となる。これらに染まった仲間は、変革をするためには、これらのグループから早々に離れる必要がある。まさに、転職要員か、新規事業に所属し、心理的な安全性を一から確保する必要性がある。

勿論、社会においては、ルーティンは99%であり、変化を望んでいない。そうしたエリアであれば、大量生産・消費モデルで十分通用する。しかし、そうしたエリアはコモディティ化し、低額になるため、創発性を発揮し、価値のアップや転化をしない限り、閉塞感が発生する。

利益を上げるモデルこそが、創発性を生み出す余剰であり、余剰がない限り、心理的安全性は確保できるものではない。Googleモデルは、利益が多く出てくる余裕から発生するものであり、それらがより創発性を生み出し、結果的により高い利益率を確保することができる。

とすれば、創発性と利益向上は鶏と卵のような関係に見え、ベンチャーその他はジレンマに陥る。しかし、創発性が先であり、利益向上は後である。その理由は、利益があったとしても、創発性は生まれるものではない。創発性は、それぞれの仲間たちが工夫を凝らすことであり、利益を生み出そうとする気概である。それがあれば利益向上はある。これに対して、利益向上しても、心理的な安全性が確保されなければ、創発性はなく、継続的な付加価値向上は難しい。余剰は、創発性が作り出したものであり、その余剰により、よりチャレンジができるというスパイラルがでるだけである。

こうした重要な事項であるにもかかわらず、財務データに出ないため、創発性は無視をされ続けている。過去と同様の手法で、仕事をするだけになり、利益だけが見られている。そこには余剰はなく、チャレンジしにくい環境になる。

チャレンジをするためには、感情コストを費消できる余剰を見出す必要がある。その余剰を万が一見出すことができない場合、外部の人間が入り余剰を見出し、その外部から生み出された余剰を使い、同調圧と不安の防波堤を作り、新しい分野に入り込む必要がある。

以上の通り、感情コストは、利益の源泉であり、その感情コストの余剰をどのように作り上げるかが、経営者にとって肝になる。

そのための仕組みづくりを以下の通り記載する。

1)不機嫌な人間を隔離する

不機嫌な人間は、周囲に余分な感情コストを増加させ、創発性を奪う。よって、早期に創発性が阻害されないように、黙認等せずに、処理をする必要がある。

2)期待値のズレが発生しない仕組みづくり

期待値のズレが発生し、話者と聞き手にコンフリクトが発生しやすくなると疑心暗鬼が発生する。聞き手は話者の言いたいことなど聞きたくない。話者は、相手が分かっていると勝手に勘違いする。両方の期待値のズレが、組織を不信感と不安感に陥れる。

聞き手のトレーニングが必要になる。聞き手は、自分の仮説を速やかに立てて、話し手に伝えて、フィードバックを出す必要がある。その点を怠り、成果を出す段階でズレが大きいと徒労に終わる。

3)上司部下という安易な考え方をやめる

指揮監督は、現場の発想を否定し、盲目的に指示をする可能性がある。上司は目的と成果を査定する仕事であり、部下は現場で何があったのかを把握し、共有し、目的と合目的的な成果を上げる仕組みを作ることである。

上司は、その働きを阻害しないように、協力し、状況を作り出すことである。つまり、サーバントリーダーとしてやるべきことはたくさんある。上司は、部下が成果を出すことを補助する役割であり、部下は上司がその上司に報告しやすい仕組みを整えることである。

もし、そうした関係性に阻害が発生すると、経営者や上層部は正しい判断ができず、利益ダウンの結果責任を負うことになる。

これらの仕組みを担保するためには、適切なガバナンスを設置する必要があり、その大前提としては①透明性と風通しを高めること、②現場が言える環境を作ること、③経営者が正しい判断ができるという信用性を高めるための「目に見える効果」を出すことであり、そのためには現場を重視しつつ、現場ユーザーの心の傾きと社会の人々の心に神経質になることである。

以下のスパイラルを描く以上、法律関係者は心理的安全性と感情コストについて無視するわけにはいかない。むしろ、不祥事や不正が起きないようにする、正しく判断をするためには、心理的な安全性を重視する必要がある。

心理的安全性損なう→(経営者及び現場の人の判断間違う)利益損なう→余剰がなくなりより心理的安全性を損ない、言えない環境になる→不正があっても見ぬふりになる→不正が隠蔽される→市場から消える

感情コストを減らした会社が結果的に利益を生み出し、余剰を生み出し、より大きなチャレンジができる環境になる。とすれば、儲ける法務においては、心理的な安全性の強化が不可欠であり、それを中心に戦略的にコンプライアンスと社会におけるムーブメント、契約締結、コミュニケーションまで考えていく必要があることになる。



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