妻とお財布と僕
僕が妻と出会えたのはお財布があったから。
僕が妻と結婚できたのはお財布があったから。
妻が、これほどに愛しく思える人間に育ったのはお財布があったから。
気持ち悪いほどの妻愛とお財布愛を綴ってしまって自分でもびっくりしましたが、事実です。
そう、僕は、妻を愛すということを誓うと共に、お財布を愛すことを誓ったも同然なのです。
Twitterなどで、お財布のことだったり、妻のことだったりをtweetするも、自分が何者なのかを語る機会がなかったので、改めて自己を紹介したいと思いました。自己紹介をしつつ、これからの僕らの未来をこのnoteを読んでくれた方々に見守って欲しいと思っています。どうぞお付き合いください。お財布の未来を、一緒に考えて欲しいのです。
つらつら書いてしまったら、4000字越えてしまいました。今一番伝えたいことは、最後の見出しを読んでいただければ伝わると思います。
妻との出会い
静岡県は裾野という、御殿場と三島に挟まれた平和な町に生まれた僕はいつしか、エンターテイメントを支える仕事に興味を持ちました。そしてカクカクシカジカ、舞台照明を専攻して学ぶことができる大学へ進学します。平和に平凡に暮らした年少期ですね。ただ、母親に山へ捨てられそうになるという強烈エピソードがあるのですが、これはこの話だけでnoteが書けてしまうので需要があれば。(愛情深い母親です)
で、大学で妻と出会った訳です。
大学一年生が終わるころ、妻と付き合いはじめました。
付き合ってからしばらく経って、妻の実家、家業のことを聞きます。
これがその、お財布屋さんなんですね。
妻とのお付き合いも順調に(何をもって順調と表現するのかわからないが)大学生活を送っていました。
大学はとっても良い環境だったので、舞台を学んだり、芸術ってものをかじったりするうちに、昔から興味のあった映像の分野に行きたいと思ってしまったんです。なので、大学4年間は舞台を学びつつも映像を学んだり広告を学んだりして、CM制作会社に就職しました。舞台は好きで今でも見にきます。早く劇場に行きたいな。
この就職のタイミングでは、妻の家族ともかなり仲良くさせてもらっていて、就職先の相談とかもしていました。そんな時に、妻とご両親と、焼肉屋さんに行ったんです。そこで、うちで働いてくれたらな〜と言ってもらえたことがありました。めちゃくちゃ嬉しかったのを覚えています。だけど、僕はやりたいことがあったので、その場ではしっかり断ってしまいました。
妻との結婚
社会人になった僕はそれはそれは充実した生活をしていました。憧れていた業界で働けたんですもん、辛いことは山ほどあったけど、毎日楽しく(今思えばね)暮らしていました。でもある時ふと、なんでこの仕事をしているんだっけ、って思ってしまったタイミングがあったんです。果たして僕は何に重きを置いて生きているのかということを真剣に考えることがありました。当時妻は沖縄に住んでいました。沖縄の小学校で働きながら。で僕は次の休みには会いに行こう、プロポーズしよう、という考えに至っていました。(唐突)
綺麗な海でシュノーケリングを2時間もしたり、おいしーいご飯を一緒に食べていたりする中で、誰かと生きるってめちゃくちゃ良いなって改めて思ったのを覚えています。シュノーケルの跡を笑いあったり、美味しい共感ができる時間が僕にとっての幸せなんだなって思ったんです。
で、結婚しようね、ってなるんですけど、(スムーズにいってよかった)
ここで一番の難問。仕事どうしようね、という問いがのしかかります。のしかかるっていう表現は適切ではないけれど、僕ら当時24歳。まだまだ自分のためだけにやりたいことがあったと思うんです、お互いに。この時のお財布屋さんの状況はというと、たくさんの人が同じタイミングで退職してしまって、困ってしまうくらい人がいない状況だったそうです。
一緒に働こう、そう言ってくれたのは妻でした。
僕が好きになった妻は、お財布屋さんを営むお父さんお母さんに育てられ、そのお父さんも、そのまたお父さんも、そう。
お財布屋さんという生き方が、妻を形成しているんだ。僕が惚れた、妻が発する素敵な言葉の1つ1つのルーツは、辿って行ったら120年前にお財布を作って売ることをはじめた1人の人から始まっているんだな、って思ったら、なんていうか、絶対途絶えさせちゃいけないっていうのはもちろんなんだけど、感動してしまったんです。
もちろん、今生きている人みんな辿って行ったら大昔なんだけど、この僕の目の前に与えられたストーリーの続きが、こう言っちゃあれだけど、絶対面白いでしょ!ってものだったんですね。さーて、来週のサザエさんは状態。
さーて、来週の山本さんは?
しょういちろうです。沖縄から戻ったら上司にすぐ報告して、そこから半年後に退職して結婚してお財布屋さんになりました。
さて次回は、「お財布屋さん、なったは良いけど何するの?」「お財布屋さん、コロナに負けねぇ」の2本です。
実はここからが本題です。
お財布屋さん、なったは良いけど何するの?
僕の仕事は、お財布を作って販売するまでのあれこれです。今は、社長である父のもと、夫婦で跡継ぎ修行をしています。仕入れた革を裁断したり、加工したり、裏地と呼ばれる生地を用意したり、ということを今はやっています。縫製とかはまだ練習するくらいで、周りにいるこの道何十年というベテラン職人さんたちの仕上げるお財布を見てはその美しさに感動している毎日です。
最近はECも担当しています。お財布をインターネット経由で購入するハードルを下げたい。日々そう思っています。
「良いお財布を適正価格でお届けする」こんなことをモットーに日々仕事をしている訳ですが、お財布って今やスーパーで1,000円で販売していたり、100円均一にも売っていたりしますよね。もちろん、そのようなお財布も立派なお財布なんですが、どうしたら僕たちのお財布を買ってもらえるのか、どうしたら「なんか違うな、、良いな、、」って思ってもらえるか、というようなことを考えています。
僕たちのお財布はいわゆるブランド品では無いです。だけど、ブランド品に勝るものがあります。それは、素材だったり、技術だったり、想いだったり。ブランド品ももちろんかっこいいですし、すごい上品質のものもあるんだけど、なんでこの値段なんだろうと思ってしまうことが正直あります。その疑問に対する答えが、適性価格です。あんまり言うと怖いのでこの話はここまでで。
お財布屋さんになるまでは、どのようにしてお財布が作られているかなんて、考えたこともありませんでした。実際なってみるとすごく面白いんです。奥深い。作り方も、売り方も、歴史も。
歴史という観点からみると、お財布はできてからまだ日が浅い。お金の文化というものとリンクしてくるので、書き出したら面白くなっちゃうのでまた機会があれば。
お財布の歴史と共に、弊社の歴史がまたすごいということが、働き始めてからわかりました。東京で一番古いお財布屋さんらしいのです。(らしいのです。業界の方々と話すとそう言ってくれますが、証拠が無いそう。)
順番はともかく、最初の話、僕がなんで妻と結婚してお財布屋さんになろうと決意したのかという話につながりますが、妻には120年お財布を作り続けている人たちの血が流れているという訳です。先祖代々引き継がれてきたものづくりの精神と、その人間性、それらが妻という人間を作っている。(もちろん、妻が考えることやこれまでの経験が妻を作っている)そんな妻を好きになった僕は、妻を愛すと共に、妻のルーツであるお財布を愛するのです。
お財布の未来
お財布屋さん、コロナに負けねぇ
近頃の僕たちには、富士山よりも高い、されど越えなければならない大きな大きな山があります。
「新しい生活様式」
(3)日常生活の各場面での生活様式
買い物
□ 電子決済の利用
お金の概念が、文化が、変わろうとしています。
現金というものがなくなるかもしれない。
現金がなくなったらもちろん、今の現金を入れる形のお財布はなくなります。
「財布の紐が緩む」僕はこの言葉が好きです。この言葉にはお財布の歴史が詰まっているから。日本ではもともと、巾着に小銭を入れて持ち歩く文化があった。から、紐なんですよね。現金に慣れ親しんできた日本人が今でも使うこの「財布の紐が緩む」という言葉が、何十年後かには、財布??紐??なんでこの言葉が無駄遣いとか、ついついお金を使っちゃうって意味なの??と言われるようになるかもしれない。
でも、この言葉の矛盾、《今のお財布には紐が無い》それが証明してくれているのは、お財布は時代によって形を変えてきたということです。
お財布の形が変わっても、「お財布のファスナーが緩む」とは言い換えなかった。変わらなかった。そこには日本人が大切にしたい何かがあると思うんです。
僕たちはこれからのお金の付き合いかたと共に、お財布の形を変えていきたいのです。もしかしたら、お財布というものがそもそも要らなくなってしまうこともあるかもしれません、その時はその時だとは思いますが、少なからず今は、これからのお財布を作りたい。
今のお財布というものを未来の子供達が見て
「おじいちゃん、なにそれ!!ちっちゃい鞄?」って聞いたら、
「おぉこれは昔のお財布でな、ここがこうでこうで、こんなに優れものだったんだよ。今のお財布はこうだけど、ここがこう進化して今の形になったんだ。お財布を作る人ってのは今も昔も変わらず真摯にものをつくってんだな」
って、言ってもらえる、お金を大切にしまうその心に寄り添ったものづくりを続けたいと、思っています。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!
読んでいただいたあなたがあなたのお財布を手にしたときに、そのお財布がどうしてあなたの手元にやってきたのかを考えてくれたらとってもとっても嬉しいです。大事な方からのプレゼント、ここぞというときに買ったお気に入りのもの、いろいろあると思いますが、じゃあプレゼントしてくれた人がどんなところでどんな風に買ったのか、このお財布を作った人はどんな人だろう、そんなことまで考えてくれたらめちゃくちゃ嬉しいです。
難しい話のような、シンプルな話のような。
とりあえず、 結婚を期にお財布屋さんになったとある男の紹介と、このコロナ禍にどんなことを考えたのかというnoteでした。
ずっと書きたかった自己紹介ですが、今回 #キナリ杯 という場をおこがましくも拝借してモチベーションあげて書くことができました。スッキリしました。
そういえば冒頭に登場した僕の母親ですが、僕が働くお財布屋さんのこと知ってたんです、僕が結婚する前、働く前に。
「実は付き合っている彼女のお家が、お財布屋さんでね、」って話をしたときに、「え、なんていうお店?聞いたことあるな〜。」と。不思議なもんですね、このとき、縁ってあるのかもなって思いました。
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