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彼女の誕生日に送った手紙(原文のまま)

拝啓

誕生日を迎えた君へ

お誕生日おめでとうございます。同じ屋根の下で暮らすようになってから、社会人になってから、お互いに初めての誕生日を迎えましたね。

23歳になった今、どんな気持ちでしょうか?

先日の僕の誕生日に、君は「誕生日感ある?」と聞いてきました。確かに「大人になるにつれて誕生日のワクワクが薄れてくる」というのは誰しも感じることでしょう。誕生日におもちゃが欲しい、ゲームが欲しい。一週間も前から楽しみで寝られなくなる、という気持ちは年々僕もなくなってきました。

しかし、それとは反比例するように「おめでとう」という言葉をかけてもらえる事が、嬉しくなってきたな、というのが僕の所感でした。遠くへ行ってしまった人から来る連絡、普段あまり話さない人からの言葉。そういう小さな事が嬉しくなりました。プレゼントが楽しみで、「おめでとう」の声なんか耳に入ってこなかった幼い頃からすると、大きな、良い変化だと思います。

この間の僕の誕生日に、君にもらったメッセージカードは財布にしまっていて、ちょくちょく見返したりなんかします。

なので気恥ずかしさもありますが、手紙を書くことにしました。長い文章になる予定です。君が文章を読むのが苦手な事は知っていますが、たまには気張って読んでみるといいでしょう。

手紙を書くのがいつぶりか覚えていますか?確か大学の1年生の時だったはずです。あの頃はよく喧嘩していたな、と思い出します。今となっては良い思い出、と言えるようなことでもないですが、時にはそうやって誤魔化すのも大人になるという事だと思います。

君と付き合ってから今まで、僕はプレゼントで何回か失敗をした記憶があります。

君は優しいので「そんなことないよ」と言ってくれるかもしれませんが、いつかのクリスマスにあげた、指先がゴッソリ無い、サトシがポケモンバトルの時につけるような手袋は、今思い出しても自分で苦笑いしてしまいます。手袋の役割を放棄した手袋でした。他にもあげてから君が使っているところを見た事がないスピーカーなど、王道をあえて外す事で、見事に結果としても外したことが数回あったかと思います。

さて今回のプレゼントですが、きっとこの手紙を読む前に開封してくれたことでしょう。

Apple Watchです。

結局、相手がいつかポロっと「欲しい」と言ったものをプレゼントするのがセオリーなのだと僕は学びました。僕だってもう大人なのです。

しかしこれをプレゼントするにあたって、ある問題が浮上していました。

プレゼントをApple Watchにすると決め込んだ先週の事でした。それとなくApple Watchの事をググった僕の目に飛び込んできたのは

『Apple Watch series7 発売決定』という記事でした。

しかもよく読んでみると「2021年10月8日 予約受付開始」と書かれているではありませんか。それは紛れもなく、君の23歳の誕生日だったのです。今年の君の誕生日プレゼントは、君が受け取ったその瞬間、すでに型落ちとなる事が決まっていたのです。戦う前から負ける事が決まっている八百長試合、エコー写真で見た胎児が既にブサイク、そういう具合です。

しかし僕は10月8日、君にApple Watchをあげると腹に決め込んでいました。というか正直なところ、新製品を買うほどの予算はなかったのです。構うことなく仕事終わり、エディオンに向かい、Apple製品のコーナーに向かいました。

対応してくれたのはややカタコトながら、日本語を喋る事ができる中国人の店員さん。寝巻きのようなみすぼらしい格好をした僕に対しても、丁寧に接客をしてくれました。

しばらく悩んで「この色にします!」と言い切った僕に、中国人店員は「エディオンのカードを作れば3000円分のポイントがはいるアルよ。」と提案してきました。

作ろうじゃないか、3000円は馬鹿にできない。3000円あれば君とラーメンを食べに行って、二人ともセットで餃子とチャーハンをつけられる。

「ぜひ作ります。」

僕がそういうと、間髪入れずに中国人店員は「クレジットカードだけどいいアルか?」と言った。

クレジットカードは正直聞いていなかったです。僕はクレジットカードを自分で作る手続きをしたことがなく、少し怯みましたが、この勢いを止めることができませんでした。

「クレジットカード作ります。」

そう言うと、あれよあれよと言う間にエディオンのレジ横のテーブルに座らされ、君の誕生日プレゼントを買いにきたつもりが、いつの間にかクレジットカードを作ることになっていました。

おまけに中国人店員に「クレジットカードの審査に、万が一落ちてしまったら、その時は、すみませんフフフ。」と半笑いされる始末。寝巻きみたいなみすぼらしい格好をした僕を嘲笑うかのごとく。君の誕生日プレゼントを買いに来ただけだったつもりが、いつの間にか、社会における信用を測られる事となっていました。

出されたお茶を飲みながら、かれこれ30分ほど契約書を書きました。そして世帯人数の欄に「2人」と書きました。思いもよらず、こんなところで、君と同棲しているという事を改めて実感しました。

どうでしょうか?一緒に半年ほど暮らしてみて。楽しいですか?

僕は楽しくて幸せな毎日です。

家に帰れば君がいて、僕が家で待ってると君が帰ってきて、僕が作ったご飯を食べてくれて、僕が言ったことで君が笑ってくれる生活です。ときどき意見が食い違って少しだけ言い合いになることもあるし、僕が酔っ払って迷惑かけたりすることもありますが、ふと夜目覚めた時に、君が横にいる生活は、思っていたよりもずっと幸せです。感謝しています。いつもありがとう。

そう思いながらクレジットカードの契約書を書き終えました。中国人店員がやってきて「ラッピングはどのデザインにするアルか?」と尋ねてきました。1分ほど悩んで僕は花柄の包装紙に決めました。すると間髪入れず中国人店員が「次はテープを選んでいただくんですが、この包装紙なら、シンプルなこのテープアルね。」と勝手にテープを決めました。これにて、このプレゼントは僕と中国人店員の共同作品となりました。

なにはともあれ、無事にプレゼントは購入でき、きっと今、君が受け取ってくれたはずです。

Apple製品には、2年間修理代が保証されるAppleCare+というサービスがあります。しかし予算の関係上、そのサービスは省くことになりました。申し訳ない。でも君ならきっと、このApple Watchを丁寧に扱ってくれると信じています。だってそこには僕からの数え切れない愛があるのだから。それが本当のAppleCare+なんだよ、と心の中でスティーブ・ジョブズが囁きました。すみません、予算がなかっただけです。

それでは、手紙が長くなってしまいましたが、改めてお誕生日おめでとうございます。仕事はしんどいかもしれないけれど、毎日楽しいことばかりではないかもしれないけど、ダイパリメイクは駄作な予感がするけれど、君ならきっと今年も良い一年にできるはずです。これからも仲良くやっていこうね。

                                   敬具

サポートして頂いた暁には、あなたの事を思いながら眠りにつきます。