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遠くない未来に、いつか来る



「お父さんの食道がんの内視鏡手術が終わりましたので報告しておきます」
ある冬の日、母から来た一通のLINEから始まった。


健康診断で胃カメラを飲んだ父に癌が見つかり、あれよあれよと地域の大病院を紹介され、内視鏡手術を行ったとのこと。
「ラッキーだったの。いつもはバリウムなのにたまたま胃カメラを飲んだら見つかってね」
なんて母は言っていた、けれど。

結果、内視鏡手術で一箇所だけ深い病変が見つかってしまい、すべて取りきることが出来なかった。
そのため食道を切って、胃で再建する手術を行うことになった。
手術は8時間から10時間。私たち家族にとって長い一日になるだろうと覚悟はしていた。

朝の8時過ぎに手術室に向かう父を見送る。
そこから17時まで。おおよそ9時間の手術時間だった。
主治医から手術結果の説明を聞く。

「見立て通りで、他に深くなっている場所はありませんでした。あとは取った組織を病理に出して、リンパ節転移があるかどうかを再度確認します。
転移があった場合は抗がん剤治療となります」

父の切り取った食道の写真を見た。
病変部は1cmくらいだったと思う。たった1cmの病変が、家族の未来を左右する。

しばらく待って、ICUで眠っている父と面会できることになった。
人工呼吸器をはじめに、全身管だらけで、機械に生かされて眠っていた。

どうしてか分からないけれど、ショックで涙が出た。
遠くない未来にいつか来る、父の死を想像してしまった。


どうしてか、昔から亡骸を見ることが怖くて怖くて仕方がない。
亡骸は、あまりにも生きていたその人とはかけ離れてしまっていて怖いのだ。
生命活動が止まっているのだから当たり前だと頭では分かっている。分かっているけれど、それでも怖いのだ。


to be continued.

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